生活が荒れたら認知症?
94歳男性の、認知症病型診断及び評価の依頼を受けた。
94歳男性 年齢相応かな?
(記録より引用開始)
初診時
(現病歴)
現在は奥さんと二人でケアハウス入所。奥さんの入院をきっかけにひげ不精になり、生活が少し荒れてしまった。主治医が認知症と判断し、イクセロンパッチを処方。規定通りに18mgまで増量。
主治医意見書更新に当たって、病型診断と現状評価の依頼。
(診察所見)
HDS-R:17
遅延再生:1
立方体模写:OK
時計描画:OK
クリクトン尺度:19
保続:なし
取り繕い:なし
病識:?
迷子:なし
レビースコア:施行せず
rigid:なし
幻視:なし
ピックスコア:施行せず
頭部CT左右差:なし
介護保険:要介護1
胃切除:なし
歩行障害:なし
排尿障害:なし
易怒性:なし
(診断)
ATD:
DLB:
FTLD:
MCI:
その他:
年齢相応かな?礼節を保ち、保続や取り繕いはない。語義失語、パーキンソン症状などもない。遅延再生こそ低いが、年齢を考慮しても積極的ATDの診断とはならないかな。
イクセロンパッチが規定通りに18mgまで増量されているが、副作用や掻痒感はないようだ。
継続するなら低用量に落とすよう、紹介元に情報提供。
(引用終了)
男とは切ない生き物である
「やさぐれる」を調べてみた。
1 家出する。宿無しの状態でふらふらする。 2 《「ぐれる」と混同したものか》すねる。ふくれる。また、無気力で投げやりになる。(コトバンクより引用)
つまり、奥さんに頼る生活をしていた超高齢男性が、奥さんの入院をきっかけに「やさぐれてしまった」ということだったのではないだろうか。このようなケースは多く見かける。
その後、奥さんと仲良くケアハウスに入居してからは、特に目立った周辺症状なく経過しているようだ。
この変化を、「イクセロンパッチの効果」と考えるか、それとも「奥さんと一緒の生活に戻ったから」、と考えるか。
かかりつけからの紹介状には
奥様が骨折のため入院して一人暮らしになると、食事もとらず(焼酎は飲む)、内服も出来ず、ひげは伸び放題。受け答えや会話は普通に出来ていましたが、認知症と考えイクセロンパッチを処方し経過をみていました。
とあった。
抗認知症薬を処方する理由としては如何なものかと思う。
アリセプトではなくイクセロンパッチであったことがせめてもの救いだが、このような処方の仕方は、容易にトラブルに繋がってしまうリスクを孕んでいると言えよう。
規定通りに18mgまで増量されていたが、家族に確認したところ
薬の増量に従って、何か改善していった感じはしない。母が退院してきてから、いつもの父に戻っていったと思う
とのことであった・・・
18mgのイクセロンパッチで副作用が出ていないことを考えると、アセチルコリンの量が少なくなっているのは間違いないのだろう。
しかし、それは病的なものではなく
「年齢相応にアセチルコリンの量が閾値下限まで下がっている状況で、奥さんの入院が引き金を引いただけ」
だったのではないだろうか。
18mgの維持投与にメリットがあるとは思えなかったので、継続するなら一旦減量してみるように返書に書いた。
減量して何かしらの症状が出現するようであれば、その時には増量すればよいのである。