アルツハイマー型認知症の診断における必須要素となる?
このたびアルツハイマー病の場合、脳から脊髄までの神経を満たしている体液「脳脊髄液(CSF)」から病気を判断できる可能性が示された。脳脊髄液は、背骨の腰の部分、腰椎の決まった場所から注射で抜き取ることができるものだ。感染症に注意を払わなければならないが、注射だけで取れるのは簡便といえる。
研究グループは、脳脊髄液に含まれている「βアミロイド1-42」「総タウタンパク質」「スレオニン181リン酸化部位でのリン酸化タウ」が、軽度認知障害のある人でアルツハイマー病を事前に診断する効果が証明されていると確認。それぞれの検査結果の使い方、解釈の方法などの基準を定めるため、アルツハイマー・バイオマーカー標準化イニシアチブ(ABSI)の会合で話し合った。
結果として、腰椎から脳脊髄液を採取して、初期の認知症、アルツハイマー病の前段階の状態、典型的ではないアルツハイマー患者の検査として採用すべきであるとの結論で合意に達した。さらに、バイオマーカーを使い方、結果の解釈、可能性として考えられうる影響を及ぼす要素についても合意に至った。アルツハイマー病の前段階を判断する基準として、前述の通り、証明済みの3つの要素の変化が参考とされることになる。反対に3つの要素が正常ならば、アルツハイマー病を否定可能となる。(アルツハイマー病検査が歴史的転機、「注射診断」可能へ、欧州専門家会合が合意に達する | Medエッジ )
タイトルに「注射診断」とあり、一瞬?と思った。
注射とは針を刺して体内に薬剤を注入する行為であり、このタイトルだけ見ると「注射で体内に薬剤を注入し、何らかの反応が起きる、またはそれを測定することでアルツハイマー型認知症を診断する」ということなのか?と考えたのだが。
読めばすぐに分かるが、この記事を書いた記者が、
針を刺すこと=注射
と単純な勘違いをしているだけであった。こういう初歩的なミスは、特に医療系記事を扱う場合には誤解を生みやすく注意すべきである。ひょっとしたらタイトルで釣る「釣り記事」なのかもしれないが。
アルツハイマー型認知症を発症させるリスクのあるもの
何故アルツハイマー型認知症を発症するのか。発症のリスクとなりうるものには、
- 糖尿病
- 高血圧症
- 脂質異常症
- 喫煙
- 運動不足
- 加齢
などが挙げられる。加齢は如何ともし難いが、それ以外は所謂「生活習慣」に関わるものであり、気をつけてリスクを減らすようにすることは可能である。
アルツハイマー型認知症患者の脳内で起こっている変化
アルツハイマー型認知症患者の脳内では、以下の2つの変化が起きている。
- 老人斑形成(Aβ42蓄積)
- 神経原繊維変化(リン酸化タウ蓄積)
Aβ蓄積を阻害してもアルツハイマーの症状改善には繋がらないことが分かってきたため、現在はリン酸化タウに対する薬の開発に注目が集まっている。
脳脊髄液による診断を、積極的に考慮してもよいケースとは
「軽度認知機能障害(MCI)」が疑われ、かつその方の希望があった場合に限って、脳脊髄液を調べてみるのはいいかもしれない。
さすがに、採血検査と同じ感覚で腰椎穿刺をバンバン行うのは困難である。また、やってみたら分かるが認知症患者さんに腰椎穿刺を行うことは、医療者及び患者さん双方にそれなりのリスクを伴う行為である。
また、既に何らかの認知症を発症していることが明らかな方の髄液採取を行い、その結果上記3要素全てが陰性であればアルツハイマー型認知症を除外出来るのだろうが、一つでも要素が入り込んでくると、話がややこしくなるだけのような気もする。
そして、一患者=一認知症疾患とは限らないということも大事。複数の認知症疾患を合併しているようなケースにおいては、髄液検査の結果がむしろ診断を混乱させることに繋がりうるのではないか。
記事内でも主にアルツハイマーの初期段階や前段階での検査という位置づけのようなので、間違っても認知症患者さんに対するルーチン検査とならないことを願う。