初診後3週間で見違えるように改善したが、薬剤増量で徘徊が起きてしまった方を御紹介。
81歳男性 アルツハイマー型認知症疑い
(記録より引用開始)
初診時
昨年10月から、自動車の運転などできなくなった。徘徊も一時期あったが、今は落ち着いていると。
HDSR:10.5
遅延再生:1
立方体模写:不可
時計描画:不可
保続:あり
取り繕い:なし
病識:あり
迷子:夜は怪しい
レビースコア:4
rigid:なし
ピックスコア:2
頭部CT左右差:なし
クリクトン尺度:39
介護保険:要介護4
胃切除:次回確認
(診断)
ATD:〇
DLB:△
FTLD:
MCI:
その他:
レビー小体型認知症成分の多いアルツハイマー型認知症で考えておく。表情は暗く、視線が合わない。歩行時に手を振らない。
レミニールで易怒性亢進し、中止の過去あり。
イクセロンパッチ開始。レンドルミン併用。
初診から3週間後
おだやかになった、暴力がなくなった。デイサービスを全く嫌がらない。レンドルミンでしっかり眠れている。
イクセロンパッチ著効例。右上肢でrigidあり。歩行は安定。4.5mgで継続。掻痒感なし。
更に4週間後
全体的には好調を維持。
眠剤がないと落ち着かない。ショートステイで落ち着かない。帰ってきてから怒りっぽくなり放尿したりすると。前頭葉機能がストレスで低下するパターン。
イクセロンパッチを増量してみましょうか。掻痒感はない。夕方になると、「お客さんが来る」と布団をしく。これには抑肝散で対応。
増量から10日後
予定日より大幅に早く来院。
イクセロンパッチを9mgに増量したが、その数日後から徘徊が始まった。怒りっぽくなった。奥さんの腕には痣が出来ている。夕方になると来る「お客さん」のことは言わなくなったと。これは抑肝散効果だろう。
入室時の足取りはしっかりしているが、手は振らない。視線も合わない。返事はしっかりするが。
イクセロンパッチを一旦中止に。その場で貼っていたパッチは剥がした。4日後に再診。落ち着いていたら4.5mgで再開かな。眠剤はベンザリン7.5mgにしてみる。
更に4日後
徘徊と易怒性が収まらない。家族は疲弊しきっており、入院させて欲しいと。
近くの精神科病院に保護入院を依頼。
(引用終了)
治療の分岐点は?
病型診断はATDかDLBで悩んだが、結果的にイクセロンパッチ4.5mgが著効したので、治療の導入としては問題なかっただろう。問題はその後。
「ショートステイから帰ってくると落ち着かないということは、環境変化のストレスで前頭葉機能低下をきたすのか?」
という自らの考察に対して、
「では前頭葉機能を賦活すれば落ち着くのでは?」
と考えてイクセロンパッチを増量したことが、徘徊の引き金を引いたのか。
アリセプトが前頭葉ストレッサーとなり得ることは事実だが、この場合イクセロンパッチが前頭葉にストレスを与えてしまった、と考える。
イクセロンパッチの半減期は3〜4時間なので、その場で剥がして数日経過したら落ち着くだろうと考えたが、4日後では症状は治まっていなかった。
一旦前頭葉に強い負荷がかかると、薬剤がウォッシュアウトされても症状が速やかに改善しないケースがある、ということなのだろう。
イクセロンパッチ(リバスチグミン)で歩行が改善したり、活気が上昇する方達は多い。これは前頭葉が賦活されることによるものだと考えている。
しかし、陽性症状が強まっているときには、それを「前頭葉賦活」のイメージで改善させようとするべきではなく、定石通り少量の抑制系を使用すべきだったと反省した。