鹿児島認知症ブログ

鹿児島でコウノメソッドや糖質制限を実践している脳神経外科医のブログ

誰がためにワクチンは打たれる

新興感染症で世界が混乱している。

 

死者数が他の国と比べて桁違いに少ない日本でも、それは例外ではない。

 

テレビを付けると毎日のように「今日は○○人の感染者が報告されました。2週間後には・・・!!」と、ワイドショーのコメンテーターが声を張り上げている。

 

未だに感染者と陽性者の違いが分からない涼子は、テレビのスイッチを切って深いため息をついた。

 

「ワクチン、どうしようかしら・・・」

 

涼子には、ちょっと珍しい病気を持つ小学生の息子がいる。

 

いま流行っている感染症は、普通の子どもにとってはリスクは低いと言われているけれども、自分の息子にとってはどうなんだろう。

 

色々と調べては見るけれども、参考になる情報には出会えない。

 

「まだ新しい感染症ですからねぇ・・・。手洗いとマスクは欠かさずお願いします」

 

息子の定期診察の時に主治医に聞いてみたが、返ってくる答えはいつも同じだ。

 

「先生、ワクチンってどうなんですか?12歳から打てるってテレビで言っていましたけど」

 

すると、今度はすぐに答えが返ってきた。

 

「息子さんは打った方がいいかもしれませんね。小児科学会も一応大丈夫という見解のようです」

 

そうなんだ。

 

感染症のことは勿論だけれども、ワクチンについても涼子は不安だった。

 

彼女の友人たちから、副反応のことを聞いていたからだ。みんな口を揃えたように「病院や施設で働いているから仕方なく打ったけど、頭痛や発熱はかなりキツかったよ」って言ってたっけ。

 

「ところで、お母さんはまだ打っていないんですか?もう接種券は届いていますよね?」

 

「ええ・・・、近いうちに私の主治医と相談して予約を取ろうと思っています」

 

痛いところを突かれたように感じ、涼子は早々に病院を後にした。

 

その日の夜、

 

「あなたは、ワクチンどうするつもり?」

 

と夫に聞いてみた。

 

「え?そんなの打つに決まっているでしょ。オレらが子どもに感染させるわけにはいかないし。もうすぐ会社で職域接種が始まるから、そこで打つつもりだよ」

 

「そうよね・・・」

 

涼子も、いつもだったらここまでは悩まなかったに違いない。つい先日の検査で見つかった、未破裂脳動脈瘤のことさえなければ。

 

3日後、涼子は自分の定期診察の時に主治医に聞いてみた。

 

「先生、息子にうつしたくはないからワクチンを打った方がいいのかなって思っているんですけど、動脈瘤がある人がワクチンを打っても大丈夫なんですか?あと、息子もワクチンを打つべきですか?」

 

主治医の答えは明快だった。

 

「息子さんの病気が例の感染症に特別罹りやすいということは言われていません。免疫力が低下するような病気でもないので、一般に言われている以上の感染対策は必要ないですし、ワクチンも打つべきとまでは言えないでしょう。

 

それよりも、あのワクチンで亡くなっている方の死因にくも膜下出血が多いことを僕は心配しています。脳動脈瘤を持っている人は打ってはダメと言われているわけではありませんが、あくまでも個人的な見解で言うと、貴女は打たない方が良いと思っています」

 

正直なところ、ワクチンを打つのが怖いと思っていた涼子の心に、主治医の言葉はスッと入ってきた。

 

でも。

 

聞かなければよかった、と涼子は後悔した。

 

夫は、自分がワクチンを打った後は私にも打つよう求めてくるだろう。あの人は、そういうことで余り悩まない人だ。「息子のことをまず考えろ」と言われると、私は何も言えなくなる。夫の実家の両親もきっと、「孫のために打ちなさい」って言うに違いない。

 

ママ友たちの最近の話題は、どこでクラスターが発生したとか、いつワクチンを打つのか、ということばかりだ。みんな良い人たちだけれど、私が打たないって言ったらどう思うだろう?

 

外国ではワクチンを打っていても感染する人が増えているから油断するな、ってテレビでは言っていた。だったら打つ意味ないじゃんって思うけど、感染症で死ぬ確率は低くなるみたい。

 

打たずに感染したら「なんで打たなかったんだ!?」って責められるだろうから、どうせいつかは感染するなら、打っておいた方がまだ世間体としてはマシなのかな。

 

でも、ワクチンを打ってもし何かが起きたらどうしよう。

 

私に何か起きたら、息子は・・・

 

コロナで分断
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