久しぶりに経験したのでご報告。
こういった例で抗認知症薬が処方されるケースは、実は結構あるのかもしれない。
60代男性 物忘れの相談で来院
初診時
(既往歴)
断酒のための入院をしたことあり、その際にウェルニッケ脳症と言われた?
(現病歴)
たまに船酔いみたいな気分に襲われ、その後記憶が曖昧になる発作が2年前からある。
最近は数日おきに頻繁にあるとのこと。認知症を疑った妻が連れてきた。
(診察所見)
HDS-R:29
遅延再生:6
立方体模写:OK
時計描画:OK
クリクトン尺度:1
保続:なし
取り繕い:なし
病識:あり
迷子:なし
レビースコア:-
rigid:なし
幻視:なし
ピックスコア:-
頭部CT左右差:なし
介護保険:なし
胃切除:なし
歩行障害:なし
排尿障害:なし
易怒性:なし
(診断)
ATD:
DLB:
FTLD:
MCI:
その他:
頭部CTで特記所見なし。アルコール多飲の割には脳萎縮はさほど目立たず。脳波は左側有意にspikeあり。
こちらが聞いて初めて話したのだが、奥さんはご主人が急に固まって口をモグモグしているところを複数回目撃していた。
側頭葉てんかんかな。VPA開始。アルコール多飲者なのでビタメジンも。
3週間後
デパケン内服以降、発作出現なし
気分が静まった感じがすると
著効。娘の病気で自暴自棄になりアルコールに逃げていたと話す。
次回はVPA血中濃度測定を。
(引用終了)
てんかんとは?
「こどもがいきなり倒れて身体をガクガク痙攣させる病気」、というイメージを持つ人がいるかもしれない。
脳の神経細胞が異常興奮をきたし、意識障害や痙攣を起こしてしまう。これがてんかんという病気であるが、一般成人や高齢者においても普通にみられる、人口の約1%ほど存在するとも言われるありふれた病気である。
運転中にてんかん発作が起き、通行人を巻き添えにして車が暴走したというニュースを目にすると、「てんかん患者さん達は心を傷めているだろうな」と気になる。
抗てんかん薬をしっかり内服することで、8割の患者さんは発作を抑制することが出来る。
事故を報道する際には是非、「てんかん患者だった」云々よりも、「てんかんであれば内服をしっかり出来ていたかどうか」に力点を置いて欲しい。
「てんかん≒珍しくて恐い病気」
というイメージではなく、
「てんかん≒ありふれた病気だけど、薬はしっかり飲んでいたのかな?」
と視聴者が冷静に考えられるような啓発活動を、マスコミには期待したい。
ところで、てんかんに対する偏見は根強く存在する。田舎に行くほど、その偏見を目の当たりにする機会が多いのだが、以前勤務していたある地方病院の外来では
てんかん?うちの家系には、そんなキ〇ガイの血は混じっていない!!こんなことを言う医者の話を聞く必要はない!!帰るぞ!!
なんてこともあった。
「血」と呼ぶのは遺伝性の病気と考えるからなのだろうが、ほとんどのてんかんは狐発性、つまり遺伝形式を特定出来ない。こういうタイプのてんかんを「特発性てんかん」と呼ぶ。一般的にてんかんとは特発性てんかんのことである。
その他、脳腫瘍や頭部外傷などで脳が傷ついたことによって起きるてんかんは、「症候性てんかん」と呼んで区別している。区別しているが、治療方法はどちらも基本的には薬の内服である。
高齢発症のてんかんは、認知症と間違われる可能性がある
今回の方は60代なので、高齢とは呼べない。ただ、自分の経験では81歳で発症したてんかんの方がおり、その方はまさに認知症疑いということで紹介されてきた。両者に共通していたのは
- 一点を凝視して口をもぐもぐしていた
- 急に表情がうつろになることがたびたびあった
- しばらくじっとしていたと思ったら、その後無表情でうろうろしていた
- このような時以外は、全く正常である
このような訴えである。てんかんには様々な分類があり詳細はここでは割愛するが、これは「側頭葉てんかん」に典型的な症状である。
上記の様な症状があって病院を受診し、頭のCTやMRIで「何もないですね」と言われた場合、脳波検査まで受けてみられることをお勧めする。タイミングによっては異常脳波が検出されないことも多々あるが、てんかんの可能性を疑う時には念のために受けた方がよい検査である。