鹿児島認知症ブログ

鹿児島でコウノメソッドや糖質制限を実践している脳神経外科医のブログ

安易な胃薬服用は控えるべき?プロトンポンプ阻害薬(PPI)と認知症発症の関連について。

 

あちらを立てれば、こちらが立たず。

 

胃薬と認知症
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胃薬で認知症の危険性?

 

kenko100.jp

 

  逆流性食道炎のつらい胸焼けから救ってくれる胃薬「プロトンポンプ阻害薬(PPI)」だが、新たな副作用として認知症になる危険性が高まることが、ドイツから報告された。ドイツ神経変性疾患センターのブリッタ・ヘーニシュ氏らは、認知症のない75歳以上の高齢者約7万人を対象に調査を実施。その結果、PPIを服用している人ではそうでない人と比べ、認知症になる危険性が1.4倍高かったと、2月15日発行の米医学誌「JAMA Neurology」(電子版)に発表した。

 

胃十二指腸潰瘍、逆流性食道炎に対して処方される薬、PPI。商品名を挙げるとタケプロン、オメプラール、パリエット、ネキシウム、タケキャブなど。

 

一旦処方が始まると、漫然と(ダラダラと)処方されることの多い薬でもある。

 

  ヘーニシュ氏らは「PPIの服用を避けることで、認知症を予防できる可能性がある」と指摘。

 

「PPIを服用しない=認知症を予防できるかも」というよりも、「PPI内服を不必要に続けていると、認知症発症のリスクが上昇する可能性がある」という言い方が適切だと思う。

 

胃酸とビタミン、そしてPPIとアミロイドβの関係

 

認知症云々は、恐らくビタミンB12の代謝に関連してのことかな?と思った。ビタミンB12が欠乏すると、悪性貧血、脳脊髄障害、末梢神経障害などを来しうる。

 

PPIは胃の壁細胞に作用して胃酸の分泌を抑制する薬である。 

 

通常動物性タンパク質と結合して摂取されるビタミンB12だが、まず胃酸によってタンパク質との結合が外される。その後、胃の壁細胞から分泌される内因子と結合して、最終的には回腸で吸収される。

 

PPIで胃酸が抑制されると遊離ビタミンB12が少なくなり、その結果吸収される量が減ってしまうという機序が考えられる。

 

ただし、100例以上を対象とした検討では差が無かったという報告もある。*1

 

原著Abstractでは

 

  This finding is supported by recent pharmacoepidemiological analyses on primary data and is in line with mouse models in which the use of PPIs increased the levels of β-amyloid in the brains of mice.

 

という記載があり、PPIが脳へのアミロイドβ(アルツハイマー発症の原因の一つと言われているタンパク)の沈着を増やすのでは?という考察がなされていた。

 

JAMA Network | JAMA Neurology | Association of Proton Pump Inhibitors With Risk of Dementia: A Pharmacoepidemiological Claims Data Analysis

 

ピロリ菌の除菌は果たして?

 

ところで、ヘリコバクター・ピロリ感染胃炎は現在、保険で治療が行えるようになったため、多くの施設で多剤併用による除菌治療が行われるようになった。最近知ってちょっと驚いたのだが、佐賀県では県内の中学3年生全員を対象にピロリ菌に感染しているか否かの検査を行うらしい。

 

佐賀県内、中3全員ピロリ菌検査 全国初|佐賀新聞LiVE

 

 

ではピロリ菌は必ず除菌した方がよいのだろうか?ここであるドイツの研究をご紹介。

 

十二指腸潰瘍患者に対して除菌治療を行い、治療の3年後に患者の胃と食道が検査された。半数の患者は除菌に成功しており、半数はピロリ菌が残っていた。

 

ピロリ菌が残っていた群では胃食道逆流症(逆流性食道炎)が12.9%にみられたのだが、除菌が成功していた群では、なんと26%に胃食道逆流症を認めたとの結果。*2

 

つまり、ピロリ菌を除菌した結果、胃食道逆流症のリスクが上昇してしまったということ。

 

ピロリ菌の除菌とバレット食道や食道腺癌の発生率に逆相関関係が見られたという研究報告もあるので、胃癌のリスクのみを考えて「とりあえず」ピロリ除菌をすることには慎重であるべきではないだろうか?

 

ちなみに、日本消化器病学会の見解では

 

  Q.胃潰瘍、胃炎がないにも関わらずピロリ菌陽性の場合の除菌治療はどうすればよいのか? A.ピロリ菌陽性の場合は炎症細胞浸潤を有する慢性胃炎となっています。内視鏡的に潰瘍がなく、また一見胃炎がないように見えても、本当に内視鏡的にピロリ菌未感染の正常胃か否かを確認してください。正常胃の場合には、RAC(regular arrangement of collecting venules)などのピロリ菌未感染の典型的な所見が認められるはずです。このような所見がない場合でも、ピロリ菌陽性であれば慢性胃炎が生じていると考え、除菌治療の適応となります

 

とのこと。

 

人間本来の身体のシステムに手を加えることの怖さ

 

ピロリ菌にしろ最近話題の腸内細菌叢にしろ、数千年〜数万年、もしくはそれ以上の時間をかけて人間との共生システムを築いてきた。故に、それらの体内での働きには相応の役割があるように思う。「悪玉」のレッテルを貼って一方的に駆逐した場合、どこかにしわ寄せが来るような気がしてならない。

 

「胃が痛かったらとりあえずPPI」、「風邪を引いたり怪我をしたら、とりあえず抗生剤」などは、ゆめゆめご用心。安易に使うことは論外だし、一時的に使う必要があったとしても常に止めるタイミングを窺い続けるべきだと思う。

  

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失われてゆく、我々の内なる細菌
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*1:Koop, H., Bachem, MG. : Serum iron, ferritin, and vitamin B12 during prolonged omeprazole therapy. J. Clin. Gastroenterol, 14, 288~292(1992)

*2:J.Labenz et al,"Curing Helicobacter pylori infection in patients with duodenal ulcer may provoke reflux esophagitis" Gastroenterology 112(1997):1442-47