自覚的、他覚的改善が得られているようです(^^)/
50代男性 軽度認知機能障害(MCI)
初診時
(現病歴)
ここ1〜2年ぐらいで、自覚的他覚的にもの忘れが目立つ、とのこと。実家に帰省するたびに、お子さんが心配しているらしい。
「活気がない、面倒くさがる」と奥さんは嘆く。奥さんと共に飲食店を営んでいるが、今のところ仕事には大きな影響はない。
(診察所見)
HDS-R:21
遅延再生:1
立方体模写:OK
時計描画:OK
クリクトン尺度:1
保続:なし
取り繕い:なし
病識:あり
迷子:なし
レビースコア:0.5
rigid:なし
幻視:なし
ピックスコア:-
頭部CT左右差:なし
介護保険:なし
胃切除:なし
歩行障害:なし
排尿障害:なし
易怒性:なし
(診断)
ATD:△
DLB:
FTLD:
MCI:△
その他:
頭部CTで海馬萎縮は目立たず。前頭葉頭頂葉は年齢からすると萎縮が目立つのかな。
母親や祖母が60歳過ぎで認知症になっているという濃厚な家族歴あり。声は小さく、目線はあまり合わないが、レビー感という程でもない。
病識はあり、MCI(軽度認知機能障害)>ATD(アルツハイマー型認知症)で考える。
食事は圧倒的に炭水化物中心。糖質制限を指導し、併せて軽く頭を使いながらの運動を勧めた。
薬剤内服にはまだ抵抗があるとのこと。
フェルガード100M服用で3ヶ月後に再診。若年なので、症状進行時にはSPECTなども積極的に考慮を。抗認知症薬の内服は、相談しながら慎重に。
3ヶ月後
HDSR25
遅延再生2
総得点は4点、遅延再生は1点アップ。ただし時間はかかる。
次回は4ヶ月後。前回お勧めした運動が全然出来ていないとのこと。奥さんと一緒に散歩を週に2~3回、しりとりや計算問題を出し合いながら。ココナッツオイル併用も勧めた。
1年後
「バタバタしていてこれませんでした・・・」と。
前回一年前はHDSR25。奥さんの実感ではやや物忘れが進んできたかなと。
フェルガードやココナッツオイル、糖質制限、いずれも適当とのこと。再度引き締めて。
3ヶ月後
- HDSR24
- 遅延再生1
- 透視立方体模写と時計描画テストはOK
初診時はHDSR21、遅延再生1。現在フェルガード100Mを昼に4粒とココナッツオイル大さじ1.5杯。ココナッツオイルは眠前でもいいと思いますよ。
以前より笑顔が増えている印象。微妙なラインではあるが、抗認知症薬は使用せずに経過をみることで本人ご家族も納得。
次回は初診から2年。頭部CTは施行する。
初診から2年後
- HDSR27
- 遅延再生3
- 透視立方体模写と時計描画テストはOK
- 頭部CTは萎縮の進行なし
2年間でHDSR6点アップ。飲食店経営で、昼の忙しい時間帯で注文が重なると固まることがあるが、奥さんのバックアップでいらだつことなく何とかこなす。
朝にココナッツオイル大さじ1.5杯、昼にフェルガード100M4T服用。
糖質制限はかなり意識していると。しかし、夕食はまだまだ炭水化物は多い。これをタンパク質中心に変えてみて。
とても良い経過でお二人とも嬉しそう。
(引用終了)
軽度認知機能障害こそ、糖質制限の徹底を
1996年にPetersen等が提唱した軽度認知機能障害(MCI)の定義は以下。
- 主観的な物忘れの訴え
- 年齢と比較して記憶力が低下している
- 日常生活動作は正常
- 全般的な認知機能は正常
- 認知症は認めない
1の主観的な物忘れの訴えとは、物忘れの「自覚」があるということ。
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この「自覚」がある間に、ぜひ糖質制限を導入したいと自分は考えている。
何故なら、本格的に認知症を発症してしまうと病識がなくなり*1、糖質制限の意義を理解して貰うことが難しくなるからである。慣れた食習慣を変えることは通常、結構な努力を必要とするものである。
アルツハイマー型認知症の生化学 - Wikipedia
アルツハイマーの発症や病状進行の機序については諸説あるが、糖質制限で以下のような経路を抑えることが出来るのではないか、と考えている。
AGEs→Aβという経路を理解するには、以下の論文は参考になるかもしれない。
JCI - A multimodal RAGE-specific inhibitor reduces amyloid β–mediated brain disorder in a mouse model of Alzheimer disease
アミロイドの蓄積がミトコンドリアの機能障害を引き起こし、神経細胞のアポトーシスを誘導する、という論文もある。
Cell Death and Differentiation - Amyloid [beta] induces neuronal cell death through ROS-mediated ASK1 activation
また、Aβを分解するのがインスリン分解酵素であることから分かるように、アルツハイマーと糖尿病には切っても切れない関係がある。
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そして、アルツハイマー同様、糖尿病の発症にもアミロイドの蓄積が関与している可能性がある*2ことを考えれば、結局重要なのは「アミロイドを蓄積させないために、何が出来るか?」であり、それは突き詰めると「どのようにしてミトコンドリアを賦活するか?」ということに繋がる。
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発症してからの抗アミロイド薬には今のところ効果が期待出来ないため、発症前から取り組む必要がある。
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「糖質の過剰摂取≒単純に食べ過ぎ」ということではなく、糖質処理能力の個人差で決まる
糖質の過剰摂取とは、あくまでも相対的なものである。つまり、"糖質処理能力の個人差によって、ある人にとっては適量な糖質でも他の人には過剰となり得る"、ということ。
個人の処理能力を超えた糖質摂取によって変性タンパク質(アミロイド)が出来やすくなるとしたら、糖尿病の予防や治療のために糖質制限が有効なように、アルツハイマー病の予防や治療の為にも糖質制限は有効だと言えるのではないだろうか。
なので、大体40代から生活習慣病が懸念され出すことを考慮した上で当院では、
「40歳を超えたら炭水化物の処理能力が低下するので、主食を減らしてタンパク質を増やして下さいね」
とお伝えするようにしている。
その方が、糖質制限云々と説明するよりも理解されやすいように感じている。両親どちらかが生活習慣病をお持ちの方であれば、30代から炭水化物減量、タンパク質増量を開始してもよいと思う。
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