ある88歳女性とお会いするのを、毎回楽しみにしている自分がいる。
達観している年配の方は、どこか神々しい
先日88歳を迎えたAさんは、とても朗らかな方である。
足腰は相当衰えていて、ご主人に脇を抱えられながら、杖歩行で歩いて来院される。支える90歳のご主人の背中もまた、相当曲がっている。
お二人とも筋骨格系の衰えは目立つが、頭は冴えている。
糖尿病を患っているAさんは、パンやお菓子が大好き。1年ちょっとの経過で、少しずつHbA1cが上昇してきている。
糖質制限推進医としては、高タンパク低糖質食のメリットについて話をせざるを得ない。毎回同じような内容ではあるが、飽きずに話す。
それをAさんは、ニヤニヤしながら聴いてくれる。その表情を見ているうちに、こちらも苦笑いが浮かんでくる。
「もうワタシも年だからね~」
仰る通り。
本人の選択を尊重し、その中で最大限のサポートを行えばよい。
最低限のチェックとして腎機能評価と網膜症の確認は怠っていない。どちらも、今のところ大丈夫である。
この「今のところ」という言葉も、先が普通に数十年ある方と、既に平均寿命を超えている方とでは、同じ言葉でも意味合いは違ってくる。一日一日の重みが、違う。
「そろそろ私も賞味期限切れかもねぇ」
冗談っぽくそう仰るAさんの目は、キラキラしていた。
「賞味期限切れかどうかは分かりませんが、消費期限はまだまだ先だと思いますよ。」
そう自分が答えると、Aさんは大きな声で笑い、そして帰って行かれた。
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