以前ブログで紹介した方の続報。
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状況にやや進展はあったのだが、 まだ治療には至っていない。
70代後半男性 正常圧水頭症+腰椎椎間板ヘルニア
数年来の足の付け根から先のしびれと痛み(主に左第2、第3足趾)を主訴に来院された男性(以下TTさん)。
2年ほど前にとある整形外科で色々と検査をされたが、その結果「原因不明」と言われたとのこと。これにTTさんは今でも腹を立てている。
また、とある病院ではレビー小体型認知症として、一時期抗認知症薬を出されていたことがあったらしい。
恐らくこれは、痛みとしびれの訴えが執拗であったために「医者にとって理解できない不定愁訴≒認知症」とされてしまったのではないかと思われた。自分が見る限り、TTさんからはレビー小体型認知症の印象は全く受けなかった。
HbA1cが6.9という採血結果から、片側性ではあったものの、一応は糖尿病性神経障害の可能性は考えた。ペリシットやキネダックを使ってみたが全く改善はなかったので、数回投与した後に終了した。
頭部CTでは、陳旧性梗塞は見つかった。ただし、その場所は左基底核と放線冠だったので、痛みとしびれを訴える箇所と一致しない*1。念のために、抗血小板薬のプレタールは開始した。
そして、陳旧性梗塞と同時に水頭症の画像所見も認めたため、これは他院に依頼して髄液排除試験を行って貰った。その結果は「陽性」。明らかに、髄液排除後に歩行が改善したものの、腰椎穿刺の痛みがきつかったらしく、結局は今でもシャント手術には至っていない。
全身麻酔下での「椎間板摘出術」+「LPシャント術」は?
その後、一時的にしびれと痛みが増悪したため、TTさんは以前とは別の整形外科を受診。そこでMRIを撮影され、指摘されたのが「腰椎椎間板ヘルニア」。L2~L3にかけてヘルニア塊を認める*2。
以前整形外科を受診していたということから、既に腰椎ヘルニアはrule outされているものと考えていたので、これは盲点だった。
脊椎脊髄疾患の検査は通常、MRIがファーストチョイスである。CTは骨情報の検出には優れているものの、脊髄神経の様子までは分からない。ミエログラフィー(脊髄造影)という検査はあるが、その侵襲性から今では以前ほどは行われなくなっていると思われる。
ここで、髄液排除試験を依頼した病院から提供して貰った腰椎CT画像のことを思い出したので見直してみた。
ボンヤリとヘルニア塊が見えるような気はする・・・。
プリセットを"軟部組織"に変更して見直してみると、
先ほどよりは、ヘルニア塊が分かりやすくなった。
これまでは、ヘルニアを疑ったらMRIのある整形外科に紹介していたのだが、ひとまずCTでもプリセットの工夫である程度のサイズのヘルニアであれば検出出来るかもしれないということが分かったのは収穫だった。
椎間板ヘルニアは自然寛解が期待出来るので、診断がついてもまずは保存的に経過観察することが多いのだが、TTさんのしびれと痛みは、経過年数から考えると自然寛解はちょっと期待出来ない。なので、ヘルニア摘出術は検討してよいと思う。
ところで、ヘルニア摘出術、LPシャント術、いずれも背部操作が基本の手術である。
このことを利用して、以前からの懸念事項となっている水頭症に対するLPシャント手術が、
- ①まず整形外科医が腹臥位でヘルニア摘出術を行う。
- ②閉創はせずに脳外科医にバトンタッチ。
- ③腹臥位で脊髄腔にシャントチューブを留置。
- ④側臥位に体位変換し、チューブを側腹部~腹腔内に導出しLPシャント完成。
このような工夫で、ヘルニアの手術と同時に出来るのではないかと考えた。
整形外科と脳外科のある施設で手術を受けることが望ましいが、脊髄の手術も出来る脳外科医がいれば、脳外科単独施設でも可能であろう。
ただ、TTさんの頑固な性格と、これまでの医療機関に対する根強い不信感を考えると、同時オペの実現は相当困難である。
現状維持しつつ、気が変わってくれることを気長に待つしかない。もどかしくはあるが、しょうがない。