鹿児島認知症ブログ

鹿児島でコウノメソッドや糖質制限を実践している脳神経外科医のブログ

【症例報告】抑うつ症状に対する糖質制限、鉄補充の効果。

 当院では基本的に、ほぼ全ての患者さん達に糖質制限をお勧めしている。ただし、どの程度実生活に取り入れるかはお任せである。

 

糖質制限を勧める優先順位の高い疾患は、順不同で以下。

 

  • 糖尿病を筆頭とした生活習慣病
  • 軽度認知機能障害
  • 頭痛や肩こり、不眠やうつ

 

理解力と実践力のある方なら、体感レベルで改善が得られることが多い。

40代女性 抑うつ

 

初診時


最近疲労感と動悸、めまいを時に感じるとのこと。

 

「自分はうつではないか?」と考えると不安になり、すると今度は食欲が落ちて眠れなくなった*1

 

食生活は、朝食はパンとコーヒー。昼食は玄米におかず。夕食は炭水化物控えめにしてバランス良くを心がけていると。食事は問題ないと思っているとのこと。タンパク質も意識して摂取しているとのこと。

 

【採血結果】

 

  • フェリチン10.4
  • BUN9.1
  • AST11
  • AST6
  • γ-GTP12

 

明らかな鉄タンパク不足。食事には気をつけていたつもりの本人としてはビックリらしい。

 

フェルム開始と同時に、低糖質及び高蛋白食の指導。

 

1週間後

 

フェルム開始1週間後。これまでは朝がだるく活気がなかったが、それが改善してきたとのこと。朝から色々と手がけられそうな活力を感じるようになってきた、とのこと。

 

1週間後

 

  • 食後の動悸改善
  • 寝付きが良くなった
  • 目覚めが良い
  • 朝に身体の重さを感じない
  • 朝にお腹が空かなくなった
  • 気分が安定している

 

いいことずくめのようだ。フェルムの消化器症状なし。
長期処方。次回採血を。

 

8週間後

 

  • 生理前のイライラがなくなった
  • 子供を叱る回数が減った
  • 皮膚のかさつきがなくなった
  • 口内炎が出来なくなった
  • 疲れにくくなり、一日に複数の用事を済ませられるようになった*2

 

前回受診時よりも更に、様々な改善を実感出来ているようだ。採血結果は以下。

 

  • フェリチン35.1
  • BUN14.4
  • AST9
  • ALT8
  • γ-GTP10

 

AST/ALT乖離はなくなったので、ビタミンB群のアンバランスは解消かな。ただし、数値的にはまだ低い。2桁は欲しい。


BUNとフェリチンは順調に上昇しているので、トランスアミナーゼの上昇はこれからなのかな。

 

(引用終了)

 

解糖系は最小限に抑えたい

 

この方は、自分では気づいていなかった(かもしれない)様々な症状が、糖質制限及び鉄補充で改善されていった。

 

一旦成功体験が得られると、その後も持続しやすい。なので、初期段階である程度徹底的に糖質制限に取り組むことには意義がある。

 

ただし前提としてまず、鉄が足りているかどうかを確認することが重要である。何しろ、月経のある多くの女性は鉄不足である。

 

www.ninchi-shou.com

 

鉄不足が存在するにもかかわらず、それを解消しないまま糖質制限を徹底してしまうと、いくら糖質を制限して高蛋白高脂肪食を摂っても身体がついていかずに脱落することがある。詳細は省くが、簡単に言うとエネルギー代謝の最終段階で電子伝達系を上手く使えないからである。

 

糖質は、電子伝達系まで回せなくても、解糖系でATP(微々たる量ではあるが)を得ることが出来る。解糖系には鉄は不要である。

 

ただしこの経路は効率が悪い。

 

最終代謝産物である乳酸の蓄積による頭痛肩こりに加え、代謝効率の悪さからガンをはじめ様々な病気を発症してしまう恐れがある。解糖系を使うのは最小限が望ましいということである。

 

 

 

*1:このパターンを拗らせた結果、うつを発症する人は多かろう。

*2:マルチタスクの処理能力向上は、ATP産生効率上昇と相関するように思う。