自分は脳神経外科医なので、普段から頭痛の患者さんを数多く診ている。
頭痛のおおよそのパターンは把握したつもりになっていたのだが、先日まったく診たことのない(聞いたことのない)頭痛に遭遇したので、今回はそのことを書いてみる。
飛行機が着陸態勢に入り下降を始めると、必ず激しい頭痛に見舞われる
1年半前に飛行機に乗った際に、着陸時に激しい頭痛に見舞われた60歳男性のTさん。それは「人生最悪」と呼べるほどの頭痛だったらしい。
幸い30分ほどすると治まり乗り継ぎの飛行機に乗ったのだが、その飛行機が着陸する際にも激しい頭痛が起きた。
このことが恐怖感として残り、以降Tさんは移動に飛行機を用いることは止めた。
それから1年半が経ち、今回どうしてもヨーロッパに行かなくてはならない事情が発生した。その旅程で、合計6回飛行機に乗らなくてはならなくなったTさんは、インターネットで色々と調べて当院に辿り着いた。
飛行機頭痛に、イミグランが奏功した
Tさんに起きた頭痛は、「飛行機頭痛(aircraft headace)」と呼ばれているらしい。
恥ずかしながら自分は、Tさんから聞くまでそのような頭痛があることを知らなかった。
調べてみたのだが、頭痛学会のガイドラインでは言及されていなかった。そこで英文検索をかけてみたところ、以下の様な記述がhitした。
The headache starts suddenly during the ascent and/or descent of the commercial aircraft. It has a mean duration of 20 minutes, which is usually unilateral and commonly localized to periorbital region. The headache is described to be severe, and has a stabbing or jabbing nature, and generally subsides in a short time. (M Said Berilgen)
以下、適当和訳。
飛行機の上昇または下降中に突然始まる頭痛。平均持続時間は20分で、通常は片側性。一般に眼窩周囲領域に局在する。強く刺すような痛みだが、短時間で終わる。
頭痛の特徴としては、Tさんの話とほぼ一致する。気圧の変化によるものだろうと何となく推測出来るが、機序は不明のようだ。
Tさんはご自分で色々と調べたらしく、「スマトリプタンが効くみたいなので、処方をお願いしたいのですが」と頼まれた。
スマトリプタン(先発品名はイミグラン)は、片頭痛や群発頭痛の治療で用いられる鎮痛薬である。どのような機序で飛行機頭痛に効くのかは分からないが、効果ありの報告は確かに散見された。
Can triptans safely be used for airplane headache? | SpringerLink
Headaches attributed to airplane travel: a Danish survey | SpringerLink
虚血性心疾患の既往がないことを確認して、フライトの回数に併せてイミグラン50mgを6回分処方した。念のために五苓散も処方し、飲み方は
【着陸態勢に入るアナウンスがあった時点で、イミグランと五苓散2包を内服】
とした。
「うまく効いてくれたらいいですね」と声をかけて診察を終えた。
それから4ヶ月が経過し、飛行機頭痛のことはすっかり忘れていたのだが、先日Tさんがひょっこりと現れて「先生、イミグランが効きました。6戦6勝でした!!」と教えてくれた。
6戦6勝とは素晴らしい結果である。ちなみに、五苓散は結局一度も使うことはなかったとのことだった。
厳密に言うと「飛行機頭痛そのものが出なかった」とのことなので、イミグランが飛行機頭痛を予防したことになるのだろう。それはそれで良いことだ。痛みは出ないにこしたことはない。
飛行機に乗ると必ず激しい頭痛が起きるという方は、事前にイミグラン*1を準備して搭乗したらいいだろう。

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