今回紹介するのは、前頭側頭型認知症のHYさん。
初診時は60代後半。それまでアルツハイマー型認知症の診断でドネペジルが処方されていた。
約2年4ヶ月の経過を、ほぼカルテからの引用で紹介する。ご家族や施設スタッフ、ケアマネさん達と情報をやりとりしながら、皆で陽性症状のコントロールに腐心し続けた様子がわかると思う。
出来ればシャント手術に繋げたかったが、ご家族の手術希望はなかった。
前頭側頭型認知症に正常圧水頭症が合併している場合、マスクされていた易怒性が前面に出てくることがある。これは、対処出来なければなかなか厄介と言える。
しかし、シャント手術には「歩行改善・身体介助量軽減」という、介護する家族にとって大きなメリットもある。
この両者を天秤にかけたとき、大抵の場合で「陽性症状増悪への懸念>歩行改善」となりがちだが、薬剤による陽性症状コントロールにそれなりの自信があれば、tryしてみる価値は大いにある。どうしてもコントロールが出来なければ、シャントをoffにするという最終手段もあるので。
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70代前半女性 前頭側頭型認知症
初診時
(既往歴)
糖尿病 高血圧症
(現病歴)
かかりつけの〇〇病院からもの忘れで紹介。ドネペジル5mgを内服中。
家族曰く、ドネペジルが始まって疎通が悪くなったかもとのこと。易怒性はない。
(診察所見)
HDS-R:施行不可
遅延再生:
立方体模写:OK
時計描画:OK
クリクトン尺度:
保続:あり
取り繕い:なし
病識:なし
迷子:なし
レビースコア:1
rigid:なし
幻視:なし
ピックスコア:9
頭部CT左右差:なし
介護保険:
胃切除:なし
歩行障害:ややワイドベース
排尿障害:頻尿
易怒性:なし
(診断)
ATD:
DLB:
FTLD:〇
MCI:
その他:NPH
complete DESHではないが、両側でシルビウス裂拡大はあり、すり足ワイドベース歩行と頻尿もあるので、正常圧水頭症の要素はありかな。外来で髄液排除して自宅観察を依頼。ドネペジルは中止。「入院は病院に迷惑をかける」と御主人。
ドネペジル由来の頻尿はあるかも知れないが、とにかく多幸的で子供っぽい。ピックの可能性を考える。
これまで数回、徘徊で警察沙汰になっている。髄液は30mlを排液。
4週間後
- 寝言がなくなった
- 歩行改善
- トイレの間隔は変わらない
- アバプロ100
- ニフェランタンCR40
- ピタバスタチン1
- インスリン家族注射 2単位
歩行は明らかに良くなっているが、家族はシャント手術にためらい有り。
ウインタミンで陽性症状のコントロールが出来たら、シャント手術を検討してみましょうか。(→その後、タップテスト入院のご希望あり)
2週間後
1回、立てなくなって便失禁があったと。
同居ではない娘さんはウインタミンのせいだと言い、ご主人はウインタミンで落ち着いていると言う。
明日TAPテスト入院。数値の改善、家族実感が得られれば、入院中にLPシャントまで持って行くかな?
4週間後
- 排泄の失敗はほとんどないようだ
- 夜間睡眠しっかりとれている
- 寝言はない
- 転倒もない
- 徘徊もない
- 上機嫌
薬剤介入は著効。本人家族の表情が非常に明るい。
処方継続。クリクトンは28?次回はクリクトン確認を。
ウインタミン4mg-6mgにロゼレム+ベンザリン2.5mgで睡眠対策。
LPシャントは結局ご希望はなかった。
介入から3ヶ月後
- クリクトン尺度29
- デイサービスは週に3回
- 楽しんで取り組めている
- 夜はぐっすり
排泄の失敗が目立ちはじめたと。訴えがあまりないまま失禁してしまうようだ。
これは時間促しで対応をお願いする。
5週間後
便秘にマグラックス開始。
夜間は良眠し、徘徊がなくなったことをご主人は大変喜んでいる。
初診から半年後
1週間前頃より、夜間不隠、物を投げる、蹴るなどあり。昨日はデイサービスも拒否的であった。かかりつけの〇〇内科にてレンドルミン(0.25)処方され昨晩服用し良眠できた。(Ns〇〇記載)
陽性症状が強まっているようだ。目つきが以前と少し違う。
ウインタミン4mg-6mgからコントミン朝12.5mgに切り替え、レンドルミンは当院処方とする。現在デイサービスは週に6回。
- AST(GOT):29IU/l
- ALT(GPT):8IU/l
- γ-GTP:17IU/l
- 尿素窒素: 24.8mg/dl
- クレアチニン: 2.00mg/dl
- ナトリウム(Na): 137mEq/l
- カリウム (K): 7.2mEq/l
- フェリチン定量:94.4ng/ml
肝逸脱酵素は問題ないが、クレアチニンとKが高値。〇〇内科でアーガメイトゼリーが出ているが強化する必要あり。家族に連絡し、かかりつけ医に情報提供。
5週間後
診察時はご機嫌、ただし直前まで不機嫌だったと。
コントミンは朝1.5Tに増量とし、夕はセルシン1mg開始。またニトラゼパムを1.5Tに増量し睡眠対策にあてる。夜間は4回起きる。排尿対策も必要?
下腿浮腫著明。降圧薬の影響は?〇〇クリニックに情報提供。
DMありセロクエルは使えず。便秘対策は潤腸湯追加で。
3週間後
(ケアマネよりTEL)
昨日と本日の朝、いつもの時間に起きない、うつぶせで寝ていて声掛けしても反応鈍く、そのまま寝てしまう。今までうつぶせで寝た事はない。昨日は昼近くまで寝ていた。眠りが深い感じで・・との事。残薬見ても過剰投与等もなく食事もいつもと変わらない様子。
日中は普段と変わらず昨夜も19時に就寝。本日はお昼12時過ぎまで寝ていた。起きてからは普通。院長確認にて、今晩はセルシンを休薬して様子をみて夜中起きてから興奮状態等見られるようであれば、その時点でセルシン服用してくださいとお伝えする。明日予約。(受付〇〇記載)
ニトラゼパムを1.5Tから1Tに減量、また易怒性は今のところ問題なくフラツキがやや目立つため、午前中のコントミンを1.5Tから1Tに減量。
潤腸湯で排便は改善した。また、〇〇クリニックがニフェランタンを60mgから40mgに減量したようで、下肢浮腫は軽減している。
訪問看護導入開始。
3週間後
(訪問看護師より電話)
「昨夜眠り込んで失禁した。デイでもボ-としていて反応が悪い。」
院長に確認。コントミン朝1錠→0.5錠に 半錠が難しいなら服用しなくてもOK。
(受付〇〇記載)
その後、やはり傾眠傾向と連絡あり、ニトラゼパムとコントミンは中止を指示。それでもだめならロゼレムも中止と指示。
(その10日後に当院から連絡)
上記薬剤中止で、非常に落ち着いて安定しているとのこと。
(受付〇〇記載)
2週間後
ニトラゼパムとコントミンの中止で、過鎮静は解除された。ご主人としてはもう少し活気が出て欲しいようだが、ピックのことを考えるとアマンタジンなどは恐い。診察室の様子は穏やかである。
両側下腿浮腫著明。検尿チェック→出なくて終了。ラシックス10mg処方、反応をみる。
〇〇内科での採血結果はぜひ持参を。トレシーバを2日に一回2単位使っている。HbA1cは6.4なのだが・・・。降圧薬はニフェジピン60mgに戻っている。糖尿病腎症なのだが・・・。
〇〇眼科に網膜症チェックを依頼。ご主人の認知機能低下も少しずつ目立ってきた。
5週間後
下腿浮腫軽減。ラシックスの影響で尿量は増えているようだ。
便通もまずまず。
ショートステイ1泊は問題なく出来た。
〇〇眼科で、「白内障はあるが認知症なので治療は出来ない」と言われた。点眼薬の指示すらなかったようなので、家族経由で点眼薬については確認を。問題なければカリユニぐらいは使おうか。
全体的には落ち着いている。ご家族はニコニコ。
4週間後
下腿浮腫は以前より軽減。
残薬調整終了。多幸的で良く笑う。食欲睡眠排泄で大きなトラブル無く、目立った周辺症状は今のところなし。デイサービスは週に6回、ショートステイは月2回、訪問看護あり。要介護3。
初診から1年後
ニコニコ元気に大きな声で笑う。目立った周辺症状なし。
〇〇クリニックでは、「インスリン注射は終了でもいいのでは?」と言われているが、ご主人の希望で使っているようだ。インスリンはやめて、夕食の白ご飯もやめてみましょう。
それが出来れば、セルシンは終了でいいかもしれない。
〇〇クリニックの腹部エコーで服胸水を指摘され、ラシックスが出されている。こちらのラシックスは確認していないようなので、先方に一本化を依頼する。
8週間後
朝起きたらシーツまで排尿でぐっしょり。朝それを交換するのがご主人の仕事。これはもうルーチンになっており、さおほど苦ではないと。介入の必要はないかな。
インスリンも一旦卒業となった。下腿浮腫も消失で良い具合。本人の様子も機嫌良く落ち着いている。
〇〇眼科では結局、全麻での白内障手術を勧められたと。心肺機能に問題なければ可能でしょう。
処方維持。
8週間後
著変無く経過中。偶然見つかった卵巣腫瘍の精査目的で〇〇病院婦人科で内診。特に悪性所見を疑うことはないとの診断。腎機能が悪いため造影CTは見送られ、今後は有事受診となったようだ。
娘さんは、白内障治療を全麻で希望されているのかな。
処方は維持。今のところ、何も困っていないとのこと。
2週間後
先週からデイでもショートステイでも日中不穏傾向。他人の食事に手を出したりコップを投げたりなど。
昨年の同時期もそうだった。夕方は落ち着いていると。久しぶりに、朝にコントミン12.5mgを再開。夕はセルシン1mg。来週効果確認。
(3日後)
ケアマネさんより電話あり。コントミン再開でデイで別人のように穏やかになった。傾眠はなく、食欲も出てきた。自宅でも穏やかに過ごしているとのこと。(受付〇〇記載)
介入から1年半後
一時期は落ち着いていた易怒性が再燃し始めた。朝のコントミンを0.5T増量。以前過鎮静を起こしているので気をつける。高い易怒性の為、ショートステイが使えなくなりご主人がかなり疲弊している。
新たなショートステイ利用先の選定を急ぐ。
4週間後
内痔核に対してポステリザン処方。
コントミン増量でご主人曰く易怒性はなくなった。診察室でのテンションは非常に高いが。2ヶ月後にオープンする施設のショートステイが使えたら、とご家族。ご主人の疲労感は強いようだ。
採血でCrは1.8。HbA1cは7.1。
5週間後
多幸的で良く笑う。
易怒性亢進はなく、食欲睡眠排泄は良好。コントミン増量効果は出ている。
今回はポステリザン不要。
今度ショートステイを利用する予定の新しい施設は、現在のケアマネさんが管理者らしい。
4週間後
若干過鎮静気味なのが気にはなる。新たな施設では、デイサービスは上手く利用出来ている。もうすぐ、現施設での初めてのショートステイ。
コレが上手くいったのを確認してから、セルシンやコントミンは減量にとりかかろう。
その他、食欲、排泄、睡眠など問題なし。
4週間後
過鎮静。易怒性は全く見られない。朝のセルシンは中止し、コントミンは0.5T減量。
便秘対策は潤腸湯から麻子仁丸に切り替える。ショートステイは問題なく利用出来たようだ。
4週間後
腎機能は前回採血から横ばい。A1cはやや改善。前回薬剤調整後に有害事象なし。朝のコントミンを1T→0.5Tに。これで変化がなければ終了にしよう。
介入から2年後
コントミン減量で易怒性亢進なく、動きが少し良くなったと。
排便良好、夜間睡眠良好。現状とくに大きなお困り事なく過ごせていると。
処方維持。初診から2年経過した。
4週間後
著変無く経過中。易怒性は全く無い。
次回で、朝のコントミンは終了にする?また相談しましょう。
4週間後
とても落ち着いて過ごせたようだ。何も困っていないとご主人。
朝のコントミンを終了にする。これが達成できたら、当面処方は維持かな。
5週間後
- 湿性咳嗽が続いている→ムコダインDS
- 日中活動性低下→アマンタジン25mg(直近採血でCrは1.6)
- コントミン終了で易怒性亢進なし→落ち着いたらセルシンも終了に
春先のソワソワには注意を。
最終日
著変無く経過中。
現在、特養入居に備えてショートステイ連泊中。特に不穏を募らせることはない。
処方は維持。セルシンの止め時は、新たなかかりつけに情報提供書を書いて任せよう。
2年4ヶ月のお付き合いだった。お元気で。
(当院最終処方)
ロゼレム8mg 1T1X眠前
セルシン1mg 1T1XA
シンラック2.5mg 1T1XA
麻子仁丸2.5gx2
マグミット1gx2
アマンタジン25mg 1T1XM
(引用終了)
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