今回は演者としても参加させて頂くこととなった第二回認知症治療研究会。
パシフィコ横浜のメインホールが会場だったが、会場近辺は横浜マラソンで賑わっていた。
会長挨拶
昨年同様、堀智勝先生のご挨拶で開会。
教育講演
①CBSとPSPS
新横浜フォレストクリニックの中坂 義邦先生。背の高く誠実な印象の先生。
- 症候学、患者さんが実際に見せる症状の重要性を強調
- 神経難病には薬がないため、製薬会社が病気の啓発活動をすることもなく、その結果医師も病気について知らないという構造の問題
- PSPSは早期から歩行障害と構音嚥下障害を来しやすい
- PSPSは椅子からの立ち上がりが困難、座るときにはドシンと勢いよく座ることが多い
- PSPSにはFG療法(フェルガードとグルタチオン)が効果的なケースが多い
ご自身で考案されたCBSスコア、PSPSスコアを紹介されていた。
②「抗認知症薬の適正処方を実現する会」の調査に関する中間報告と課題について
みなさんご存じの長尾クリニックの長尾 和宏先生。軽妙な語り口で会場の笑いを誘っていた。
- 抗認知症薬の増量規定で、患者さんやご家族がどれだけ大変な思いをしているのかを動画で紹介
- アリセプト10mgを内服中の寝たきり患者さんに、23mgの治験を持ちかけてきた主治医に憤慨するご家族の動画を紹介
- アリセプトを頼み込んで止めてもらったのに、いつの間にかまた再開にする医者は、実は認知症なのではないか?(場内爆笑)
現在、抗認知症薬増量規定で副作用が起きた事例を募集しています。
心当たりのある方は、下記フォームからどうぞ。
抗認知症薬の適量処方を実現する会
③開業でさらに見えてきたコウノメソッドの真価
ものがたり診療所もりおかの松嶋 大先生。優しげな面持ちだが、強い信念がありありと感じられた。
- 「あの人、認知が入っているよね~」という言い方に、僕は正直腹が立ちます
- 開業医は、患者さんの人生という物語の証人とならねばならない
- 患者さんが来れないのであれば、こちらから行きます
- 患者さん達には、複数の選択肢を示したい
今回個人的に最も共感できた講演。特に、「複数の選択肢を提示」、「物語の証人となる」、「認知という言い方に腹が立つ」という点は完全に同意。
一般の方ならまだしも、医療介護職が認知症を「認知」と略すのは不見識を自ら露呈しているように思うし*1、何より患者さんに失礼と感じるのだが如何だろう?
ランチョンセミナー
菊池病院の木村 武実先生。ソフトかつスマートな語り口。
- 40代以上の万引きの20%程は、ピック病の可能性を考えた方がいいのではないか
- FTLDを示すキーワードは、常同行動
- アリセプトはFTLDを悪化させる
- ウインタミン不応例に対するエビリファイ使用の可能性について
- 襟元へのラベンダー付与でBPSD緩和
エビリファイ使用については興味が涌いた。
攻めのリハビリと認知症
竹川病院の酒向 正春先生。NHKのプロフェッショナルの流儀にも取り上げられた研究会世話人のお一人。非常に優しい口調で話された。
- 維持期のリハビリを地域で行うタウンリハビリの発想
- その為には、根本から町作りを行う必要がある
- 2020年にはそのような町が東京の中に出現する
- 食事・睡眠・運動が人間回復の三要素
- 脳卒中の頭部画像評価は、失った箇所よりも残存機能を評価する見方が必要
話のスケールの大きさでは、今回の演者の中でも群を抜いていた。ただただ圧倒された。
NHKエンタープライズ (2014-06-27)
売り上げランキング: 63,638
歩行障害型認知症への対応
名古屋フォレストクリニックの河野 和彦先生。
- 歩けないではなく「歩かない」のがフロンタルアタキシア
- リバスチグミンでアセチルコリンが賦活されるから、リバスタッチで歩き出す人がいるのでは
- 抗酸化治療で歩かせるという発想
- シチコリン併用のグルタチオン点滴では、グルタチオン1000mgを超えてくるとハイテンションの可能性が増す
- 北朝鮮のロケットに対抗して、名古屋からシンメトレルロケットを放っている(場内爆笑)
MSA-Cがグルタチオン点滴後に走り出すという、衝撃的かつ涙を誘う動画が印象的だった。
一般演題
①沖縄県の認知症医療の現状及び認知症の心理的ケアについて
城間クリニックの城間 清剛先生。
- 心理ケアによる介入は、神経細胞結合の強さを変える
- 心理ケアで常同行動が治まる動画を紹介
- 人間の全ての活動は言語活動
言葉が持つ力を再認識させてくれた。
②現在の認知症医療とケアでみえてきたコウノメソッド実践看護師の役割
次は、とある施設で勤務中の看護師の方。
- 医師の紹介状に書かれる認知症診断名は、ほぼアルツハイマー
- 介護サービスの質を向上させるには共通言語が必要。コウノメソッドはそのコアとなるツール
- 周辺症状対応は現場を疲弊させている
- おかしいと感じてもそれを医者に言えないもどかしさが、現場を疲弊させ悪循環が産まれている
- 看護師は、他職種連携のキー職種となり得る
一本筋の通った、かっこいい看護師さんでした。こういう方が身近にいたら、仕事は相当捗るだろうなと思った。
③変性疾患と合併する正常圧水頭症の治療について
筆者の発表。
スライド内容は今後ブログで取り上げる予定。身体介護を軽減させる可能性を感じたら、積極的にLPシャント術に取り組んでいるといった内容を発表した。思ったより時間に追われて早口となってしまったことが悔やまれた。
④認知症に対するシロスタゾールの治療効果
池袋病院の平川 亘先生。昨年は少量リバスタッチで驚くべき覚醒効果とせん妄除去効果を動画で示し、会場の度肝を抜いていた先生。実は、鹿児島の先輩でもあります。
- 認知症に対するプレタールの効果
- 特にレビー小体型認知症に対しては、幻視改善を含め高い効果が期待できる
- 使用開始5年後でも効果が期待できるケースあり
- 後発品ではなく先発品を用いている
- 長谷川式テストが10点上昇するケースあり
- 6割ほどがレスポンダーの印象
今年も相変わらずの破壊力。ビデオの中で、改善した患者さんを前にうれしそうにはしゃぐ平川先生が印象的だった。
感想
現場に出る以上、患者さんをよくしてナンボ。そのための実践的な工夫を持ち寄る認知症治療研究会という印象は今年も変わらなかった。
来年からは一般演題も募集するとのこと。開催日は2017年2月26日(日)で、会場は今回と同じくパシフィコ横浜メインホール。ご興味を持たれた方は、ふるってご参加下さい<(_ _)>
(壇上の河野先生)
www.ninchi-shou.com