「これは急がないといけない・・・」
と初見で感じた方をご紹介。
87歳女性 LPC+VaD(マルチミックス)
(記録より引用開始)
初診時
(既往歴)
特記事項なし
(現病歴)
これまで独居だったが、10年ぐらい前から家族は認知症を疑っていた。最近になって急に流涎と跛行が出現し神経内科を受診。
麻痺の左右差はないがCTで陳旧性脳梗塞を指摘された。予防的な抗血小板薬内服を勧められたが家族が拒否し経過観察に。
その後一ヶ月経過しても状況に改善がなく、食欲低下もきたしているとのことで物忘れ外来を受診。
(診察所見)
HDS-R:0
遅延再生:0
立方体模写:不可
時計描画:不可
クリクトン尺度:35
保続:?
取り繕い:?
病識:なし
迷子:なし
レビースコア:6.5
rigid:なし
幻視:あり
ピックスコア:4.5
頭部CT左右差:わずかに右萎縮?
介護保険:なし
胃切除:なし
歩行障害:あり 小刻み 左跛行
排尿障害:あり 失禁
易怒性:なし
(診断)
ATD:
DLB:〇
FTLD:△
MCI:
その他:VaD
視線が合わず虚ろな表情。構音障害あり。低活動性せん妄状態。頭部CTは右放線冠にLDA。跛行は左下肢麻痺を考える。使用行動や立ち去り行動もあり、LPC(レビー・ピック複合)+VaD(脳血管性認知症)と考える。
イクセロンパッチ4.5mg+抑肝散2.5g+プラビックス75mgを開始。シチコリン1000mg投与。
1ヶ月前から長女さんが引き取っているが、日中は仕事に出かける。内服は朝だけでないと難しそう。元々薬嫌い。介護保険申請をしましょう。
4週間後
- 視線はしっかりあう
- 内服は出来ている
- 食欲有り
- 介護保険申請まだ→今日説明を
目立って活気は上昇。しかし診察中はせわしなく立ち去り行動あり。
ピック症状が目立ってきたか。ウインタミンを朝だけ6mg入れる。
相談員曰く、娘さんの理解力に問題ありと。まだ動揺から立ち直れていない?
4週間後
別人のように落ち着いている 。視線もしっかりあう。介護調査も入ったようだ 。
ウインタミン著効。昼夜逆転。眠前にベンザリン3mg開始。
4週間後
立ち去り行動なし。ニコニコ落ち着いてうなずき、話を聞いている。夜間良眠出来ている。
好調。ウインタミンも良く効いている。
介護サービス導入はまだ。次回も確認を。
(引用終了)
まずは低活動性せん妄の対策
LPC(DLB+FTLD)+VaDという状況分析を行い、初期対応の優先順位としては
「DLB>FTLD≒VaD」
とした。
- 低活動性せん妄に対してシチコリン1000mg注射。
- 夜間幻視に対しては抑肝散2.5mg。
- 長谷川式テストは施行不可。低活動性せん妄の影響はあろうが、失行や失認などの中核症状の改善を期してイクセロンパッチ4.5mgを選択。
- 脳梗塞再発予防も必須。プラビックス75mgで対応。
この対策の結果、次回受診時にはDLB症状の改善を認めた。その結果、FTLD症状が目立ってきた。優先順位は、
「FTLD>DLB≒VaD」
このように入れ替わり、
- 落ち着きのなさ、立ち去り行動などに対してウインタミン6mgで対応。
- 易怒性亢進に繋がる可能性があるため、シチコリンは終了とする。
このように対策した結果、全体的に上手くまとまり介護負担度を大幅に軽減できた。
ポイントはいくつかあるが、最も大切なのは
「低活動性せん妄に対して、シチコリン注射を躊躇しない」
という点である。ここを改善させなければ、先には進めないのである。