鹿児島認知症ブログ

鹿児島でコウノメソッドや糖質制限を実践している脳神経外科医のブログ

JPPP試験。心血管イベントの一次予防に、アスピリンは効果がないという結果に。

アジア人における、アスピリンの脳卒中初発予防に関する初のエビデンス

 

薬は定期的に見直そう



昨年末に出ていたこのニュース。


日本人の心血管一次予防、アスピリンに利益なし:日経メディカル

試験の対象者は、高血圧、糖尿病、脂質異常症を合併しているが心血管疾患の既往はない高齢者(60~85歳)。日本臨床内科医会の協力を得て全国1007施設から登録された1万4464例を、アスピリン投与群(7220例)または非投与群(7244例)にランダムに割り付け、5.02年追跡した。一次エンドポイントは心血管死亡、非致死的脳卒中、非致死的心筋梗塞の複合。二次エンドポイントは、一次エンドポイントの項目に一過性脳虚血発作(TIA)、狭心症、外科治療またはインターベンションを要した動脈硬化性疾患を加えた複合、さらにエンドポイントの各項目、輸血または入院を要した重篤な頭蓋外出血などだ。一次エンドポイントはアスピリン群が193件、非投与群が207件だった。5年間の累積発生率はアスピリン群2.77%、非投与群2.96%で、アスピリン群のハザード比(HR)は0.94(95%信頼区間:0.77-1.15、P=0.54)と、アスピリンによる有意なリスク減少は認められなかった。


ただし、二次エンドポイントの非致死的心筋梗塞と一過性脳虚血発作においては、アスピリン群が有意に低率だったようだ。

しかし、エンドポイントの発生率そのものが0.6%/年と低く、重篤な頭蓋外出血はアスピリン群が有意に高率であったため、この試験は途中で中止となったようだ。

また、「低用量アスピリンはガンのリスクを抑制する」というデータが取りざたされることが多いが、今回のJPPP試験においてはガンの予防効果の指標となる非心血管死亡においても、アスピリン群で有意な低下はみられなかった。

【参考】低用量アスピリンの常用、がん死リスクを長期に抑制

また、脳卒中におけるサブ解析の結果も最近出たようだが、脳卒中・TIAは両群間で有意差なし、致死性・非致死性脳卒中は両群間で同数。虚血性脳卒中はわずかにアスピリン群で少ない傾向であったが、頭蓋内出血がアスピリン群でやや多かったため、ベネフィットは相殺された。

つまり、「脳卒中の一次予防においてアスピリンのメリットはなし」ということ。

尚、脳卒中発症の危険因子解析では

  • 70歳以上
  • 喫煙
  • 糖尿病
 
この3つが危険因子であった。
 
年齢はどうしようもないが、喫煙と糖尿病は是正可能な因子である。心当たりの方は、まずは禁煙と糖質制限を。 

 

漫然と処方されている可能性がある、バイアスピリンやバファリンを見直すきっかけになる


バイアスピリンやバファリンを内服中の高齢者に、

「この薬を、何故飲むようになったのですか?」


と聞いたときに、


「何年か前にちょっとフラッとした時に、「脳梗塞にならんように飲んどきなさい」と言われて出されたのよ」

 

という答えが返ってくることが結構ある。それほど簡単に処方される傾向のある薬ということである。

 
今回の結果は、一次予防(まだ脳梗塞や心筋梗塞を起こしたことがない人)におけるアスピリンの効果が否定的ということで、二次予防(脳梗塞や心筋梗塞を起こしたことのある人)においては、豊富なエビデンスがある。
 
はっきりと既往歴に心筋梗塞や脳梗塞がある人の場合は、これまで通り継続で問題はないだろう。しかし、処方された経緯が不明だったり適当だったりする場合には、見直しが必要だろう。
 
個人的には、非心原性脳梗塞の二次予防でバイアスピリンを処方するケースは、ここ数年減っている。
 
それは、アスピリンを服用していてもリスク低減効果が悪い患者群、または出血時間や血小板凝集能などの血小板機能検査がアスピリンにより抑制されない患者群が5.2%~60%存在するからである。
 
これを、「アスピリン不応症(アスピリン・レジスタンス)」と呼ぶ。同様のことはプラビックスでも30%程度起きているといわれている。
 
自分が第一選択としている抗血小板薬はプレタールである。今のところ、プレタールで不応症があるとは聞いたことはない。