鹿児島認知症ブログ

鹿児島でコウノメソッドや糖質制限を実践している脳神経外科医のブログ

90歳女性、アルツハイマー型認知症疑い。抗認知症薬増量で症状悪化。

今回は、引き継ぎ失敗で舞い戻ってこられた方をご紹介する。

 

アルツハイマーと脳梗塞の合併

 長谷川式失点パターンはアルツハイマーらしい

 

90歳女性 アルツハイマー型認知症

 

初診時

(記録より引用開始)

 

(現病歴)

 

昨年6月に近医物忘れ外来を受診。アルツハイマー型認知症の診断でアリセプト開始。特に効いている様子はないと。最近少し物忘れが進んだ気がするとご家族。

 

穏やかで品の良い感じ。姿勢も良い。歩行障害なし。

 

(診察所見)

 

HDS-R:11

遅延再生:0

立方体模写:不可

時計描画:不可

クリクトン尺度:9

保続:なし

取り繕い:あり

病識:あり

迷子:なし

レビースコア:0

rigid:なし

ピックスコア:1.5

頭部CT左右差:なし

介護保険:要介護1

胃切除:なし

 

(診断)

ATD:〇

DLB:

FTLD:

MCI:

その他:VaD

 

アルツハイマー+脳血管性認知症かな?

 

年齢を考えるとSD-NFT(神経原繊維変化型老年期認知症)や、AGD(嗜銀顆粒性認知症)の可能性もあるかな?左後頭葉分水嶺に梗塞痕あり。

 

不整脈を指摘されたことあり。心電図と胸部レントゲンまで。

 

心電図で心房細動あり。胸部レントゲンで心拡大などなし。

 

CHAD2スコアに引っかかるので抗凝固療法は必要。ワーファリンを0.5mgで開始。アリセプトは特に易怒性亢進などの副作用は出ていないようなので、ひとまず5mgのまま維持。追加でサアミオン5mgx2を処方。

 

梗塞はATBI(アテローム血栓性脳梗塞)が予想されるが、抗血小板薬とワーファリンの併用は、年齢を考慮して止めておく。ひとまずワーファリンのみとする。

 

2週間後に採血及び効果確認。落ち着いたらかかりつけかな。

 

2週間後

 

PT-INRは1.01。ワーファリンは今回から1mg/dayに増量。次回はINRのみ採血。

 

サアミオンで目立った変化なしと。5mgx3に増量。

 

その4週間後

 

PT-INRは1.21にやや上昇。今回からワーファリンは1.25mg/dayに増量。

 

やや活気が出てきたようだ。ニコニコと笑顔がみられる。

今回で終診、かかりつけにバトンタッチ。

 

その4ヶ月後

 

近医紹介直後から、アリセプトが一気に10mgに増量され易怒性亢進。

 

通っているデイサービスで他者との折り合いが段々と悪くなり、その施設のスタッフに当院受診を再度勧められ来院。

 

かかりつけから認知症関連薬剤を引き継ぐ。アリセプトは3mgに、ニセルゴリンは朝だけの5mgに落とす。

 

その2週間後

 

アリセプト減量で、丁度よい塩梅に落ち着いた。当面現在の処方を継続。

 

(引用終了)

 

添付文書通りの増量をする前に確認することとは?

 

それは、「現在何かお困りのことはありますか?」だろう。

 

この方をバトンタッチする直前、ご家族は「大体今ぐらいでいいですね」と仰っていた。かかりつけへの情報提供書には、

 

「当面現状維持でお願いします。」

 

と書いてはいたのだが、何故か直後でアリセプトは5mg→10mgに増量になっていた。

 

ご家族曰く、「増量するにあたって特に説明はなかった」とのこと。

 

認知症進行→抗認知症薬を規定通りに増量→症状悪化というパターンを挙げると枚挙に暇が無い。何故だろう?

 

  • 一旦増量すると、減らせないと医師が思い込んでいる
  • 中核症状の悪化と周辺症状の悪化の違いを医師が判断できておらず、全て抗認知症薬増量で対応しようとする
  • 家族から「認知症が進みましたね〜」と言われると、医師としては「何かしなければ」という思いに駆られ、抗認知症薬を増量してしまう

 

上記のような理由が考えられる。

 

ご家族が特に介護面で困っていないにも関わらず抗認知症薬を増量するメリットは、個人的にはほぼ無いと考えている。

 

「介護面で困っていない」とは、「周辺症状で困ってはいない」とほぼ同義である。中核症状進行(記憶力低下や遂行能力低下など)については、案外ご家族の受け入れは良かったりする。これは「年をとると、こうなっていく」という感覚からだろう。

 

いつまでも抗認知症薬(中核薬)で攻め続けるのではなく、家族と相談してむしろ減らすことがあっても良いだろう。周辺症状悪化は、この自然な「加齢による変化」という感覚からは乖離しているため、家族も困ってしまう。よって、向精神薬などを用いた症状の緩和、調整が必要なのだと考える。

 

情報提供書の書き方も、まだまだ工夫が必要なのか?

 

「現状維持でお願いします」と書いても現状維持してもらえないという事例を経験し、今後はどのように情報提供書を書いたらいいのだろう?と、しばし考え込んでしまった。

 

さてどうしよう?

 

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