誤診するのは専門外の医師だけ?
気になるニュースをみつけた。
文中から一部抜粋。
専門的な知識や経験がないと、副作用と認知症の中核症状の悪化とを区別できない。その結果、別の症状が現れたと誤解し、量を増やしたり、その症状を補填する別の薬を投与したりしてしまうのだ。
これについては全く異論はない。日頃自分も同様のことを感じており、何度か当ブログでも言及している。
www.ninchi-shou.com
しかし、次の文章には首をかしげた。
「今年の診療報酬改定で糖尿病、高血圧症、脂質異常症、認知症のうち二つを診ると加算が取れる『地域包括診療加算』がついたことで、かかりつけ医が認知症を診ましょうという雰囲気になっている」
「ある認知症専門医」の発言として取り上げているのだが、実はこの地域包括診療加算のハードルは結構高いと思う。
診療所対象の地域包括診療加算の場合、
- 時間外対応加算1又は2の届出
- 常勤医師が3人以上在籍
- 在宅療養支援診療所
上記3つの要件のうち一つを満たすことが求められ、薬剤は原則として院内処方。また、算定対象となる患者全ての通院医療機関や処方薬を把握し一元的に管理することが求められる。尚、基本的に24時間対応が要求されるとのこと。
このハードルを乗り越えて、加算を取りにいく診療所がどれほどあるのだろう?少なくとも、強いインセンティブにはなり難いと思うのだが。
かかりつけ医が認知症を診ようという雰囲気になっていること自体は望ましいことであるが、この記事だとそれが「加算目当て」のように受け止められてしまう。
あと、「専門外の医師だと誤診の危険性がある」ということらしいが、この記事を読んだ専門外の医師が、「認知症は自分で診ない方がいいんだな」と思ってしまう可能性もあり、そこはちょっと心配である。
連携は大事だが、専門性を意識しすぎると、結局は全体をカバーしきれなくなるのではないだろうか?
上記記事をまとめると、
- 診療報酬加算のメリットを感じた認知症専門外のかかりつけ医が積極的に抗認知症薬を処方するようになった結果、誤診や薬の誤投与が増える。
- かかりつけ医は、認知症に「気づくこと」が大事。診断と治療は専門医に。
こういう風に読み取れなくもない。
これでは、あまり好ましくない方向にミスリードされてしまう可能性がある。
誤診や誤投与が目に付くようになってきたと言うなら、それは単純に「フォローしなくてはいけない認知症患者さん達が増えてきた」結果であり、今の時点で需要に「適切な」供給が追いついていない、ということである。
かかりつけ医がサポート医(専門医?)と連携して、地域の認知症診療を行っていくというのがいわゆるオレンジプラン。これに認知症サポーターや疾患医療センターなども密接に関連している。
しかし、現実はサポート医がかかりつけ医も兼ねていることが多く(自分は兼ねている)、分業体制になっているわけではない。
なので、かかりつけ医がサポート医に紹介しても、すでにそのサポート医も自分の認知症患者さんを(場合によっては多数)抱えていると思われる。
そして、実際には「診断してそのままかかりつけ医にバトンタッチ」という訳には中々いかず、初期段階の薬剤調整など自分で行っている間に、そのままかかりつけ医にならざるを得ないケースが多々ある。
これでは、現行のサポート医制度など容易に破綻してしまうのではないだろうか?かかりつけ医や家族が常に「専門医」を求めるのであれば、この傾向には更に拍車がかかっていく。
また、かかりつけ医の誤診や誤投与を例に挙げるなら、専門医の誤診や誤投与はどうなるのだろう。自分の体感的にはむしろ、かかりつけ医の先生の投与量の方が控えめな印象である。
問題は、専門性云々よりも
「抗認知症薬を漸増(徐々に増やす)するような用法用量規定が定められていること」
だと思う。
いわゆる「お医者さんの言う用量用法をよく守って、正しく服用して下さい」は、こと抗認知症薬に関しては相当に疑ってかかるべきである。
自分の(家族の)身体に入るものについては用心深くなるべき、ということ。
既に社会問題であるからこそ、認知症は垣根を設けることなくみんなで診るべきだろう。
医療が専門に細分化されすぎたことによる弊害が問題視されるようになった現在、認知症の分野で更に「専門性の垣根」を設けることは、時代に逆行するようなものではないだろうか。
自分は脳神経外科専門医で認知症サポート医ではあるが「認知症学会専門医」ではない。
学会専門医、取得するべきだろうか?