病型に当てはまらない症例
元々通常外来に通っていらっしゃった患者さん。
ご家族とご本人から、モザイクなしの画像使用の許可を頂いた。くも膜下出血のクリッピング術後で外来通院中であったが、徐々に同居の夫に対する金銭妄想や嫉妬妄想が出現した。
診察所見
- 上肢rigidなし
- 歩行はスムーズ
- HDSR17点(遅延再生4点 野菜語想起0点 5物品記銘3点)
- 立方体模写可
- 時計描画は位置がやや異常
- ピックスコア1点、DLBスコア1点
診察中は笑顔、しかし退室時に目つきが変わり夫に対する妄想を話しだす。
妄想出現時は人が変わったようになり、夫を罵倒する。その後は比較的ケロッとしている、とのこと。
病型診断は困難であったが、基底核の石灰化や、くも膜下出血及び動脈瘤手術による左側頭葉へのダメージ、スイッチ易怒などからDNTC〜FTLD(Pick)の路線で考えておき、まずは陽性症状のコントロールを心がけることにした。
以下に使用薬剤の変遷を記載する。
介入前から内服していた抑肝散とデパスは終了した。朝にコントミン12.5mg、夕にウインタミン6mgを入れることで妄想はだいぶ改善。
その後メマリー5mgを開始。病識が出てきたが依存心も増え、やや傾眠がちになった。メマリーは開始3ヶ月目で10mgに増量し、傾眠対策として夕方のウインタミンを終了した。
セロクエル12.5mgx3+メマリー10mgでまずまず落ち着いていたが、血糖値及びHbA1c上昇を認めたためセロクエルは中止。ウインタミン8mgx2に置き換えた。
すると、妄想は全く言わず、依存心は減って積極的に家事を行うようになった。介入から約半年で、家族から「ベストな状態」と評価を頂いた。
ただ、この頃から錯語がやや目立つようになったので、左側頭葉へのダメージを踏まえた「DNTC〜FTLD」と考えたことは、あながち見当違いではなかったのかもしれない。また、陽性症状がやや改善してからのメマリー投入及び10mg維持が功を奏したとも考える。
今回はこれで終了。
(略語説明)
- HDSR・・・長谷川式簡易知能評価スケール
- ATD(AD)・・・アルツハイマー型認知症
- DLB・・・レビー小体型認知症
- FTLD・・・前頭側頭葉変性症
- DNTC・・・石灰化沈着を伴うびまん性神経原繊維変化病
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