認知症治療において、抗精神病薬は重要な薬剤であると個人的には思っているのだが、例のFDA報告の影響が大きいのか、基本的には抗精神病薬は使わずに治療しましょう、という考えが好まれるのだろう。
抗精神病薬については、下記をご参考に。
抗精神病薬 - Wikipedia
認知症治療については海外が進んでいて、日本は遅れているのだろうか?
先日の日経新聞の記事から。
興奮などを抑える一方で副作用のリスクが問題視されている抗精神病薬が、2008~10年に認知症患者の5人に1人に処方され、以前より処方割合がわずかに増えたことが4日までに、一般財団法人「医療経済研究機構」の調査で分かった。
抗精神病薬は中枢神経に作用する薬で、複数の種類がある。認知症に伴う暴言や妄想などの行動・心理症状に使われるが、本来は適用外。処方割合が大幅に減っている欧米諸国に比べ、日本では薬に頼る傾向が残っていることが浮き彫りになった。
認知症患者は死亡や転倒などのリスクが高まると指摘されており、厚生労働省が13年に発表したガイドラインでは「基本的には使用しないという姿勢が必要」としている。02~10年のレセプト(診療報酬明細書)を基に、抗認知症薬が処方された65歳以上の外来患者延べ約1万6千人について調査。抗精神病薬が併用処方された割合は08~10年に21%で、02~04年の1.1倍だった。
このほか諸外国では推奨する根拠がないとされている抗不安薬も、08~10年に認知症患者の12%に使われていた。
お決まりの、「欧米ではこれだけ進んでいるのに、日本は遅れている!」という形式に当てはめたいだけのような報道にも思える。
海外では抗精神病薬処方が減った分、実際の介護現場がどのようになっているのか、またどのような工夫をしているのか、についての情報も欲しいところ。
- 「薬は恐いと思っていましたが、これだけ介護が楽になるのだったら、早く使ってもらうべきだった」
- 「ケアによる対応で何とかなると思っていましたが、どうしても薬の力が必要な場合もある、ということが分かりました」
このような声は、患者さんのご家族や介護の現場から幾らでも出てくる。また反対に、薬の怖さや痛い目に遭った話についても同様である。
これらは単純に、「薬は諸刃の剣である」というだけのことだろう。
認知症介護において薬物療法とケアは車の両輪だと思っている。
厚労省が示す「抗精神病薬は基本的には使用しないという姿勢が必要」という態度は、片手で介護をしろと言っているようなものではないだろうか。
得をしたのはだれ?これから得をするのはだれ?
それよりも問題なのは、非定型抗精神病薬(リスパダール、セロクエル、エビリファイなど)が、製薬会社によって「定型抗精神病薬(コントミン、セレネースなど)よりも、錐体外路症状などの副作用が出にくく安全性に優れる」というプロモーションが為されすぎたことではないのだろうか?このプロモーションによって、これらの薬剤が乱用されてしまった側面は否めないと思う。
この場合、得をしたのはこれら非定型抗精神病薬を創薬した製薬会社である。
そして、これから得をするのは誰だろうか?
最近の中核薬(アリセプト、レミニール、リバスチグミン、メマリー)の宣伝資材には、「周辺症状抑制効果が期待できる」という研究結果が乗っていることが多い。
これまで抗精神病薬が担っていた周辺症状抑制(主に陽性症状)の分野を、中核薬で埋めていこうという算段があるように思える。いわゆる「ビジネスチャンス」なのだろう。
しかし、そううまくいくのだろうか。
例えば、メマリー単独で程よく落ち着くケースなどは一部に過ぎず、ましてやアリセプトのみ、レミニールのみで周辺症状まで上手にコントロールできるイメージは、まるで涌かないのだが。
「抗精神病薬は基本的には使用しない」などと縛りを付けられたら、結局疲弊するのは介護現場なのではないだろうか。
「患者と家族が得をする」処方を心がけたいものである。
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