今回ご紹介するのは独居の73歳女性。最近迷子になりかけた、とのことで相談に来られた。
73歳女性 軽度認知機能障害
初診時
(記録より引用開始)
2年ほど前、旅行先で物を探して非常に動揺したことがあった。
最近は迷子になりかけた事がある。
HDSR:16
遅延再生:4
立方体模写:微妙
時計描画:まずまず
保続:あり?
取り繕い:なし
病識:あり
迷子:微妙
レビースコア:0.5
rigid:なし
ピックスコア:0
頭部CT左右差:やや左に有意?
クリクトン尺度:10
介護保険:なし
胃切除:なし
(診断)
ATD:
DLB:
FTLD:
MCI:△
その他:iNPH
Tabletサイン陽性かな。incomplete-DESH。左前角がやや大きい。歩行に今のところ問題ないが、少しふらつきは感じると。
今回は主に記憶力の相談で来られており、ADLは自立している。TAPテスト(髄液排除試験)はしてみましょう。
TAPテストから2週間後
家族からみて、TAP後の目立った変化はないようだ。
リハビリテーション評価においてもTAP前後で改善はない。
画像上、典型的なDESHを呈しているわけではないので、ひとまず経過観察。
脳室に左右差があるので、これは少し気をつけておく。フェルガード100Mをお勧めして3ヶ月後に再診とする。
初診から5ヶ月後
前回受診後からフェルガード100M開始。
自覚的に変化はないのでフェルガードLAに増量したいとのことだが。
5ヶ月前と比べて9点アップ。
本人は驚いている。ご家族はうなずいている。
このまま100M継続で4ヶ月毎にフォローしていく。
(引用終了)
MCIへの処方と指導について
初診時の長谷川式テストは16点と基準の21点は下回っていた。ただし、遅延再生は4点とまずまず。
これが0〜1点であれば、診断がアルツハイマーにやや傾いたかもしれない。透視立方体模写が微妙であったし、迷子になりかけたというエピソードと併せて考えると、視空間認知力低下を来し始めている、と考えられなくもない。
ただ、完全にADLが自立している方であり、自覚的他覚的な記憶力低下があるということから、iNPHを否定したあとの診断は、MCI(軽度認知機能障害)とした。
この後をどのようにフォローするかは、本当に医師それぞれだと思う。
極少量アリセプトの開始は、検討の余地があるリトマス紙的方法だと思う。しかし、もしその少量で副作用を来した場合は、最悪受診して頂けなくなる可能性がある。これを自分はちょっと恐れている。
説明した上で患者さんの希望があれば、極少量アリセプトを開始。保険薬の希望はないが、何か対策をしたいということであれば、栄養指導と運動指導及び、フェルガード100Mの内服を開始して3ヶ月後にフォロー。何も希望は無くても3ヶ月後にはもう一度フォロー。
これが、現時点でMCIの方に対する自分なりのスタンスである。
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