鹿児島認知症ブログ

鹿児島でコウノメソッドや糖質制限を実践している脳神経外科医のブログ

認知症の症状を逆手にとった介護の工夫。

何もしないで欲しいという家族の思いと、何かしたいという本人の欲求とのぶつかりあい

 
 
悩ましい常同行動
 

常同行動とは、同じ行動や行為を目的もなく何度も繰り返し続けることをいいます。同一言語を反復する「常同言語」や、同じ運動を繰り返す「常同運動」、同一姿勢を続ける「常同姿勢」、一定の箇所にいつまでも動かずじっとしている「常同行為」といった症状などがあります。精神分裂病の緊張型や自閉症、脳炎後遺症、前頭側頭型認知症などで見られる症状です。(介護110番より引用)

 

「目的もなく」とよく説明されるが、それは我々にとって理解しがたいというだけで、本人にとっては何らかの意図があるのだろう、と思っている。
 

祖母における常同行動  

 
自分の祖母は、前頭側頭葉変性症カテゴリの、意味性認知症である。
 
 
最近は以下のような行動が増えてきている。
 
  • ①隣家の畑の野菜を盗ってしまう
  • ②洗濯物が干されていたら、乾いていなくても取り込み、たたもうとする
  • ③甘い物があれば食べ続ける
 
①に対しては、隣家に前もって祖母が認知症であることは告げているので、その都度または定期的に頭を下げに行く。

②に対しては、祖母宅で極力洗濯をしないようにし、コインランドリーなどを使用している。

③に対しては、食べるものが無ければそれこそ異食(普通は口にしないものを食べてしまうこと)が増えてしまうので、ある程度大目に見つつ、週に一回の体重測定で気をつけておく。

これらの対応でまずまずな経過ではある。今のところ、常同的行動も執拗な程ではない。しかし、何らかのストレスがかかるとウロウロし出すことが多い。これが徘徊に繋がる可能性があるので、最近はウインタミンを増量した。

よくあるパターンとして

  • (母親):洗濯物を庭に干す
  • (祖母):乾かないうちに取り込んでしまい、生乾きで嫌な臭いがする
  • (母親):「なんで乾かないうちに取り込むの!」と叱り、取り上げる
  • (祖母):取り上げられたことをストレスに感じ、目つきが変わりウロウロし始める
 
だったり、他には
 
  • (母親):昼食後に掃除機をかける
  • (祖母):その間に洗い物をしようとして、上手くいかずに皿を割ったり洗い場を汚してしまったり
  • (母親):「何もしないでいいって言ったでしょ!」と叱る
  • (祖母):ウロウロし始める
 
だったり。因みに(母親)が介護者で、(祖母)が患者である。どの介護現場でもみられる、ありふれた光景だと思う。
 
 

家族に対する気持ちの切り替えは容易ではない

 

自分には理解できないことをしている親を見てしまった時の、子供(この場合は介護者)の衝撃は計り知れないものだと思う。
 
自分の親が認知症だと理解しようと努めてはいるが、心のどこかでは
 
「病気ではない。年をとっただけなんだ」
 
と認めたくない気持ちがある。故に、何度も説明して言い聞かせようとするが、理解されないと声を荒げたり叱ったりしてしまう。
語義失語(言葉の意味がわからない)があるのに、それを
 
「年をとって耳が遠くなっているだけなんだ」
 
と思い込もうとする。これは患者家族にはよくみられることである。
 
そして叱られることが祖母にとってはストレスとなり、周辺症状を悪化させてしまうという悪循環。
 
親に対する気持ちの切り替えなど、そう容易に出来るものではない。
 
しかし、技術的な対応で患者本人にかかるストレスを軽減できたら、結果的に介護者のストレスも軽減される。
 
 

常同行動を利用した介護の工夫

 
 
常同行動を利用する
 
 
 

洗濯物を生乾きで取り込むことに対しては、「乾いている衣類をあえて干しておく」ことで、祖母の常同行動を誘発させる。その間に食事の準備などをしておく。
 
また、洗い物にこだわるようであれば、
 
  • 汚れていない乾いたプラスチックの割れにくい食器をわざと出しておく。
  • 洗い物にこだわるという常同行動を誘発させ、その間に掃除機をかける。
 
このような工夫をしたところ、少し落ち着いた。
 
認知症患者、特に前頭側頭葉変性症患者の介護においては、常同行動に対してどう対応するかが重要である。
 
語義失語がある患者に、道理を言い聞かせて止めさせることは困難であり、また無理に止めさせると易怒性が高まってしまう。
 
ウインタミン投与で常同行動が落ち着くケースも多いが、上記のように

 
無害な常同行動への転換、もしくは誘発
 

がうまくいけば、薬を使うことなく対処できるケースもある。
 
こういう手法は、熟練の介護者であれば無意識に行っていることであり、また優秀な介護施設では意識的に取り組んでいるものと思う。
 
「なぜこんな行動をするんだ・・!」
 
ではイライラが募るだけだが、
 
「この行動は、別な行動に置き換えられるだろうか?」
 
と考えることが出来たら、少し冷静になれるのかもしれない。