同様の研究はこれまでも行われてきており、その結果は否定的だと思っていたのだが。
今回、CareNetで見かけた記事から考えたことを、文中記事を引用しながら書いていく。
アルツハイマー病へのスタチンの効果は人種、性別によって異なる
「高脂血症治療のために、複数の薬剤あるいは同等のスタチン代替薬を用いている特定の患者は、特定のスタチンを用いることでアルツハイマー病のリスクを減少させることができるかもしれない」と、南カリフォルニア大学Price School of Public Policy(ロサンゼルス)のJulie Zissimopoulos氏を筆頭著者とする研究チームは記している。
「適切な種類のスタチンを適切な時期に適切な人に用いることで、アルツハイマー病の疾病負荷を比較的安価に減少できる可能性がある」。
血清コレステロール値はアルツハイマー病の特徴である脳内のアミロイドプラークの蓄積と関連することが明らかになったため、コレステロールを低下させるスタチンがアルツハイマー病の発症と進行に影響を与えるのではないかと長い間推測されてきた、と著者らは指摘している。しかし臨床試験の結果は一致せず、これまでに関連は立証されてこなかった。
スタチンを使っている高齢者に対して自分が抱くのは、「"枯れて"いく人が結構いるな・・・」というイメージである。
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本研究の結論としては、
「適切な種類のスタチンを適切な時期に適切な人に用いることで、アルツハイマー病の疾病負荷を比較的安価に減少できる可能性がある」
ということらしい。適切x適切x適切。
この針の穴のような狭き門をくぐり抜けると、アルツハイマーの疾病負荷を減少できる*1可能性があるらしい。
そんな狭き門を探るぐらいなら、過剰な糖質摂取を控えた食生活にさっさと切り替えた方が、よほどマシであろう。また、
血清コレステロール値はアルツハイマー病の特徴である脳内のアミロイドプラークの蓄積と関連することが明らかになったため、コレステロールを低下させるスタチンがアルツハイマー病の発症と進行に影響を与えるのではないかと長い間推測されてきた
という記述。
「脳内アミロイドの蓄積と血清コレステロール値に相関があるため、血清コレステロールを下げれば脳内アミロイドが下がり、アルツハイマー病の発症や進行を抑制できるのでは?」という発想らしいが、もう少し掘り下げて考えた方が良さそう。
アルツハイマー発症に関与しているとされるアミロイドβだが、このアミロイドβを分解する酵素は、インスリンを分解する酵素でもある。
慢性的な高インスリン状態だとアミロイドβの分解が上手くいかず、その結果アルツハイマー病発症のリスクが上がるという機序が想定されており、このことから「アルツハイマーは第3の糖尿病」などと呼ばれている。
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インスリンは血糖を下げるだけではなく、様々な代謝に関与するホルモンである。
例えば脂質代謝においては脂肪分解を抑制し、リポ蛋白リパーゼ(LPL)の合成を促進させる。LPLとは、脂肪細胞への中性脂肪貯蔵を促進する酵素であるが、インスリンはLPLと拮抗するHSL(ホルモン感受性リパーゼ)という酵素を抑制する作用もあり、更に余剰糖質をGlut4を介して脂肪細胞に取り込ませ、中性脂肪として蓄える作用も持つ。
つまり、インスリンが放出されると、中性脂肪が貯蔵される。これが、インスリンが別名"肥満ホルモン"と言われる所以である。
その他、インスリンはアセチルCoAカルボキシラーゼ(脂肪酸合成の律速酵素)や、HMG-CoA還元酵素(肝臓におけるコレステロール生成の律速酵素)を活性化させ、脂肪酸やコレステロール合成を高める作用もある。ちなみにスタチンとは、HMG-CoA還元酵素阻害剤のことである。
これらのことから、
"過剰な糖質摂取で慢性的な高インスリン状態にある場合、アミロイドβの分解は滞り蓄積される。そして、慢性的な高インスリン状態でHMG-CoA還元酵素が活性化され続けると、血清コレステロール値も高くなる。"
という流れが予想出来る。
つまり、高アミロイドや高コレステロールはあくまでも高インスリンの結果であり、高コレステロールをスタチンで是正しても、高インスリンを是正しなければ意味がないように思うのだが、如何だろうか?
自分もそうだったのだが、糖質制限によって高LDLコレステロール状態が改善してくる方はとても多い。これは、糖質制限によって高インスリン状態を解消したからだと理解している。
上図はコレステロールの合成経路で、HMG-CoA還元酵素を介してインスリンとスタチンが拮抗しているイメージを描いたものだが、つらつらと眺めているうちに「スタチンによってHMG-CoA還元酵素が阻害され続けると、フィードバックがかかってインスリンがより分泌されてしまうのでは?」と思った。
しかし下記報告によると、スタチン内服でインスリン抵抗性は増し、インスリン分泌は減るらしい。
スタチンによる糖尿病リスク,従来報告を上回る46%の上昇 | ニュース|Medical Tribune
高インスリンが惹起され続けた結果、インスリン抵抗性が増して最終的には分泌不全を来すようになる(≒糖尿病発症)と考えられなくもないが、いずれにせよスタチンは有名な副作用である横紋筋融解以外にも、デメリットがかなりある薬だというのが今のところの自分の見解。
よって、「適切な種類のスタチンを適切な時期に適切な人に用いることで、アルツハイマー病の疾病負荷を減らそう」とは全く思わないし、むしろ心筋梗塞の既往のない高齢者、特に認知症患者に漫然と投与されてきたスタチンを慎重に外していくことの方が重要だと思っている。
その他、「アルツハイマーの診断は、統一された基準で行われたのか?」とか、「糖尿病その他のアルツハイマーのリスク因子は調整されているのか?」といった疑問も感じた。*2
今回取り上げたニュースソースのCareNetは会員限定サイトで、記事へのリンクが貼れない。代わりに、原著Abstractへのリンクを貼っておくのでご興味の方はどうぞ。
Association Between Statin Exposure and Alzheimer Disease by Sex/Race | Cardiology | JAMA Neurology | The JAMA Network