最近、自律神経に関して調べ物をしている時に知った「純粋自律神経不全症(PAF)」という病態について紹介。
以下、MSDマニュアルより抜粋引用。
純粋自律神経不全症は,自律神経節の神経細胞脱落により生じ,起立性低血圧やその他の自律神経症状を引き起こす。
純粋自律神経不全症は,以前は特発性起立性低血圧やBradbury-Eggleston症候群と呼ばれていた病態で,中枢神経系の障害を伴わない全般的な自律神経障害を指す概念である。この疾患は,中枢神経系と節前神経に障害がみられないという点で多系統萎縮症とは異なる。純粋自律神経不全症は女性に多く,40~50代で発症する傾向にあるが,死に至ることはない。
病因は通常不明である。一部の症例ではシヌクレイノパチー( パーキンソン病 : 病態生理)が原因であるが,シヌクレインの蓄積はパーキンソン病,多系統萎縮症,およびレビー小体型認知症でもみられる。一部の純粋自律神経不全症患者は,最終的に多系統萎縮症またはレビー小体型認知症を発症する。ときに,自己免疫性自律神経性ニューロパチーが原因のこともある。
(症状)
主な症状は起立性低血圧であるが,発汗減少,暑さへの耐性低下,尿閉,膀胱痙攣(失禁の原因となりうる),勃起障害,便失禁または便秘,瞳孔異常など,他の自律神経症状がみられることもある。
(診断)
臨床的評価
診断は除外診断による。通常,ノルアドレナリン値は臥位で100pg/mL未満であり,立位で上昇しない。体位性頻脈症候群との鑑別は,同症候群では通常,立位で低血圧を来さず,ノルアドレナリン値は上昇し,そして心拍数の上昇(30/分を超える上昇または120/分以上への上昇を10分間で認める)がみられることで可能である。(赤文字強調は筆者によるもの)
認知症疾患治療ガイドライン(2010)では以下のように紹介されている。
従来より、パーキンソニズムなどの他の症状を伴わず起立性低血圧を中心とした自律神経障害のみを呈し、数十年もの間緩徐にしか進行しない症例が存在することが知られており、純粋自律神経不全症(pure autonomicfailure : PAF)と呼ばれていた。近年の研究で、病理学的には交感神経節後線維にレビー小体が蓄積することが判明し、DLBと共通の病態をもつ疾患と考えられている。小阪らのいう包括的概念レビー小体病のなかにはパーキンソニズムで発症するパーキンソン病(LBD-P)、認知症で発症するDLB(LBD-D)、自律神経症状で発症するPAF(LBD-A)があるとされており、長期経過を観察した例ではDLBに移行した症例も報告されている。
DLBやMSAに繋がりうる疾患概念のようだが、レビー小体病(LBD)の枠組みで「PAF≒LBD-A」という捉え方があるらしい。かなり興味深い。
- 血圧が変動しやすい
- 明らかなパーキンソニズムなし
- 認知の変動は軽度あるものの、長谷川式テストは基本高得点
- 幻視もなしでMCIとして診ているが、何となくレビー感がある
自分の外来に来る上記のような患者さん達の一部は、ひょっとしたらPAF(LBD-A)なのかもしれない。
純粋自律神経不全症を早期に拾い上げることが出来れば、DLBやMSAへの移行を抑制することに繋がるか?
いつも参考にさせて頂いている『Neurology 興味を持った「神経内科」論文』というブログに、PAFに関する記事があった。
純粋自律神経不全症は,多系統萎縮症,パーキンソン病の病態抑止療法のターゲットである! - Neurology 興味を持った「神経内科」論文
以下、同記事より引用。
純粋自律神経不全性(pure autonomic failure; PAF)は,多系統萎縮症(MSA),パーキンソン病/レビー小体型認知症(PD/DLB)を発症(conversion)しうることが知られている.もしPAFの段階で,このconversionを予測できれば,MSAやPD/DLBのごく早期(premotor phase)での診断が可能になり,病態抑止療法の実現につながるかもしれない.今回,米国Mayo Clinicが,2001年から2011年にかけての後方視的研究の結果,PAF症例のうち,いつ,どの程度,どの疾患にconversionするかを検討した論文を報告した.
~中略~
PAFでは12%~47%の症例が診断から数年の間にconversionすること,MSAではより早期であること,特定の危険因子の組み合わせにより,高い感度・特異性を持ってconversionの予見が可能であることが明らかになった.今回の知見は,RBDについでPAFも,MSAやPD/DLBの病態抑止療法の標的になることを示している.(赤文字強調は筆者によるもの)
PAF患者の10年間を後方視的に研究したという、Mayo clinicからの報告。
自律神経機能評価は、CASSという方法で行われたようだ。
CASSはLowらにより確立された自律神経機能評価法である.本法は自律神経機能の定量的評価をするにあたり感受性,特異性,再現性,非侵襲を考慮して, 1 ) Valsalva法を 用いた血圧変化,2)定量的軸索反射性発汗検査 (Quantitative Sudomotor Axon Reflex Te st ; QSART ) ,3 ) 呼吸性心拍変動 ,4 ) Head-up tilt試験 ,の各項目で得られた検査結 果を数値化し,自律神経障害を定量化する方法であり ,異なる神経変性疾患の自律神経障害度を比較することに有用とされている .(進行性核上性麻痺における自律神経障害に関する研究、原 秀憲)
外来で気軽に出来る検査ではないため、疑ったらしかるべき機関に依頼するのがよさそうだ。
もしPAFを拾い上げたとして、その後のconversionにどう備えたらよいのか。
念押しの意味で、MIBG心筋シンチで集積低下を確認しておくのはありだろう。また、DAT-scanで線状体への取り込み低下の有無を見ておくことは、その後のconversionの方向性を探るという意味で意義はありそうだ。
起立性低血圧や排尿障害に対する対症療法がconversionを抑制することはないだろう。
自律神経失調を副腎疲労の側面から考えると、ひとまずビタミンCの補充はしたいところ。また、「チロシン→ドーパ→ドパミン→ノルアドレナリン→アドレナリン」という合成経路と、鉄がドーパミン合成の律速酵素であるチロシンヒドロキシラーゼの補因子であることを考えると、鉄はチェックしたい。
その場合、血中のフェリチンやトランスフェリンだけではなく、髄液中のフェリチンやトランスフェリンもみてみたい。
また、高度の自律神経障害では便秘が必発であり、便秘を来している患者の腸内細菌叢を想像すると、細菌同士で鉄の奪い合いをしているであろう事は想像に難くない。やはり、鉄はカギになっているように思う。
いつも思うことだが、神経内科領域は相当に奥が深い。
知らないこと、分からないことばかりである(汗)。
(「免疫回復相談室」より引用)