鹿児島認知症ブログ

鹿児島でコウノメソッドや糖質制限を実践している脳神経外科医のブログ

【実験】ナイアシン(ビタミンB3)摂取後の、ナイアシンフラッシュについて。

 当院には様々な患者さんが訪れる。そして、患者さんの相談に乗っているうちに、そのご家族の診察に繋がることが多々ある。

 

先日、ある患者さんのお孫さんのことで相談を受けた。

 

聞くとそのお孫さんは、中学生の頃にパニック障害の診断を受け、その後「自分が誰かに見張られている」と訴えるようになった、とのこと。以来、およそ20年近く抗精神病薬の内服を続けているらしい。

30代女性 統合失調症

 

初診時

 

〇〇病院かかりつけ。

 

処方薬は増える一方、体重も増加する一方と。20代前後の頃と比較して体重は約30kg近く増量していると。表情は暗く、陰性症状メインか。

 

最近、母親の病気をきっかけに仕事をせねばと思い立ってコンビニのアルバイトを始めるも、2週間でクビになったと。

 

栄養状態評価を。次回説明。

 

2回目の受診

 

Hb12.8でMCV96.4。フェリチンは48.7と悪くはないが、BUNは6.4と劇的に低くタンパク不足が示唆される。AST-ALT乖離はなし。TGは216でA1cは5.2。ペリシットと高タンパク糖質制限を勧めるかな。

 

3回目の受診


最初は中学3年生、教科書音読時に急に言葉が出なくなった。パニック障害の診断を受け、その後自宅に監視カメラがつけられているといった発言から診断は統合失調となり現在に至る。3姉妹全て摂食障害などで悩んでいると。

 

B3(ペリシット)とFe(フェロミア)補充、糖質制限で向精神薬減量を図っていく。

 

(現在の内服)

セルシン5 3T3X
テプレノン 3C3X
リボトリール0.5 6T3X
アキネトン1 6T3X
センノサイド12 4T1X眠前
ワッサーV1P1X (B3は30mg)
レキソタン5 2T2X
カマグ1g2X
クアゼパム20 1T1X眠前
オランザピン10 1T1X眠前
ヒベルナ25 0.5T1X眠前
フェノバール30 1T1X眠前
リスパダール1 頓用

 

4回目の受診

 

これまで極端な寒がりだったのが、暑い暑いという様になったとのこと。これはペリシット効果だろう。


間食はまだ多いようだが、主食は少し減らせるようになったかな?

 

精神科担当医は、頼めば薬は減らしてくれるとのこと。相談して減らしていって下さいね。


間食にはゆで卵を。アルツハイマーのお婆ちゃんも一緒にどうぞ。

 

5回目の受診

 

体重は横ばいだが、糖質制限は頑張っているようだ。ゆで卵は1日3個、小腹が空いたらコンビニのサラダチキン。

 

レキソタンを終了できている


今回からサプリメントでナイアシン500mgx2を推奨。フラッシュの説明をした。

 

6回目の受診

 

リボトリール?が朝夕1粒ずつ内服が減ったようだ


卵やチキンは飽きてきたと。頑張って。体重減少はまだ。

 

ナイアシン服用後、1週間はどうもなかったが、その後背中に湿疹が出たとのこと。すぐに消失し、掻痒感は感じなかったようだ。ナイアシンを飲むとぽかぽかして気持ちよいとのこと。その他、スキムミルク+ラカントSで便秘解消。

 

ナイアシンを1500mg/dayに増やす。次回はお薬手帳を。

 

(引用終了)

 

統合失調症の治療にナイアシンを用いるという発想

 

ナイアシン (Niacin) は、ニコチン酸とニコチン酸アミドの総称で、ビタミンB3 ともいう。水溶性ビタミンのビタミンB複合体の一つで熱に強く、糖質・脂質・タンパク質の代謝に不可欠である。循環系、消化系、神経系の働きを促進するなどの働きがある。欠乏すると皮膚炎、口内炎、神経炎や下痢などの症状を生じる。エネルギー代謝中の酸化還元酵素の補酵素として重要である。(Wikipediaより引用

 

ナイアシンを用いた統合失調症の治療の報告は、1951年のA・ホッファーまで遡ることが出来る。ナイアシン欠乏で有名な病気と言えばペラグラだが、「統合失調症も質的な栄養失調という意味ではペラグラと同ベクトル上の疾患である」という考察に基づいて、適切なミネラル補充や砂糖の除去*1、そしてメガビタミンで治療するという方法論である。

 

  ナイアシンだけが一時的な血管拡張あるいは紅潮を起こす。それはたいてい顔から始まって、身体の下の方に下がっていく。まれに脚と脚の方にまでおよぶことがある。この紅潮は、ナイアシンを規則的にとり続けているかぎり、一般的には数週間ですっかり消える。しかし全患者の一%くらいはナイアシンアミドでも紅潮が生ずるが、たいていはナイアシン反応よりは軽い。(ビタミンB-3の効果 P43より引用)

 

ここで言われている「紅潮」が、いわゆるナイアシンフラッシュである。

 

自分を含めて当院スタッフ全員がナイアシン500mgを摂取して、このナイアシンフラッシュを経験している。

 

自分は、内服後10分ほどで耳たぶがチリチリとし始め、その後手のひらが赤くなり、徐々に前腕も赤くなった。そして体幹の発赤と下腿の発赤に移行していき、2時間ほどで終息した。実感としては、少し痒みはあるものの、概ねピリピリと心地よい感じであった。

 

ナイアシンフラッシュ

 

ただしこれは個人差が大きい。

 

ある女性スタッフは内服後数分で猛烈なむず痒さを感じ、全身真っ赤に。それが数時間持続したとのこと。

 

ただし、続けて服用しているうちに徐々に慣れてくる。今回紹介した患者さんは「ぽかぽかしてくる」と表現していたが、毎年冷え症で悩んでいた当院女性スタッフが現在、250mg/dayで連日服用して徐々に掻痒感は出なくなり、手の温かさが残るという実感を得ているようだ。つまり、冷え症対策としても使える可能性がある。*2

 

詳細はここでは省くが、A・ホッファーが提唱した統合失調患者が質的栄養失調状態であること、そして治療にメガビタミンを用いるという発想はその後、ライナス・ポーリングが提唱した分子整合医学(分子矯正医学)*3という流れとなって、現在まで続いている。

 

今回紹介した患者さんはすでに、糖質制限+鉄補充+ナイアシンにより向精神薬の減量が可能となってきている。

 

今後の更なる目標は社会復帰、そしてホッファーがいうところの「納税者」になることである。家計を助けるためにバイトをしようという意欲を持てる方なので、それは可能だろうと期待している。

 

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*1:砂糖や精製穀物の除去という考えは、今の糖質制限の考えと同じである。

*2:冷え症対策でよく使われるユベラNのNは、ナイアシンのことである。

*3:その他、オーソモレキュラー精神医学など呼び方は複数あるようだ