まずパーキンソン病を発症し、その後に認知機能が低下してきた施設入所中の方をご紹介する。
従来このような方はPDD(認知症を伴うパーキンソン病)と呼ばれ、DLB(レビー小体型認知症)と区別されていたが、近年PDD、DLB共にLBD(Lewy Body Disease、レビー小体病)という包括的概念の中で捉える方向に向かっているように感じる。
薬剤過敏、薬剤抵抗性、色々と治療に際してフックとなる事柄で違いはあるものの、
今現在困っている症状に目を向け、治療の優先順位にメリハリをつける
という基本方針(個人的な)は同じである。
70代女性 レビー小体病
初診時
(既往歴)
脊髄手術
(現病歴)
ケアマネさん紹介。〇〇病院かかりつけ。パーキンソン病で約7年フォロー。途中からアリセプトが開始になったと。
最近は、夜間1時間ほどの徘徊と活気の低下、幻視で本人スタッフ共にお悩み。
(診察所見)
HDS-R:19
遅延再生:6
立方体模写:不可
時計描画:不可
クリクトン尺度:22
保続:なし
取り繕い:なし
病識:ありあり
迷子:なし
レビースコア:11
rigid:あり
幻視:ありあり
ピックスコア:-
頭部CT左右差:なし
介護保険:要介護5
胃切除:なし
歩行障害:あり
排尿障害:おむつ内に
易怒性:なし
(診断)
ATD:
DLB:〇
FTLD:
MCI:
その他:
PDD(Perkinson disease with dementia)か、DLB(レビー小体型認知症)か。現在の処方は朝にアリセプト5mg、マドパー2錠2X、サアミオン3錠3X。
まずはアリセプト5mgと、午後のマドパー1錠、サアミオン2錠を中止。いずれも幻視を悪化させている可能性あり。
夕食後に抑肝散1包と眠前にロゼレム1錠を加え、当院介入開始。ちなみに、「アリセプトが始まってからこれまでに良い変化はなかった*1」とのこと。
遠方なので、落ち着いたら再度〇〇病院にバトンタッチを。
2週間後
- 夜間の叫び声はなくなった
- RBD(REM睡眠行動異常)あり。いつのまにか脱衣していたりなど
- 日中は傾眠傾向
- 幻視あり、怯える様子はない
夜間の叫び消失は抑肝散効果かな。幻視に怯えることはないようなので後回し。対策の優先順位は睡眠に。ベンザリン2.5mgを追加。
2週間後
- 振戦が消えた
- 夜間の叫びは完全に消失
- ベンザリンで興奮(奇異反応か?)→中止
アリセプトによるドパミン低下で振戦が悪化していたのかな。当面は眠前ロゼレムと夕方抑肝散1包を継続。
4週間後
幻視ははっきり。どちらかというと夜間。そろそろ幻視対策を。
セレネース0.2mg開始。左手指にわずかに振戦あり。
4週間後
「夜間が劇的におとなしくなった」とスタッフみんなで大喜びしていると。セレネース著効。
〇〇病院へのバトンタッチについてスタッフに確認したが、当院からの処方継続を強く希望されたので、そのように。
4週間後
調子の波はあるが、夜間の叫びや他の部屋に入っていったりなどはなくなった。
日中の幻覚妄想はあるが、対応できていると。
処方維持。
4週間後
- 日中傾眠→シンメトレル50mg開始
- 夜間の落ち着きのなさ→セレネース0.375mgに増量
- 両上肢でrigid強い
4週間後
「これ以上は望みません」とのスタッフ評価を頂いた。
4ヶ月後
最近はとても落ち着いている。今後セレネースは漸減中止の方向で。
日中傾眠対策は?スタッフは今のままでもいいかな、という感じ。
次回は採血結果説明。
介護保険主治医意見書更新。
4週間後
落ち着いているが、欲を言えば午前中の活気がもう少し欲しいと。
アマンタジンは50→75mgに増量。代わりにニセルゴリンは終了に。
(採血結果)
- AST(GOT):17IU/l
- ALT(GPT):7IU/l
- カリウム (K): 3.3mEq/l
- 血糖(空腹時): 158mg/dl
- HbA1c :8.1
- フェリチン定量:52.3ng/ml
血糖は食後であり様子観察。HbA1cやや高いが、施設スタッフに可能な範囲で炭水化物を少し減らして、蛋白摂取を多めにしてもらうよう依頼。
フェリチン100を目指してフェロミア50mg開始。
ALT乖離あり、いずれビタメジン追加かな。
軽度低Kなので抑肝散は頓服に切り替える。
セレネース減量で幻視増悪はないので、終了に。
4週間後
エディロールは0.5に減量。いずれは終了かな。高カルシウムには注意を。
アマンタジンで覚醒アップ。ロゼレムなしでも眠れていると。抑肝散を使う状況はなかったと。幻視も大丈夫そう。
rigidは強いが基本車椅子ADLであり、抗パ剤増量の必要はないかな。
介入から1年経過
(採血結果)
- HbA1c :7.0
- フェリチン定量:85.2ng/ml
糖尿病は薬を使用することなく、HbA1c改善。フェリチンも上昇。次回採血でフェリチン100が確認できたら、フェロミアは終了とする。
4週間後
以前は全く眠れなかった人だが、今は眠剤を使うことなく眠れる。寝ない人達を叱るぐらいだとのこと。
便秘には頓用でアローゼンを使用している。施設としてはさほど困ってはいないようだが、マグラックスを250mgだけ入れておく。身体の固さ対策としての意味も込めて。
現在の処方は以下。
- エディロールカプセル(0.5)1T1X朝・・・いずれ終了予定
- レプリントンL(100)1T1X朝
- フェロミア(50)1T1X朝・・・いずれ終了予定
- アマンタジン(50)1.5T1X朝
- マグラックス(250)1T1X朝
(引用終了)
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