鹿児島認知症ブログ

鹿児島でコウノメソッドや糖質制限を実践している脳神経外科医のブログ

高齢者の薬(抗認知症薬を含む)は、いつまで続けるべきだろうか?

薬の止めどきについて

 

薬の止めどきは難しい

 

介護福祉士(コウノメソッド医療者)として現場で活躍されている方から、以下のようなメールを頂いた。許可を頂いたので全文掲載し、私見を述べてみる。

(引用開始)

認知症のタイプを問わず、処方された薬の止めどきというのも有りだろうと思うのです。

例えば、ATD末期、年齢90歳後半、寝たきり、全介助ともなれば、 もはやアリセプトの服用を続ける理由はないのだろうと思います。 リスク・ベネフィットの視点、効果、医療経済の視点からみても、 異論はたぶん無いだろうと思います。

LPCの人にマイスリー服用で、夜間静かに寝ていただくのも有り。 ADLがそこそこあって、夜間に動き回ることがあって、転倒など のリスク回避のためしっかり眠ってもらう。

但し、その人が寝たきりの全介助となり、昼夜を問わず眠ってい るような状態となれば、マイスリーは服用終了で良いと思います。 傾眠以上、意識障害レベル(?)ともなれば、マイスリーは毒にしか ならないのでは?

一方、甲状腺機能低下症でチラージンを服用していれば、これは 寝たきりの全介助であっても服用が必要なのでしょうか? 上記のような判断というのは、介護に携わる一般的な人には判断できないことだろうと思います。 中には、こういうやめどきを気にしないまま処方薬を飲ませ続けている看護師の職員もいます。 (上記のATDとLPCは実際にある現在進行形の事例です。)

治療の始まり、即ち薬の処方開始はクローズアップされるのですが、 やめどきについてはあまり情報がありません。 医師は、患者・家族からの相談がなければ処方をやめようという 判断をしないのだろうと思うのですが、実際どうなのでしょうか?

医療経済という観点でみると、実に無駄な処方があるようにも思えてなりません。いつか機会があれば、先生のブログで取り上げてみていただければ幸いです。

 

(引用終了)

 

Do処方の問題

 

いきなり結論じみていて恐縮だが、安易な「Do処方」の問題は大きいと思う。

 

ちなみにDo処方とは、

 

医師:「変わりは無かったですか?」

患者:「特にないですね」

医師:ではいつものお薬を出しときます

 

こういうやり取りの中で行われる処方のこと。

 

若い患者さんで、高血圧やコレステロールなどに対する薬だけであれば、殆どはこのようなDo処方でもいいのかもしれない。

 

午前中だけで40人前後の患者さんを診なくてはならないような忙しい時には、状態が安定していてDo処方が出来る方は有り難い、というのは多くの医師が感じることだと思う。

 

しかし、高齢者に対する抗認知症薬や向精神薬の用量が何年も同じままである場合、それは吟味されていない安易なDo処方が続いている、と考えるべきである。

 

インテリジェンスの問題

 

これは、医者及び患者さんや患者さんの家族、そして入所中の方であれば施設スタッフに共通する問題といえる。

 

一人の患者さんに無限に時間をかけることは不可能であり、効率的な情報収集、情報提供はとても重要である。

 

この際、如何に「面倒くさがらずに、積極的に」なれるかが鍵であり、こういった諸々を含めて「インテリジェンスの問題」と考える。

 

医師:またいつもの話か・・面倒くさいので適当に←X

家族:薬のことは先生に任せておけばいいや。良くわからないし←X

スタッフ:普段受け持ちではないから良くわからない。大体変わらないからこんなものだろう←X

 

耳が痛いことはないだろうか?

 

医師の場合

 

限られた外来診療の時間の中で、如何に効率的に情報を集めて判断するか(今の薬で本当にいいのか?用量調整や他剤への変更または中止が必要どうか)が問われる。

 

患者さんや家族の場合

 

限られた外来診療時間の中で、如何に効率的に「家ではどう過ごしていたか。前回の薬でどのような変化があったか」等の情報を医師に提供出来るか、が問われる。

 

施設スタッフの場合

 

日々のバイタルサインや傾眠の有無、食事の摂取状況、易怒性亢進がないか、など、ポイントを絞って的確に伝えられるか。その為には、「次回受診時には、必ずこの情報は医師に伝えよう」というスタッフ間での意識共有が重要。

 

薬は少ないに越したことは無い

 

必要な薬を減らすことは難しい。それでも介護状況によっては、何とか朝だけに処方をまとめざるを得ないケースなどはある。

 

ただ、薬というものは「気づいたら増えている」ことが多いのが現実。特に高齢者の場合、薬が6種類を越えてくると薬物有害事象や転倒の頻度が高まる、というデータもある。「薬は少ないに越したことはない」という感覚は、医者、患者(家族)、医療スタッフ、3者の間で共有したい。

 

ここからは、表題の薬の止めどきについて、質問内容に沿って答えてみる。

 

認知症末期で寝たきり状態

 

恐らくアリセプトなどの抗認知症薬は不要と考えるが、中止によって傾眠が強まるようであれば、減らして再開。眠剤については、昼夜逆転となるようであれば使用を検討する。

 

甲状腺機能低下症について

 

甲状腺機能低下による心不全合併、食欲低下や浮腫、便秘など様々な悪影響が懸念されるので、定期的な甲状腺ホルモンのチェックが可能であれば、チラージンは続けた方が良いと考えるが、止めるにあたっては上記症状の出現に十分な注意を払う。

 

結論

 

処方が「漫然」と続いているのであれば、それはやはり問題である。

 

患者さんに関わっている医師、家族、医療スタッフが緊張感を持って見守り続け、その結果で「処方継続」とするのなら、それは意味があることと思う。最低限のポイントを以下にまとめる。

 

  • 採血を定期的に行いモニタリングが可能であれば、チラージンなどのホルモンに関わる薬や抗てんかん薬、ワーファリンなどの抗凝固薬などは継続が望ましい。しかし、高齢者における採血データの正常値や目標数値に絶対的な指標はない。加齢に応じて徐々に減らしていく工夫は必要だろう。
  • モニタリングが不要な薬剤については、施設であれば定期的にスタッフ間で検討して、継続の是非について嘱託医と相談する。外来であれば、医師と患者(家族)が定期的に見直しを図る
  • 続けるにしろ止めるにしろ、家族と相談することが重要。薬が減ることを、「見放された」、「寂しい」と感じる家族は必ずいる

 

書いていて気づいたが、結局は関わる人達全てが「学び、実践し続けること」に尽きるのだろう。

 

振り返りの無いただのルーティンワークになってしまったら、仕事など生活のための暇つぶしにしか過ぎなくなってしまう。