鹿児島認知症ブログ

鹿児島でコウノメソッドや糖質制限を実践している脳神経外科医のブログ

「85歳以上の高齢者の17%が抗認知症薬を使用」というニュース。

 

このニュースは、世間にどう捉えられるだろうか。

 

mainichi.jp

 

抗認知症薬の年間総処方量の47%を85歳以上の高齢者が消費

 

  国のレセプト(診療報酬明細書)情報・特定健診等情報データベースを使用し、2015年4月からの1年間に抗認知症薬が処方された173万3916人分のデータを分析した。その結果、人口当たりの年間処方率は年齢と共に高くなり、85歳以上の高齢者で17%。また、年間総処方量の47%が85歳以上の患者だった。(上記リンク先より引用)

 

 

認知症の最大のリスクは「加齢」であるため、年をとればとるほど認知症の有病率は高くなる。

 

認知症高齢者の割合

厚生労働省研究班2013年の報告より



上のグラフからは、85歳以上の世代で幾何級数的に認知症患者の占める割合が増えていくことが分かる。

 

「認知症患者が多い世代に最も抗認知症薬が処方されるのは当然では?」という疑問が沸くかもしれないが、認知症には様々なタイプが存在する。そして、抗認知症薬は「全ての」認知症に効果があるわけではない。

 

現在、「ドネペジル・リバスチグミン・ガランタミン・メマンチン」がアルツハイマー型認知症に処方可能で、「ドネペジル(※先発品アリセプト)」がレビー小体型認知症に処方可能となっている。ただし、処方が可能だからといっても使ったら必ず改善があるわけではなく、副作用は常に背中合わせである。

 

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認知症の中でも最も多いタイプと言われるアルツハイマー型認知症だが、およそ認知症の7割を占めると考えられている。

 

認知症病型内訳


この比率を「85~89歳の高齢者の41.4%が認知症」というデータに掛け合わせると、41.4x0.68=28.15。つまり、85~89歳の高齢者の約28%がアルツハイマー型認知症という計算になる。

 

この計算を90~94歳、95歳以上にも適用してみると、それぞれの世代の41.5%と54%がアルツハイマー型認知症という計算になる。*1

 

抗認知症薬を処方する医師の多くが参考にしていると思われる「認知症新患診療ガイドライン2017」には、以下の様な記載がある。赤文字で強調した推奨グレード1Aとは、「強く推奨される」という意味である。

 

  Alzheimer型認知症患者の認知機能改善のために、現在使用可能な薬剤は、コリンエステラーゼ阻害薬cholineseterase inhibitor(ChEI)のドネペジル、ガランタミン、リバスチグミンの3種類とNMDA受容体拮抗薬のメマンチンである。いずれも有効性を示す科学的根拠があり、使用するように勧められる。(推奨グレード1A)・・・認知症新患診療ガイドライン2017より抜粋

 

もし、抗認知症薬処方医が皆このガイドラインを遵守して【85~89歳:28%・90~94歳:41.5%・95歳~:54%】と推定されるアルツハイマー型認知症の患者に抗認知症薬を処方すれば、なるほど「85歳以上の高齢者で17%。また、年間総処方量の47%が85歳以上の患者だった。」という結果と近似しそうに思える。

 

しかし実際には、アルツハイマーではない認知症にまで処方されているケースが、相当数含まれていると思われる。

 

風邪薬感覚で抗認知症薬を処方する医者は少なからず存在するし、

 

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寝たきりになっているのにも関わらず、抗認知症薬を規定量で維持し続ける医者もいる。そういった医者の処方が、今回発表された統計の中でそれなりのパーセンテージを占めている可能性は高い。

 

ちなみに、自験例連続943名の認知症患者のデータは以下の様になっている。

 

認知症病型分類



自分が抗認知症薬を処方する際には、厚生労働省のデータやガイドラインにおける推奨度よりも、自身の外来データとこれまでの処方経験を重視している。

 

ドイツでは85歳以上の認知症患者の2割にとどまっており、日本の処方率の高さが際立っている。(上記リンク先より引用)

 

85歳以上の認知症患者に対する抗認知症薬のエビデンスが不足している以上、EBMを重視するのであれば、ドイツを見習って抗認知症薬の処方を減らすべきという話にはなる。

 

ただし、EBMを重視して85歳未満の認知症患者に定型的に抗認知症薬を処方する率があがれば、それはそれで副作用の発現率は相当上昇すると思われる。

 

エビデンスのない85歳以上の場合でも用量用法に気をつけて抗認知症薬を使用することで改善が得られる方はいるため、一律に「エビデンスのない85歳以上には抗認知症薬は処方すべきではない」としてしまうと、薬の恩恵に預かれない人達が続出する。

 

 

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この辺りの判断は難しく、常に手探りである。

 

医者はおおよそ、3つのタイプに分かれると思う。

 

  1. エビデンスのあることだけをする(エビデンスのないことはしない)
  2. 吟味しないまま、エビデンスのないことをし続ける
  3. エビデンスがないことでも、吟味しながら慎重に踏み込んでいく

 

今回のような報告を受けて、今後2が減っていくのであればそれは歓迎できることだ。

 

自分の立ち位置は「3」である。

 

エビデンスだけで太刀打ち出来ない高齢者医療や認知症医療に濃厚に関わっており、「エビデンスのないことはしない」などと言っていたら仕事にならないのである。なので、エビデンスの向こう側は自分で開拓していくしかないと思い定めている。

 

 

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*1:重要なのは、その医師の診断が「正しい」という前提で成り立つ計算だということ。そして、もっと重要なのは「医者は簡単に間違える」という事実を患者側が知っておくこと。