鹿児島認知症ブログ

鹿児島でコウノメソッドや糖質制限を実践している脳神経外科医のブログ

「一億総活躍社会」で若者が活躍するために、栄養面で必要なこと。それは・・・・

 社会人として働き始めた当初は、慣れないことだらけである。

 

家族や友人、同期や先輩に悩みを相談したり、時には酒を飲んでくだを巻いたり、趣味に没頭したりなどなど、様々なやり方でストレスを発散し、そして徐々に実務の経験を積んで、いつの日か乗り越えていく。

 

しかし、中には乗り越えられずに退職していく若者もいる。

 

今回の記事は、そのような若者達への提案である。一億総活躍社会で活躍したい若者は必見!!(活躍したくない若者も、ひとまず読んでくれたら嬉しい)

20代男性、来年に就職を控えた大学生

 

先日、外来に訪れた独り暮らしの大学生。普段はアルバイトやゼミで忙しくしている。

 

ある日、講義が始まる前に急いで食事を摂った。その後しばらくして、気が遠のく感じがしたと思ったら倒れていた。救急搬送され、搬送先の病院で心電図をとったが異常なし、とのことでその日は帰宅。

 

数日後、夕食後数時間してからやはり同様に気が遠のく感じと恐怖感、何かがこみ上げてくるような違和感をと動悸を同時に覚え、救急要請。搬送先の病院で心エコーや心電図を行うも異常なし。後日、他院で胃カメラを受け「逆流性食道炎」の診断でPPI(胃酸を抑える胃薬)が処方された。

 

「原因がわからない」と言われることに納得がいかない、とのことで当院を訪れたのは、脳の病気を心配したからであろう(当院は脳神経外科である)。

 

とても真面目な印象の青年であった。彼の話を聞く限り、これまで受診した病院では鑑別診断として

 

  1. 心原性失神
  2. 神経調節性失神
  3. 中枢神経原性失神

 

このようなことが疑われていたようであった。

 

1については、動悸や胸痛などの前駆症状がなく、また心エコーや心電図を行った結果異常なし。24時間心電図を行ってみることは悪くはないが、今のところ可能性は低そう。

 

2については、一定時間の立位保持後の発作といったエピソードがないため、これも可能性は低そう。

 

3は、頭痛や巣症状(麻痺や失語)、しびれなどを伴っておらず、これまた可能性は低そう。

 

救急外来でチェックを受けるのは通常、緊急性の高い臓器である。即ち、心臓や脳。ここで大きな問題が発見されなければ、「まあ、今日のところは大丈夫でしょう」と帰されることが多い。緊急性の高い患者さんを優先的に捌いていく必要のある救急外来では、じっくり問診をとることは中々難しい。

 

話を傾聴しつつ、自分が注目したのは彼の食生活だった。

 

炭水化物中心の食事

 

  1. 食事の時間は大体決まっておりバラバラではない。3食食べている。
  2. 朝はパンとコーヒー。昼は丼物やコンビニ。夜はバイト先で賄い食。
  3. 炭水化物が大好き。母親曰く、異常なスピードで掻き込むように食べる。
  4. バイト先の賄い食は、ほぼ炭水化物。
  5. 2回目の発作の恐怖感が凄かった。もうあのような経験はしたくない。想像しただけでドキドキする。
  6. とても真面目で神経質、責任感の強い性格。疑問に思ったらとことん調べるタイプ。

 

問診から拾い出せた彼の特徴は、上記6つ。

 

奨学金やバイト代が入金される前の数日間は大体金欠で、その時期はカップラーメンや米だけの生活。サバ缶があればご飯何杯でもイケる。学生時代の自分はそのような生活を送っていたが、今の学生さん達もそう変わらないのではないだろうか?

 

青年の診断と採血結果

 

初診時に自分が可能性として考えたのは

 

  1. 機能性低血糖
  2. 側頭葉てんかん

 

この2つ。ただし、圧倒的に1>>>2である。

 

機能性低血糖とは、食後血糖の制御が上手く出来ないことによって起きる症状である。

 

  糖質摂取でインスリンの追加分泌が起きる→しばらくすると食事前よりも血糖値が下がる→低血糖を回避するために、アドレナリンやグルカゴンなどのホルモンが分泌される

 

このバランスが崩れると、体内で常にホルモンの撹乱状態が起きてしまう。すると、

 

  • 突然の動悸
  • 抑うつ、パニック症状
  • イライラして攻撃的になる
  • 眼前暗黒感

 

このような症状が起きる。これが機能性低血糖。

 

痙攣こそ起こしていないが、消化器症状が前駆症状としてありそうだったので、2の可能性は一応考えた。ただし、まず1に対して取り組みを行い、症状が改善したら2の可能性をそれ以上追求する必要はない、と判断した。

 

その日は採血を行い、本人には糖質制限を意識した食生活を送るように指導。特に、かきこむような食べ方は慎むように話をした。

 

なお、逆流性食道炎に対して処方されていたPPIだが、中止するように説明した。その理由だが、糖質制限を開始してタンパク質摂取が増えた際に、胃酸がしっかり出ていないと消化不良をきたす可能性があるから。胃は元々、タンパク質をしっかり消化するための内臓である。

 

そして1週間後に青年は再来院し、嬉しそうにこう言った。

 

「先生、まったく発作は出なかったです!!」

  

機能性低血糖と精神症状との関連

 

真面目な性格の彼らしく、この1週間はかなり厳密に糖質を遠ざけたとのことであった。

 

初診時に行った採血の結果がでていたので確認したところ、

 

  • Hb14.9、MCV78.3、フェリチン171.9
  • AST11、ALT7
  • BUN13.2
  • 血糖80、HbA1c5.4

 

このような結果であった。

 

数値はさほどに悪いものではない。しかし、実際に出ていた症状から「機能性低血糖」のことを類推し、その目で改めて採血結果を眺めたときに、軽度のASTやALTの低値、BUNの軽度低値に意味が出てくる。それはおいおいにして、まずは血糖値。

 

採血を行った時点で朝食後2時間は経過していたが、血糖値は80と低めの数値であった。

 

普段から糖質制限をしていると、平均して血糖値は低めになるので80という数字でどうということはない。しかし、糖質制限をしていない人が食後2時間で血糖値80という数字だと、ちょっと考える必要がある。

 

恐らく彼は、追加インスリンが大量に出るタイプなのではないだろうか。

 

急いで糖質を大量摂取し、大量の追加インスリンが分泌され、急激な血糖低下を来してしまう。そして、意識が遠のいたり、突然恐怖心が起きてパニックになる。彼に起きたのは、このようなことだったと想像する。

 

より診断精度を高めるためには、下記のような75gOGTT検査を行うべきかもしれない。

 

  1. 朝まで10時間以上の絶食のあと検査開始。午前9時頃が好ましい。
  2. 空腹のまま採血し血糖値を測定する。
  3. 次にブドウ糖(75gのブドウ糖液)を飲用させる。
  4. ブドウ糖負荷後、30分、1時間、2時間に採血し血糖値を測定する。
  5. 空腹時血糖値と75g OGTTによる判定基準に従い、糖尿病型・正常型・境界型のいずれかに判定する。

 

しかし、既にHbA1cは5.4、食後約2時間後の血糖値は80というデータがある。ここで更に上記検査を行う意義は、インスリン分泌能と厳密な食後(糖質摂取後)血糖値を測定する、ということぐらいである。

 

今回彼にはこの検査を勧めなかったが、それは何故か?

 

  1.   短時間の急激な糖質摂取後に気分不良を来すことが分かっていて、あえてやる必要はないのではないか?
  2. 糖質制限を開始して、既に症状が出ていない。また糖尿病治療薬を内服しているわけでもないのに、そこまで行う必要があるのか?

 

このように考えたからである。ただ、インスリン分泌能を詳しく調べて、より精度の高い栄養指導を行うために75gOGTTを行う意義はあるのかもしれない。

 

1週間の糖質制限で既に体調の変化を実感し始めており、また発作が出ていないことにとても感激している彼に伝えたアドバイスは以下。

 

  • ASTやALTなどの数値がかなり低い。これはビタミンB6不足が示唆される。ビタミンB6は肉魚に含まれるので、しっかり摂取を。
  • 貧血とまでは言えないが、MCVという数値が少し低めだった。食事が炭水化物に偏りすぎると、一気に貧血になる可能性はある。
  • BUNという数値が少し低い。BUNが20近くまで上がってくるように、タンパク質摂取に努めよう。たまには採血も受けてみよう。

 

時折メモをとりながら彼は真剣に聞き、そして帰って行った。

 

これまでの食生活を続けながら社会に出たとき、彼はどうなっていただろうか?

 

ひょっとしたら彼はどこかの時点で、うつや強迫性障害を発症していたのではないだろうか?と想像する。

 

目立って採血結果が悪いわけではないにも関わらず、機能性低血糖及びパニック発作と思われる症状を呈していたということから、彼の潜在的なストレス耐性はかなり低いと思われた。

 

ただ幸いだったのは、フェリチンが171と充分にあったこと。この状態で食生活を高タンパク低糖質に切り替えることが出来たので、今後に関してはそこまで大きな心配は要らないのではないか、と思っている。

 

  フェリチンは、内部に鉄分を貯蔵できる蛋白で、肝臓・脾臓・心臓など各臓器に存在しており、微量ながら血液中にも存在しています。 働きは、鉄分を細胞内に貯蔵して、トランスフェリンとの間で鉄の交換を行なって血液中の鉄分(血清鉄)の量を維持することです。(こちらより引用)

 

フェリチンの正常範囲は男性は20~280、女性は5~157。単位はng/mlで施設ごとに基準値は異なる。ただし、あくまでも個人的な印象ではあるが、実際の臨床では男性で80以下、女性では40以下なら、何らかの症状が出ているように感じることが多い。

 

それは頭痛や肩こり、抑うつなど、世間的には「不定愁訴」で済まされがちな症状である。フェリチンの是正を図らずに、これらを鎮痛剤や抗うつ剤で治療を行おうとしても、いつまで経っても良くならないことが多い。

 

鉄は、エネルギー産生の最終段階で必要なミネラルである。これが不足すると、食事を効率よくエネルギー(ATP)に変換できず、嫌気性代謝という非常に効率の悪い代謝を強いられることになる。

 

ところで、フェリチンが低い状態で糖質制限を過激にやり過ぎると、代謝のバランスが大きく崩れて体調を崩すことがある。それは、ただでさえ脂質やタンパク質を効率よく使えない状態なのに、糖質がいきなりカットされすぎると本当に身体がついていかなくなってしまうからである。

 

糖質制限の効果が短期間で発揮されやすいのは、圧倒的に男性である。それは、男性は基本的に低フェリチンとなりにくいからだと思う。女性は月経があるため、慢性的に鉄不足、フェリチン不足となりやすい。なので、女性の糖質制限はゆっくりと、かつ鉄を補充しながら行った方がより成功しやすい。

 

以下は当方の推測に過ぎないのだが、

 

学生時代の糖質中心の食生活のまま、また潜在的にフェリチン不足のまま社会に出る                                                   

仕事でこれまでに経験したことのないストレスに曝される。抗ストレスホルモンであるアドレナリンやコルチゾールが分泌される。これは血糖値の上昇を起こすホルモンである。そして、その材料はタンパク質である。                        

これまで糖質中心に回っていた身体は、ストレスを克服しようと更に糖質を求める。食生活は不規則で、その内容はコンビニの弁当中心。一緒に清涼飲料水もよく飲む。間食のスイーツはしょっちゅう食べる。過剰な糖質は過剰なインスリン分泌を促し、低血糖となったら身体は抗ストレスホルモンを動員して血糖値を上げる。

そうこうしているうちに、抗ストレスホルモンの分泌が頭打ちになってくる。無理がきかなくなってくる。

学生時代にテスト前でお世話になっていた、モンスターやライジン、レッドブルなどのエナジードリンクを大量に飲むようになる。カフェインや糖質で更に身体がむち打たれる。

エナジードリンクもいよいよ効かなくなってきた。幸福感に関係するセロトニンが減ってくる。ちなみに、セロトニンの材料もタンパク質である。

ついに、うつや強迫性障害(パニック障害)を発症する。

 

このような事が、新卒就職後に早期退職となってしまう若者達に起きている可能性はないだろうか?

 

病気を発症する理由の多くはストレスや生活習慣、食事の影響である。「薬をしっかり飲めば病気はいつか治る」という可能性は極めて低い。

 

自分は脳神経外科医であり、うつやパニック障害を専門的に診ているわけではない。

 

ただ、慢性的な頭痛や不眠を訴える人達が脳外科を受診することは多く、そのような人達を青年からお年寄りまで数多く診てきた。頭痛や不眠はうつの症状としても有名である。自分が診てきた人達の中には、うつの人達が相当数いたと思う。

 

今回紹介した大学生のような採血データは、一般的には「まあまあ問題ないでしょうね」と見逃されるかもしれない。特に女性の場合、一般採血のHb(ヘモグロビン)だけ調べていても鉄不足は見逃されがちである。フェリチンを調べて初めて潜在的な鉄不足がわかった結果、治療と改善に繋がった例を自分は多く経験している。

 

うつの人に対する一般的な指導は「バランスの良い食事、充分な睡眠、適度な運動、ちゃんと薬を内服」という内容だと思うが、自分はもう少し具体的に踏み込んで

 

  • 仕事から離れることで、抗ストレスホルモンが分泌される機会を減らせる。
  • 規則正しい生活をすることで、ホルモン(神経伝達物質)分泌の正常化が期待できる。
  • 運動をすることで筋肉のミトコンドリア増加が期待できる。それは代謝改善に繋がる。
  • 仕事に追われて急いで食事をとる必要がなくなる。ゆっくり食事をとることで、急激なインスリン分泌を回避出来る。血糖値の乱高下が起きなくなる。
  • 身体の材料となるタンパク質、そして良質の脂質摂取が大事。血糖値の乱高下を来す糖質の過剰摂取を慎むこと。
  • 鉄を意識してしっかりとること。サプリ導入も検討して。

 

この様な話をするようにしている。

 

「うつになったらセロトニン補充」という考えが間違っているとは思わない。治療の効率性という意味では、崩れたバランスを素早く補正するために薬で一時的にセロトニンを賦活する意義はあると思う。

 

ただし、薬でセロトニンを賦活してさえいればいつか治るとは思わないし、また治らなければそれは薬が足りないからだ、とも思わない。

 

しばし休養をとって症状が寛解し、「今度こそ!!」と思って仕事に復帰しても、しばらくすると症状が増悪して休養に入らなければならないケースは多いと聞く。

 

これは、ストレスから離れて薬を飲むだけでは不十分であることを示すエピソードである。

 

あと一つ重要なのが「適切な」食事ではないだろうか。そこが満たされて初めて寛解増悪の循環から抜け出して社会復帰し、晴れて薬を卒業出来る日が来るのではないだろうか。

 

ストレス耐性には当然個人差があるわけだが、過剰な糖質摂取と鉄不足がストレス耐性を下げてしまうことは、自分の臨床経験からは明らかだと感じている。

 

というわけで、今回の結論。

 

うつでリタイアした若者は、まず肉を喰おう!!

同時に、鉄を補おう!!

 

そしてもう一つ。

 

うつになりそうな若者は、エナジードリンクは止めて肉を喰おう!!そして同時に、鉄を補おう!!

 

ドサクサ紛れに個人的な願望を。

 

グラスフェッドの肉を、もっと安く手に入るようにしてくれ!!

 

若者は肉と鉄を摂ろう

 

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