鹿児島認知症ブログ

鹿児島でコウノメソッドや糖質制限を実践している脳神経外科医のブログ

「認知症による介護拒否、食事拒否」で紹介となった92才女性。

 

独居していたMHさんが施設入所となったのは、4ヶ月前のこと。

 

既往歴に心筋梗塞と心不全があり、13種類の薬を使用中であった。

 

  1. ビソプロロール(0.625)1T1XM
  2. ミカルディス(20)1T1XM
  3. ラシックス(20)1T1XM
  4. サムスカ(7.5)1T1XM
  5. アルダクトンA(25)0.5T1XM
  6. エリキュース(2.5)2T2XMA
  7. エチゾラム(0.5)2T2XMA
  8. トラムセット3T3X
  9. メマリーOD(5)1T1XA
  10. ベシケアOD(5)1T1XA
  11. イクセロンパッチ(13.5) 1枚
  12. ゾルピデム(10)1T1X眠前
  13. ベルソムラ(15)1T1X眠前

 

嘱託医からの紹介状には、「アルツハイマー型認知症です。エンシュアは気が向いたら飲んでくれますが、それ以外は拒否的で難渋しています。採血も点滴も拒否するのでお手上げ状態です。」と書かれていた。(一部意訳)

 

同伴した施設スタッフに話を聞くと、

 

「確かに食欲低下や介護拒否傾向はありますが、それよりも問題なのは頻尿です。日中のトイレ回数は15回前後と多いですが、夜間は30回ほどトイレ介助のコールで呼ばれます。結果、不眠で日中の活動性は低くなっています。」

 

とのことであった。

 

服薬状況とスタッフ情報から、大体の話は見えた。

 

施設で起きていたであろうこと

 

MHさんに起きたこと・起きていることを妄想で書いてみる。妄想ついでに、上記13種類の薬剤を番号付きで紹介していく。

 

(妄想開始)

 

心不全で入院となったMHさんだが、幸い病状は回復した。

 

しかし92才と超高齢でもあり、家族は「これ以上の独居継続は無理だろう」と判断。施設入所の運びとなった。入院中に循環器医が処方した薬は、そのまま嘱託医が引きついだ。

 

嘱託医「循環器は専門外なんだけど・・・。取り敢えず、(1~6)の循環系薬剤は触らずにそのまま処方だな。(8)のトラムセットって何だっけ・・・?えーっとオピオイドの強力な鎮痛薬か・・・これも専門外やな・・・。整形が出した薬か。どこも痛そうではないけど、取り敢えず維持だな。」

 

入所後しばらくして・・・

 

施設スタッフ「先生、MHさんですが食欲がありません。」

嘱託医「じゃあ、エンシュアを出しときます。」

 

経腸栄養剤のエンシュアは味が気に入ったようで、毎日ではないものの飲んでくれるようになった。しかし、普段の食事が中々進まない。

 

施設スタッフ「先生、MHさんですが、エンシュア以外を中々受けつけてくれません。」

嘱託医「では、(11)イクセロンパッチを13.5mgで開始しますね。(認知症だから食べないのかな・・・イクセロンパッチで食欲が出るって、何かの講演会で聞いたことあるので出してみよう。)」

 

イクセロンパッチ開始以降、特に変化はみられなかった。

 

施設スタッフ「先生、全然変わりません。」

嘱託医「じゃあ、(9)メマリーを使ってみましょう。(ヤバイ、パッチ効かない。こういう時はメマリーを足すって、ガイドラインに書いてあったな。あれ・・・?パッチは18mgにしなくてもいいのかな?まあいいか。)」

 

メマリー追加後も、目だった好変化はなかった。

 

施設スタッフ「先生、全然変わりません。体重は入所時より4kg落ちています。食欲も問題ですが、頻尿も大変です。先日は、一人夜勤なのに30回もトイレコールで呼ばれました。このままでは、他の利用者さんに目が行き届かなくなります。」

嘱託医「頻尿が大変ですか。では、過活動膀胱治療薬の(10)ベシケアを処方します。(泌尿器は専門外だけど、過活動膀胱にはベシケアが良いってメーカーさんが言っていたから出してみよう。利尿剤の影響で尿量が多いのだろうけど、心不全の既往があるから利尿薬は止めたら危ないよね。)」

 

ベシケア開始後も、夜間頻尿は相変わらずであった。

 

施設スタッフ「先生、頻尿は全然変わりません。相変わらず夜間のコールが頻回です。どうしたらいいですか?」

嘱託医「眠ってしまえばトイレにも行かなくなるでしょう。(12)マイスリー10mgを出しておきます。それでも眠らなければ、(13)ベルソムラ15mgを飲ませて下さい。」

 

眠剤が2種類加わっても、状況に変化はみられなかった。

 

施設スタッフ「先生、全然変わりません・・・・。どこかに相談しませんか?」

嘱託医「うん・・・・そうだね・・・・。」

 

(妄想終了)

 

拒否的な高齢者への投薬について

 

自身の専門領域とは別の相談を受けた時に、

 

「その悩みについては自分は専門外なので、専門の先生に相談して下さい」

 

ばかりでは自身の成長は望めないし、ポリファーマシーを助長する可能性すらある。

 

www.ninchi-shou.com

 

なので、緊急性の高い疾患や高度専門性が要求される疾患以外は、出来るだけ自分で診ることを心がけている。

 

専門外領域の診療に踏み込んでいくときには各種の診療ガイドラインが参考になるが、ガイドラインには診断の仕方や薬の使い方については書いてあっても、薬の減量方法や止め方までは書かれていない。

 

書かれていなければ自分で考えて実行するしかないが、考えたくなければ前医の処方をそのまま続けるか、ガイドライン処方を続けることになるだろう。その場合、処方の肥大化は必須である

 

挙げていったらキリがないが、今回の症例で自分が特に問題と感じたのは「利尿薬由来と思われる頻尿があるにも関わらず、利尿薬の調整をしていない」という点。

 

「採血させてくれないからBNP*1が調べられない。BNPが調べられないと心不全の具合がわからない。心電図や心エコーは出来ない。利尿薬を減らして心不全が再燃したら大変だから、前医の処方を続けるしかない」

 

恐らくこのような理由なのだろうが、下腿浮腫の有無ぐらいは確認したいところ。

 

pitting edema 下腿浮腫

healthlineより引用

 

MHさんには、下腿浮腫を全く認めなかった。

 

もし浮腫があればpit recovery time*2を測定し、心不全増悪の可能性を探れば良い。

 

減薬に伴う改善の可能性及び有害事象を事前に家族に説明したうえで、浮腫がなければ緊急を要する状態ではない考えて適宜利尿薬を減量すればよい。

 

情報提供書には「アルツハイマー型認知症」と書かれてあったが、診断の根拠については記載がなかった。心不全に対する初歩的なアプローチすら採られた形跡が無かったので、恐らくアルツハイマー型認知症という診断も「検査を拒否するのは認知症だからに違いない」と決めつけたのではないかと思われる。

 

自分としては、92才女性でHDS-R16.5/30、遅延再生2/6、取り繕いも保続もなく、4ヶ月前までは独居していた女性がアルツハイマーである可能性は、限りなく低いと思う。

 

「当院への通院は物理的に困難」とのことだったので、減薬の根拠や順番、その後の試みるべき処方の工夫を情報提供書に記載し郵送で送っておいた。役に立ってくれることを願う。

 

(引用開始)

 

(既往歴)
平成〇〇年 心筋梗塞でPCI
平成〇〇年 心不全で入院
(現病歴)

 

上記既往後に在宅困難となり、4ヶ月前に施設入所。

 

以降、4ヶ月で4kgの体重減少。本日同伴の施設スタッフ及びご家族のご希望は食欲増進と頻尿の改善。本人は、採血や点滴などは全て拒否だと。エンシュアは機嫌が良いときには2本/dayを飲んでくれると。

 

パッと見は愛想よく不機嫌な様子ではない。礼節を保ち受け答え良好。
介護記録によると、夜間30回以上のコールをした日が付きに2回。その日以外も10~15回のコール。

 

(診察所見)
HDS-R:16.5
遅延再生:2
立方体模写:拙劣
時計描画テスト:10時10分可能だが隙間あり12時の表記が2つ
IADL:0
改訂クリクトン尺度:24
Zarit:8
GDS:4
保続:なし
取り繕い:なし
病識:あり
迷子:なし
DLB中核症状:0/4
rigid:なし
幻視:なし
FTD中核症状:2/6
語義失語:なし
頭部CT所見:全般萎縮だが年齢相応か
介護保険:要介護3
胃切除:なし
歩行障害:あり
排尿障害:頻尿だが利尿剤内服中
易怒性:あり
過度の傾眠:なし

 

(診断)
ATD:
DLB:
FTLD:
その他:

(考察)

 

加齢に伴う変化がメインかな。


いきなりイクセロン13.5mgが開始となっているが、これは食欲対策?スタッフに効くと好変化なしと。4.5mgに減量して変化がなければ中止で。

 

検尿で白血球の検出はなく、膀胱炎由来の頻尿ではないだろう。利尿薬3種類が問題だが、残尿も凄い。腹部エコーで膀胱容量は排尿前800mlで排尿後は570ml。神経因性膀胱かな。ベタニスは無効だろうから中止で。かわりにエブランチル15mgx2を推奨。その反応をみてべサコリン少量かウブレチド少量を検討。

 

脛骨前面の浮腫は全く無し。利尿剤で義歯の調子が悪くなり食欲低下をきたしている可能性あり。前回心不全で入院した際には下腿浮腫が著明だったとお孫さん。

 

採血拒否でBNPモニタリングが出来ないのであれば、下腿浮腫をメルクマールにして利尿薬の減量を図る。まずはサムスカ中止で。カリウムのモニタリングが出来ないのにアルダクトン維持は・・・。ビソプロロールとミカルディス、エリキュースは残す。

 

股関節痛で以前から飲んでいるトラムセット3T3Xだが、最近は痛みの訴えは全くないとのこと。これも食欲減退に寄与している可能性あり減量中止で。

 

メマリー5mgは残してもいいだろう。ベルソムラ+ゾルピデム10mgは・・・。上記対策で眠れるようになる可能性はあるが、いずれか1剤で維持かな。

 

これらを行ってもなお食欲が戻らなければ、ドグマチール50mg+プロマック2T2X、もしくは人参養栄湯かな。

 

当院通院は困難とのことなので、情報提供書を作成し在宅医に対応を依頼。

 

(引用終了) 

 

 

*1:脳性ナトリウム利尿ペプチド。主に心室から分泌されるホルモンで、心不全の重症度を図る目安として頻用されている。

*2:前脛骨部を1~2cmほど押し込んで、戻ってくるまでの時間。40秒未満であれば膠質浸透圧低下による浮腫の可能性を考える。簡単に言うと低タンパク。