鹿児島県では、平成29年度の新規事業として、県内の高等学校、特別支援学校高等部、高等専門学校及び専修学校(以下、「高等学校等」という。)の1年生のうち、保護者の同意を得られた生徒を対象として、学校検診の尿検査の献体の一部を利用し、尿中ピロリ菌交代の有無についての一次検査を行う「ピロリ菌検査事業」を別添事業内容に則り実施することとなっております。(「ピロリ菌検査事業」における協力医療機関の募集について 鹿児島市医師会 より抜粋)
鹿児島県の事業として、高校1年生の希望者に対して尿中ピロリ菌の検査を行うことになったらしい。
一次検査で陽性または判断不能であった例は、協力医療機関へ相談することになっている。費用については、一次検査は鹿児島県が負担し、二次検査や除菌に関しては自己負担のようだ。
ピロリ菌のリスク
青少年のピロリ菌検査に関しては、佐賀県が先行している。
佐賀県は、事業開始から1年たったのを機に、中間実績を明らかにした。同意が得られた中学3年生で検体を提出した6888人のうち、1次・2次検査とも陽性だった生徒は248人(3.60%)だった。陽性者のうち15歳になって除菌を行った178人で、一次除菌の結果が出ている98人のうち85人(86.7%)が除菌に成功した。(日経メディカルより引用。赤文字強調は筆者によるもの。)
50代以上では80%以上の感染率があると言われているピロリ菌だが、佐賀県の中学3年生における感染率は3.6%だったようだ。
ピロリ菌の感染時期は、そのほとんどが幼児期と言われている。
つまり、今回検査を受けた佐賀県の中学3年生の96.4%は、今後ピロリ菌に感染する可能性は相当に低いということは言える*1。
年代が下がるごとに、ピロリ菌に感染している確率は下がっていく。先進国においては、このままの自然経過でピロリ菌は消えゆく運命にあると言える。
(セルフドクターネットより引用)
- ピロリ菌感染者の胃癌リスクは、非感染者の5.1倍
- ピロリ菌に感染し、かつ萎縮性胃炎があれば胃癌リスクは10倍
ピロリ菌と胃癌の関係について現在言われているのは、上記のようなことである。
ただし、胃癌患者の99%はピロリ菌感染者ではあるものの、胃癌にならなかった者の感染率も90%である(Cancer Epidemiology, Biomarkers and Prevention 2006年 15巻1341-1347ページ)。
つまり、感染=胃癌というわけではない。
感染していて、尚且つ既に萎縮性胃炎をきたしているのであれば、胃癌発症のリスクを下げるために除菌を行うことは、メリットが大きいだろう。
しかし、感染していても無症状で萎縮性胃炎もなければ、ピロリ菌との共存を考えてみてもよいのではないだろうか。
ピロリ菌との共存策
通常pH1~2ぐらいの強酸性を保っている胃酸だが、この条件では通常ピロリ菌は住みついてはいても増殖はしにくい。ピロリ菌が最も活動できるpHは6~7ぐらいと言われている。
感染はしていても共存出来ている人達は、胃内pHを1~2に保てているのだろう。
この条件を保つためには、
- ストレスマネージメント
- 制酸剤(胃薬)をむやみに使わない
この2点が重要だと思う。
ストレスにより交感神経が活性化され副交感神経の働きが抑えられると、胃酸の分泌が抑えられてしまう。
また、ストレスにより交感神経が活性化されると、顆粒球が増える。増えた顆粒球がピロリ菌に反応すると大量の活性酸素が放出され、潰瘍が形成される。
そして、H2-blockerやPPIといった胃酸を抑える制酸剤が処方される。制酸剤というものは、一旦処方されるとダラダラ続きやすいので気をつけるべき薬剤である。
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制酸剤を内服している間は胃内pHを低く保つことは難しくなり、ピロリ菌は活動しやすくなるはず。ピロリ菌が活動すればするほど、胃癌のリスクは高まる。
既に胃癌発症リスクが高い人には、ピロリ除菌は有効な手段の一つだろう。しかし、腸内細菌に大切な役割があるように、長年人類と共存してきたピロリ菌にも何らかの役割があるように思う。
胃がチクチク痛んだときには、制酸剤を飲む前に「これはピロリ菌からのメッセージでは?」と考えて、自身のストレスチェックを行いストレスマネージメントに努めてみてはいかがだろう。
そして、制酸剤を飲んで症状の改善が得られたあとは、いつ薬を止めるか早めに検討しよう。
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