今回は、他院でアルツハイマー型認知症の診断にてドネペジルが処方されていたATさんに対して行った工夫を紹介する。
ちなみに、よくあることだがアルツハイマー型認知症ではなかったのでドネペジルは止めている。その上で行った工夫、ということである。
不安や抑うつという陰性症状に不眠がくっついているケースには、トラゾドン(抗うつ薬)が結構な打率で効く。
- 陽性症状+不眠には、夕食後にクエチアピン+眠前にニトラゼパム
- 陰性症状+不眠には、夕食後にトラゾドン+眠前ニトラゼパム
クエチアピンは6.25mg~50mg、トラゾドンは12.5mg~75mg、ニトラゼパムは2.5mg~10mgで調整している。
認知症高齢者の高度不眠に対しては、少量の抗精神病薬もしくは抗うつ薬、もしくはロゼレム(ロゼレムは一応眠剤)を夕方に入れて睡眠の準備を行い、眠前に少量の眠剤で寝てもらうようにすると上手くいくことが多い。
その他、「夕方に抑肝散1P+眠前酸棗仁湯1P~2P」という組み合わせも、そこそこの打率である。眠剤によるフラツキが懸念される患者さんであれば、漢方から試すのがよいだろう。
80代女性 依存心の強い、陰性症状中心の女性
初診時
(現病歴)
施設入居中。
同伴スタッフ曰く、依存心が強く特に夜間帯はコールが頻回。以前、手術入院中にせん妄、不隠行動あり〇〇病院より向精神薬の処方を受けている。
脳梗塞の既往もあり。投薬の工夫について相談。〇〇クリニックより紹介状あり。施設希望は依存心の改善。
(診察所見)
HDS-R:23
遅延再生:3
立方体模写:可
時計描画テスト:拙劣
IADL:1
改訂クリクトン尺度:20
Zarit:11
GDS:5
保続:なし
取り繕い:なし
病識:ありあり
迷子:なし
DLB中核症状: 1/4
rigid:なし
幻視:なし
FTD中核症状: 1/6
語義失語:なし
頭部CT所見:右放線冠と左基底核にLDA
介護保険:要介護2
胃切除:なし
歩行障害:なし
排尿障害:なし
易怒性:なし
過度の傾眠:なし
(診断)
ATD:
DLB:
FTLD:
その他:
(考察)
不安からの依存亢進なのか。ちょっと厳しい評価のような気もするが、施設としては自分で出来ることには自分で取り組んで欲しいと。
日時見当識は抜群に良い。ATD要素はほぼなしだろうから、内服中のドネペジル5mgは中止とする。
GDSは5/15と低いが抑うつ表情は気になるのでトラゾドン25mgで睡眠対策と抑うつ対策を開始する。既に内服中のニトラゼパム5mgは残す。日中活気対策はサアミオンを考えておく。
2週間後
親戚の不幸に心を傷めている。
ドネペジル終了に伴う有害事象はない。睡眠の質も特に変わらないと。
トラゾドンを37.5mgに増量。50mgまでは検討する。
2週間後
トラゾドン増量で夜のコールは減った。
現在、0時と3時にスタッフが声かけしてトイレ促しをし、それ以外は本人コールで4回ほどトイレに行く。スタッフ促しを止めてみたら?
ウリトスをお試しで。トラゾドンは50mgに増量。
5週間後
トラゾドン増量で睡眠の質は確実に良くなった。ウリトス併用した夜はコールは3回。それ以外は5~6回。
ウリトスを定期内服に昇格させる。良い感じにまとまってきた。受診前日は何故か病院受診を怖がるのだと。診察室ではそのような素振りは見えないが。
ATさんと一緒にiPadで写真を撮影。それを、受診前日にスタッフが見せることで安心が得られるかを試す。
介入から3ヶ月後
夜間コール回数は更に減少し、トイレ介助をお願いしたいという訴えの時のみになった。
本人も、「ここで貰う薬で、調子が良くなった実感があります。嬉しいです。」と。
同伴スタッフも、「現状特に問題はなくなった」と評価。iPadでの写真提示も安心に一役買っている様子。
良かったですね。一緒に写真を撮影してプレゼント。
(最終処方)
- トラゾドン(25)2T1X夕食後
- ニトラゼパム(5)1T1X眠前
- ウリトスOD(0.1)1T1X眠前
(引用終了)