嘘のような本当の話。
50代女性 頭痛
年来の頭痛の相談で、2年ほど前に来院されたAさん。
片頭痛に特化した鎮痛薬のアマージを月に20錠ほど飲むことがあるらしく、薬物乱用型頭痛に嵌まっている可能性が濃厚に疑われた。
20代からの嘔気を伴う拍動性の頭痛は、片頭痛で間違いないと考えた。ただし、後頚部の過緊張及び、こめかみを締め付けられるような頭痛もあるとのことから、片頭痛だけではなく緊張型頭痛も合併していると思われた。
緊張型頭痛に対してはテルネリンで対応するように説明したところ、アマージを使う頻度は月に3~5回と激減した。しかし、
「夜中や明け方に強い頭痛で目覚めることがある」
という訴えは、長く遷延していた。
ある日、久しぶりにAさんが来院した。長かった髪をバッサリと切っていたので、「大分イメージが変わりましたね」と話しかけたら、Aさんから帰ってきた答えがこうだった。
「先生、夜中や明け方の頭痛が無くなりました!」
結髪頭痛≒人為的緊張型頭痛
病気やガンの治療などで毛髪を失った人に役立てて貰うために、自分の髪の毛を切って提供する「ヘアドネーション」という活動がある。
Aさんはヘアドネーション目的で髪を伸ばしていたのだが、長さが目標に達したので、先日70cmカットした。すると、その翌朝から爽快感と共に目覚めることが出来るようになったらしい。
明治35年に出された医学士久保による記事では、日本髪を結ったままにしておくと頭痛を引き起こし、血行が悪くなって禿げの原因になるため、ときどき髪を梳いて風通しを良くするよう書かれている(黒髪と清潔 : 明治中期~大正にかけての婦人衛生雑誌から読み解く黒髪の変遷)
きつく髪を結うことで起きる頭痛や脱毛の問題は、明治時代に既に指摘されていたようだ。
Aさんは更に、風呂上がりで生乾きの髪のまま結髪して寝ていたそう。長い髪を完全に乾かすのは難しいことだと思うが、寝ている間に頭皮が冷えて血行不良となり頭痛が悪化していた可能性は否定出来ない。
一般に、頭痛で最も有名なのは片頭痛だが、最も頻度が多いのは緊張型頭痛で、慢性頭痛のおよそ7~8割を占めると言われている。
緊張型頭痛は、パソコンを長時間扱う事務系の仕事や、長距離移動、立ち仕事に従事している人に起きやすい頭痛で、近年ではスマートフォンの見過ぎでも起きているケースが散見されるようになった。特徴を、以下に列挙する。
(緊張型頭痛の特徴)
- 精神的なストレスや不自然な姿勢、疲労が原因
- 僧帽筋~後頚部の筋肉が緊張し、血管が圧迫され血行不良となると発症する
- 「頭を鉢巻で締めつけられているような痛み」と表現されることが多い
- 目の疲れやめまいが生じることもある
- 夕方から夜にかけて、痛みが増悪しやすい
意図せずのことではあったが、Aさんは寝る前に結髪することで、自ら緊張型頭痛を作り出していたことになる。そして、この人為的な緊張型頭痛を片頭痛と間違えてアマージを飲んでいた。
アマージは当然効かないのだが、それに気づかずに内服回数がいつの間にか増えていった結果、薬物乱用型頭痛まで抱え込むようになってしまったと思われる。
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侮れない結髪頭痛。
- 普段からきつめに髪を結っている
- 髪をきつく結って寝ている
- 夜中や明け方に頭痛で目が覚める
このような女性、または髪の長いロックミュージシャンの男性は、髪をバッサリ切りましょうしばらく髪を結わずに過ごしてみては如何だろうか。それで頭痛が改善したら、結髪頭痛(≒人為的緊張型頭痛)だったということになるだろう。
勿論、生乾きの髪をそのままにして寝るのが頭痛に良くないこともお忘れなく。