鹿児島認知症ブログ

鹿児島でコウノメソッドや糖質制限を実践している脳神経外科医のブログ

【症例報告】前頭側頭型認知症の改善例(ケアマネさんのファインプレー)

 今回紹介するのは、典型的な前頭側頭型認知症の方(UTさん)。

 

2年前にアルツハイマー型認知症の診断を受け、アリセプトが出されて易怒性亢進というお約束パターンに嵌まり続けていたのだが、担当のケアマネさんが気づいて連れてきて下さったことで改善に繋がった。

 

自分事として患者さんや家族のことを捉えるケアマネさん達は、覚悟の上で一歩踏み込み、「このままでは悪くなる一方だ・・・」と悩んでいるご家族の背中を押して、他院受診に繋げていく。

 

「意を決して連れて行った*1患者さんが良くなってくれた」という想いは、今後のモチベーションアップに繋がる。

 

「認知症なんて、どうせ進行するんでしょ?」と敗北主義にまみれていると、著効例に出会えない。著効例に出会えないと、いつまで経っても仕事を面白く感じることは出来ない。

70代男性 前頭側頭型認知症

 

初診時

 

奥さんと娘さん、ケアマネさんの四人で来院。


(現病歴)

 

現在、妻と二人暮らし。

 

3年前から認知機能の低下が著明となった。2年前に〇〇クリニックでアルツハイマーと診断されてアリセプトが開始となったが、改善はなく、むしろ易怒性が亢進。

 

以前は友人と畑仕事を楽しんだりしていたが、今はしなくなった。落ち着きなく頻繁に室内や庭を行ったり来たり。デイサービスは利用している。デイ中に帰宅願望はあるものの、勝手に出ていくことはない。

 

現在のかかりつけ医に対する多大な不満がある(ご家族が?)。ケアマネの勧めで当院受診。

 

(診察所見)
HDS-R:18
遅延再生:0
立方体模写:不可
時計描画:可
IADL:1
改訂クリクトン尺度:34
Zarit:22
GDS:3
保続:なし
取り繕い:なし
病識:なしなし
迷子:あり
レビースコア:ー
rigid:なし
幻視:なし
ピックスコア:ー
FTLDセット:ー
頭部CT所見:明らかに右有意萎縮
介護保険:要介護1
胃切除:なし 胆嚢摘出
歩行障害:なし
排尿障害:頻尿
易怒性:あり
傾眠:なし

(診断)
ATD:
DLB:
FTLD:◎
その他:

(考察)

 

典型的なFTD。「困り事はなし!CTは無理!さようなら!」といった感じで、診察中も使用行動は頻繁に出現し、腕組み足組みも頻発。機嫌は悪くないが、唾を襟元になすりつける常同行動が目立つ。

 

アリセプト中止。レザルタスHD(降圧薬)とネキシウム(胃薬)はひとまず維持。

 

抑制系薬剤が必要だが、ウルソ内服中(経緯不明)であることを考慮して、ウインタミンではなくクエチアピン12.5mgを選択し、夕方に内服とする。眠剤はニトラゼパム5mgを選択。

 

ご家族の希望としては、夜しっかり寝て欲しいのが一番。夜中に起きて出かけようとするのを止めるのが大変と。まずはここから介入。 出された薬はちゃんと飲むとのこと。

 

次回は採血結果説明。3年前から10回以上意識消失?を繰り返しているという情報は気になる。一度Holter心電図を装着するも、嫌がって途中で外してしまったとのこと。てんかんの可能性についても聴取が必要。

 

4週間後

 

受付で「薬を頂戴ね」と。待合で笑いながら穏やかに待っている。

 

眠前ニトラゼパム0.5Tへの変更*2で、過眠にならずちょうど良い感じに。起床時のぼーっという感じもなくなった。

 

日中ふらっと出かけることもなくなり、落ち着いて新聞を読んだりして過ごせるようになった。デイでもレクリエーションに積極的に参加出来るようになった。

 

食事中は、以前は集中力がなく他のことに興味が移り続けていたのが、声かけなく集中できて薬も自分で飲むようになった。昨日は選挙に行き、候補者名もちゃんと記載できたことに、奥さんは驚いたと。

 

クエチアピン12.5mg+ニトラゼパム2.5mgが著効*3。維持する。良かったですね。

 

今後は、採血でBUN6.3の原因を探っていく。肉は大好きでよく食べているようだが。HbA1cは5.0でクエチアピンは継続で問題なし。フェリチンは400。

 

(引用終了)

 

ピック病の頭部CT

左右差のある脳萎縮

*1:自分の責任で病院を引っ越しをさせるというのは勇気が必要。患者さん達を他人と考えていては、なかなか出来ないことだと思う。

*2:服用開始数日後、奥さんから翌日に持ち越しているかもしれないとの連絡を頂き、0.5Tへの減量をお願いしていた。

*3:勿論、アリセプト中止が前提にあってのこと。誤診により、アリセプトで無駄に刺激され続けていたということである。