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認知機能ではなく、運転技能で免許更新を|ニュース|Medical Tribune
免許を交付するのも停止するのも警察。医者に免許取り消しの責任を負わせようとしていないか?
新井氏は私見として「本来、運転免許証の更新の可否は運転技能によって判断すべきであるにもかかわらず、認知症という医学的概念を根拠にしていることが最大の問題である。75歳以上でも実車試験と学科試験を行って判断すべきである。実行機能としての運転技能が低下していると判断されるなど、認知症が疑われた場合は、運転免許証の自主返納を促すことが最も望ましい」と述べた。(上記リンクより引用)
完全に同意である。
免許停止後の生活の支え方についての議論はひとまず措いておいて、
- 認知症が疑われた場合には、医者は免許の自主返納をひとまず患者さんに促し、警察に報告する。警察ではその報告に基づいて運転技能検査(実車試験と学科試験)を行い、パスしたら免許継続。パスできなかったら免許停止。
- 警察は、違反の際や免許更新時に運転技能検査(実車試験と学科試験)を行い、パスしたら免許継続。パスできなかったら免許停止。
こうすることが出来れば凄くわかりやすいし、納得できる人も多いのではないだろうか。
出来れば、学科試験は免許取得時の試験よりも簡略化した内容にして、実技試験に重きを置いた運転技能検査であれば言うことなし。
「認知症≒免許停止」としてしまうと、自分を認知症とは思っていない(病識のない)患者さん達は、まず納得しない。挙げ句の果てには、自分を認知症と診断した医者や、自分を病院に連れて行った家族を恨むようになる。
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しかし、「認知症だから免許停止」ではなく「運転技術が衰えたから免許停止」であれば、万人が納得するとまでは言わないが、少なくとも無理はない。
「無理を少なく」という発想は、制度を設計する際に根本とすべき大事な考え方だと思う。
しかし残念ながら、先般改正された道路交通法には無理を感じる。
それは、警察が
本来、運転免許証の更新の可否は運転技能によって判断すべきであるにもかかわらず、認知症という医学的概念を根拠にしている
ことから生じる無理である。「筋が悪い」と言い換えてもよいかもしれない。
もともと運転免許証というものは、自動車学校で訓練した結果、技術と知識が及第点に達したと判断した警察が発行するものである。
理由は何にせよ、技術と知識が伴わなくなったら免許は停止するという理屈であれば、スッキリと筋が通る。
確定診断を得ることが現状難しく、また診る医者によっても見解が異なりうる「認知症という医学的概念」を根拠にする限り、無理が生じて当然である。
その無理のしわ寄せを警察が負うのであれば、まだ話はわからないでもない。「免許を発行したのはあなた達だから、取り消すのもあなた達の責任だよね。できる限り協力はするけど、頑張ってね。」ぐらいのものである。
しかし、免許停止の理由を、運転技術の低下ではなく「病気」を根拠にすれば、自分らの手を汚すことはなく医者にその責を負わすことが出来る。
「お医者さんが診断したのだから、しょうがないでしょ?」
と。
実に巧妙である。
なかったことにされた、診断書提出命令
先日、警察から運転免許継続に関わる診断書提出命令を受けた患者さんが当院を受診した。もともと、当院がかかりつけの方である。
自分の診断は「軽度認知機能障害(MCI)」。診断書にも、その根拠はきっちりと記した。現行法では、半年後あたりを目処に再評価ということにはなるものの、MCIで即免許停止にはならない。
しかしその後、警察から患者さんに「もう一度、専門病院を受診するように」と連絡があったらしい。
これは、「臨時適性検査を受けるように」ということだと思うのだが、かかりつけ医が書いた診断書に対して警察が不服があれば、直接かかりつけ医に照会を求めたらよいであろう。
それをせずに患者さんに直接上記の様な命令を出す警察の意図とは、一体何であろうか?
それは、「免許停止の直接的な責任を回避したい」という理由以外に、「金銭的な」ことも絡んでいるのではないか、と個人的には睨んでいる。
診断書提出命令の場合、診断書作成料やCT検査料など、病院を受診して生じた費用は患者さん持ちである。いっぽう臨時適性検査命令であれば、その費用は警察持ちとなる。
診断書提出、臨時適性検査、それらにまつわる費用のことについては、下記記事をご参考に。
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診断書提出命令の結果、診断書に認知症と書いてあれば免許を取り消しに出来る。警察の懐は痛まないし、取り消しの責任を医者(かかりつけ医)に負わせることが出来る。しかし、最初から臨時適性検査命令にすると、取り消しの責任は医者(この場合は専門医)に負わせることが出来るのは同じだろうが、警察の懐は痛む。
警察の心の中を代弁すると、
「警察が認知症と見做したら、基本的に免許は取り上げる方針だよ。ただし、その費用を警察は出したくない。なので、まずはかかりつけ医には診断書を書いてもらうけど、ちゃんと警察の意図を『忖度』して診断書を書くように気をつけてね。」
こういうことなのかな、と思った。
交通安全協会費を、「高齢者運転技能検査費」にしてみたら?
これまで述べてきたように、免許を発行するのも停止するのも警察である。
その警察の責任の下で、「運転技術が伴わなくなってきたから免許は停止」とするやり方が、高齢者の(敢えて認知症患者とは言わない)運転免許卒業にあたっては、最も穏便な方法ではないだろうか。
「費用はどうするんだ?全部警察持ちなのか!?」と息巻く警察官僚がいるかもしれないので、一つご提案を。
(提案という名のイヤミ開始)
免許更新時に、義務ではないにも関わらず、ろくな説明もなく徴収される悪名高い「交通安全協会費」というものがありますよね?
これを「高齢者運転技能検査費」と名称変更して、交通安全協会は高齢者の運転技能検査を行う団体という風に組織改変を行いませんか?
勿論、「高齢者運転技能検査費」の徴収及び使用用途についてはしっかりと説明を行うことが必要です。運営実態及び、協会の交通安全への寄与度がはっきりせず「警察の天下り団体」と揶揄される現状よりは、よほどいいのではないでしょうか?
(イヤミ終了)
交通安全協会とは、Wikipediaによると以下の様な組織である。
職員の多くは、退職警察官である(天下り)。多くの都道府県において、運転免許証の更新時講習を都道府県警から委託されており、都道府県警から支払われる委託費用が、収入の多くを占めている。
多くの優良ドライバーにとって、更新時講習は退屈なものでしかない。型どおりの講習に費用を費やすよりも、思い切って優良ドライバーの講習を簡略化して費用を浮かせ、その分を高齢者の運転技能チェックにつぎ込んだらよい。
「高齢者運転技能検査費」をどのように徴収するかについてだが、
- 65歳以上のドライバーからは全て、高齢者運転技能検査費を頂く(強制)。
- 65歳未満のドライバーには寄付を依頼する(任意)。
若年性認知症の定義が「65歳未満」というところから、上記のような設定を考えてみた。
強制徴収の年代が若いほど徴収額は増えるだろうが、負担感もそれだけ増す。「他人事ではなく自分事」と捉えて頂きやすい年代という意味で、65歳は一つの目安にしてもいいのかなと思う。
こうして集めたお金と都道府県警からの委託費で、運転技能検査に要する費用を賄う。
臨時適性検査は、少なくとも認知症高齢者に対しては行わない*1。そうすると、臨時適性検査に要する警察の出費は浮く。
診断書提出については、普段診ているかかりつけ医からの警察への交通安全に関わる情報提供という理由で残す。その費用は患者さん側持ち。その後の運転技能検査の費用は警察持ち。
患者さんには特に「認知症」とは言わず*2、「透視立方体模写と時計描画テストの結果から、視野が狭くなってきている可能性があります。これは一度、事故を起こす前に警察でチェックしてもらった方がいいですよ。」といった説明を行う。
残念ながら免許更新出来なかった際には、「いつのまにか、力が衰えていたんですね。事故を起こす前でよかったのかもしれませんね。今後の工夫を一緒に考えていきましょう。」といった声かけを行う。
先だっての改正道路交通法よりも、社会的コンセンサスはこちらの方が得やすいように思うのだが如何であろうか?