アリセプトによる興奮は有名であるが、メマリーによる興奮も時々経験する。開始や増量直後であれば分かりやすいが、しばらく同じ量で維持している間に徐々に興奮してくることがある。
これに気づかないと、抑制系薬剤の無慈悲な増量に繋がってしまうので気をつけたい。
80歳女性 特発性正常圧水頭症+レビー小体型認知症?
初診時
(既往歴)
脳梗塞後遺症で軽度右片麻痺後遺 〇〇病院かかりつけ
(現病歴)
7年前に転倒骨折。その後から整容の乱れが始まった。2年前から物忘れが目立つように。料理や掃除が苦手になり、近医でアリセプトやメマリーが始まった。特に改善の実感はなかったようだ。
同年に脳梗塞を発症し、軽度右片麻痺が後遺した。先月から嫉妬を中心とした妄想が出現。初めは遠慮がちに、最近はおおっぴらに妄想を口にするようになった。
(診察所見)
HDS-R:15.5
遅延再生:3
立方体模写:何とかOK
時計描画:何とかOK
IADL:0
改訂クリクトン尺度:25
Zarit:27
GDS:5.5
保続:なし
取り繕い:あり
病識:あり
迷子:なし
レビースコア:4 風邪薬が効きすぎる レム睡眠行動異常あり
rigid:なし
幻視:なし
ピックスコア:2
FTLDセット:ー
頭部CT所見:DESH 基底核石灰化
介護保険:要支援1 デイサービス週1
胃切除:なし
歩行障害:すり足著明
排尿障害:頻尿 失禁
易怒性:あり
傾眠:あり
(診断)
ATD:
DLB:△
FTLD:△
その他:NPH
(考察)
遅延再生は3/6。ATD(アルツハイマー型認知症)陽性症状悪化の可能性はあるが、比較的短期間での悪化ではある。
iNPH(特発性正常圧水頭症)+DLB(レビー小体型認知症)の可能性を考える。これまで、長谷川式テストを受けた記憶がないとご主人。NPHの3徴*1を説明すると、同伴の娘さんは強く頷いていた。独特の暗さはDLB的かな。疎通はさほど悪くはないのだが。
メマリーを15mgから5mgに減量し、クエチアピンを25mgx2から37.5mg1x夕に減量変更。同時にロゼレムを夕方に内服、眠前ニトラゼパム5mgと併せて2段締めで睡眠対策。
頻尿対策は眠前ウリトス0.1mg。ご主人の疲弊感はかなり強い。サプリご希望欄に〇がついていたが、これは後日。
〇〇病院にタップテスト依頼。
6日後
ご家族より電話あり。先日の受診後、しばらくは落ち着いていた。しかし、昨晩は物を投げたり人をたたいたり庭で大声で叫んだり。今晩が心配なので受診させたいとのこと。
診察時、近日予定されているタップテスト検査入院への不安を口にしていた。このことが引き金となって高活動性のせん妄を呈したのか?予定入院は、いつでも延期できることをお伝えした。
頓用でリスパダール内用液0.5mgをお渡し。
念のために入院依頼の紹介状を作成し、精神科の〇〇病院へ連絡をとっておく。
翌日
(当院からご家族に電話)
リスパダールをお茶に混ぜて飲んだところ少し落ち着き、穏やかになった。
夜中に起きた時に、一人で立ち上がることが出来なかった。朝7時に起床。歩いてトイレまで行くことが出来たが、ふらつきが目立っていたと。
(夕方 ご家族からTEL)
精神科の〇〇病院からは、「うちは統合失調症の入院患者が多く、その状況に混乱してしまうかもしれないのでショートステイを利用したほうがいいのでは?」といわれた。
CMに相談し 有料老人ホームに明日面接に行くことが決定したとのこと。(看護師〇〇記載)
4日後
(当院から電話)
ショートステイの予定が組まれた。
その後、〇〇病院でタップテストを受ける予定となった。本人もそれで納得しているとのこと。
4日後
(有料老人ホームよりTEL)
入所してから便が出ていない。37度代の微熱・濃縮尿・腹部膨満あり。1日1リットルちょっとの水分摂取と食事は取れている。睡眠も眠剤使用で良好。施設内にあるマグミットを使用しても良いかのご相談。
Drに確認し、マグミット500mgを朝服用、様子観察し排便なければ1日2g以内で調整をとお伝えした(受付〇〇記載)
2週間後
〇〇病院でタップテストを終えて来院。
「穏やかになったかな?」、というのがタップ後のご主人の感想。しかし、これはメマリー減量の影響もあるかもしれず、なんともいえないかな。家庭天秤でクエチアピンは12.5mgになっている。攻撃性は全く無くなったとご主人は喜んでいる。
眠前のウリトスとニトラゼパムは、今はなくても大丈夫だと。そのまま終了で。
介護保険区分変更をかけて、リハビリ導入を。LPシャントはしばらく様子見。
4週間後
ご主人が、ご自分の麻子仁丸を飲ませたところ、するする便が出たようだ。今回から処方。
日中は1時間おきぐらいの頻尿。自分で行けるようになった。夜間頻尿はなし。朝方に自分で行ける。今は失禁はなし。食欲もある。
今回は車椅子ではなく杖歩行で来れた。介助量は減っている。近医で腰痛の相談をしたところ、LCS(腰部脊柱管狭窄症)の診断。ただし鎮痛剤頓服のみ。
ご本人、ご主人、しみじみと感謝の念を述べる。ひとまず落ち着いたかな。いずれクエチアピンは減量を。次回は採血結果説明。
介入から3ヶ月後
麻子仁丸はご主人が調整中で残あり。
デイサービスに週に3回。みんなの輪に積極的に入るわけではないが、楽しんではいるようだ。時間があれば、外の掃除をしていると。
表情から混乱は消え、とても穏やかになった。「ここに来ると安心する」と言って下さる。
ご主人も、「今は大きく困る事はないです」と。息子さんも笑顔。
クエチアピンを6.25mgに減量。次回で終了出来るかな。 採血も概ね問題なし。
3ヶ月でクリクトンは25→16に、Zaritは27→6に改善。家族負担は確実に減っている。
(最終処方)
- メマリー5mg 夕食後
- クエチアピン6.25mg 夕食後
- ロゼレム8mg 夕食後
- シロスタゾール100mgx2 朝夕
- マグミット500mgx2 朝夕
- 麻子仁丸2.5gx2 朝夕
(引用終了)