先日、父が心不全で入院した。
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外来での心不全治療では限界があった
前回記事で報告したように、ここ数年は骨折で入退院を繰り返していた。
父の活動性が低下したにも関わらず、母は「水分は大事だから」と、以前にも増して水を飲ませていたようで、あっという間に下腿浮腫をきたし始めた。あとで確認したところ、「2リットル/day以上は飲ませていたかなぁ」とのことだった。
脱水は脳梗塞再発リスクを高めてしまうため、脳梗塞の既往がある父を心配した母の行動は致し方なかったと思う。
短期間で両側大腿まで浮腫が拡がったため、
「入院して点滴で利尿剤を使いながら、オシッコの管を入れて管理したら早く浮腫はとれると思うけど。」
と母に勧めたのだが、
「今度入院したら、お父さんはもう帰って来れないんじゃないの?」
と不安そうに言うので、しばらく外来で経過をみることにした。
この時点で、NT-proBNPは4600。普段は900を越えていたら心不全と見做すようにしているので、4600はかなりドキドキする数値である。
飲水制限を課しつつ、ダイアートとスピロノラクトンを併用して、1ヶ月でやや下腿浮腫は軽減。、NT-proBNPも1400まで改善した。
しかし気が緩んだのか、それまで頑張っていた飲水制限が適当になってしまった。NT-proBNPは2700まで再上昇し、下腿浮腫も増悪してしまった。
これが在宅での限界と見切りをつけ、ケアマネージャーにも協力してもらい、母を口説いて父を入院させた結果、1日足らずで約4000mlの尿排出が得られ、一晩で足はスッキリとなった。
ここまでdrasticに改善させる心不全治療を、外来で行うのは難しい。
何故なら、浮腫をとるために朝昼晩で利尿薬を内服しようものなら、トイレから離れられなくなってしまうからだ。
両側下腿浮腫で歩行に介助が必要な父が、頻繁に自力でトイレに行くことは難しく、母がその都度介助するにも限界はあり、つまりは、「これ以上は在宅では無理」ということであった。
せん妄を予測し、主治医に手紙を渡した
現在まだ入院中ではあるが、「ひとまず下腿浮腫を早期に改善させられたら」と考えていたので、入院の目的は一晩で達成できたことになる。
ところで今回の入院に際し、外来看護師と病棟看護師のいずれからも「お父様の認知症はいつからですか?」と聞かれた。
難聴でコミュニケーションが困難な85歳だと、見た目の印象だけで医療関係者からも簡単に認知症扱いされる時代である。 まあ、仕方あるまい。
心不全の治療に対する懸念は何もなかったのだが、せん妄を認知症と捉えられ抗認知症薬や抗精神病薬が処方されることだけは避けたいと考えていたので、主治医に対して
「父は加齢と脳梗塞に伴う軽度の認知機能低下を認めますが、アルツハイマー型認知症などの変性性認知症ではありません。以前入院で2日間せん妄をきたしたことがありますが、自然に改善しました。今回も入院中にせん妄をきたす可能性はありますが、抗認知症薬や抗精神病薬の使用は控えて頂けますようお願い致します」
という内容の手紙を、妻を通じて渡してもらった。主治医は怪訝な表情をしていたらしいが、まあ仕方あるまい。
予想通り、入院初日の夜は点滴ルートやバルーンカテーテルを抜去しようと懸命だったようだが、3日目ぐらいからは、さほど拗らせなくはなった。
せん妄に対して予防的な*1リバスチグミン貼付が効果的なことはしばしば経験してきたが、自分が入院担当主治医であればまだしも、経験のない医師に簡単に頼めるものではないし、そもそも抗認知症薬は使わないに越したことはないというのが自分の考えである。
環境整備と声掛けが上手くいけば、せん妄は数日で改善していくことが多い。今のところ父には、リバスチグミンは必要ないと考えている。
退院はまだもう少し先となる。その後はまた、慎重に経過をみていこう。
(追記)
以前から父は、「自分に何かあっても、余計なことはしなくていい」と言っていた。
どこの病院でも行っていることだが、入院に際しての確認事項の中に「急変時は、心臓マッサージや人工呼吸器管理をご希望されますか?」とあった。
「余計なことはしなくていい」と言っていたはずの父は、ちゃっかりと「いずれも希望」に〇を付けていた。
まだまだ枯れてはいないということか(苦笑)