2019年3月に治験中止が発表され、エーザイの株価を急落させた抗認知症薬アデュカヌマブ。
アミロイド仮説失敗の最終通告かと思っていたが、ここにきて復活の話が出てきた。
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バイオジェンとエーザイは2019年10月22日、早期アルツハイマー病(AD)患者に対する第III相試験において無益性解析に基づき中止となったaducanumabについて、中止後に新たに利用可能となったデータを追加し解析した結果から、米国食品医薬品局(FDA)との協議に基づいて、2020年に承認申請を予定していることを発表した。aducanumabが承認された場合、早期アルツハイマー病の臨床症状悪化を抑制する最初の治療薬となるとともに、アミロイドベータ(Aβ)の除去が臨床上のベネフィットをもたらすことを実証する世界初の薬剤となるという。
(中略)
両試験において報告された最も一般的な有害事象は、アミロイド関連画像異常(ARIA-E(浮腫))と頭痛であった。ARIA-Eが発症した被験者群のほとんどは、無症候性であり、ARIA-Eは4週から16週間以内にほとんど解消し、長期間におよぶ臨床的後遺症もなかった。
(上記リンク先より引用。赤文字強調は筆者によるもの。)
無益性解析とは何か。
長期にわたる新薬の大規模臨床試験では、必ず中間解析が行われる。コストの圧縮や安全性の確認が解析の狙いだが、以下の3つのどれかに該当すれば臨床試験は中止になる。
- これ以上続けても有効性が見込めない
- 効果があるのは明らかなので、中止して製薬会社のコストを抑える
- 安全性に明らかに問題があるので、患者のために中止する
3月に臨床試験が中止となったのは、アデュカヌマブが1に該当する(=無益性)と判断されたからだった。
ちなみに、同効剤ではないがアミロイド仮説に基づいたBACE1阻害薬のverubecestatは「有害無益」という結論で臨床試験が中止となった。
https://www.nejm.org/doi/10.1056/NEJMoa1812840
アミロイド仮説が正しいならば、アミロイドβ産生の律速段階であるBACE1を阻害するということは、疾患そのものを修飾する効果があるはずだった。しかし、無益にとどまらず有害という結果でverubecestatの試験は終了となった。
BAN2401の201試験との比較
アデュカヌマブは既に存在するアミロイドプラークを除去する薬剤であるが、3月に失敗が報告された時に、その失敗の理由について東大のある教授は
「ベータアミロイドを抑えて効果を期待するには、もっと早期のまだ症状のない、ベータアミロイドの溜まり始めの時期が望ましいかもしれません」
と言っていた。
そう言えば、正にその目的で組まれたであろうverubecestatの試験は失敗したのだが、試験の失敗を報告した論文の著者の一人は、
より早期Stageの患者のほうが、BACE-1の阻害への感受性が高い可能性がある。また、verubecestatの作用はBACE-2の阻害に起因する可能性もある
と言っていた。
両者の発言は、不思議と一致する。
一部の医者達は「血圧やコレステロール値はlower than better」と言うが、抗認知症薬の研究者は抗認知症薬を「earlier than better」と考える習性があるのだろうか。
今回の発表では、「中間解析で無益とされたのはデータのボリュームが少なかったからであり、試験中止発表後に新たに利用可能となったデータを加えて解析を行った結果、1つの試験では主要評価項目を達成できた」とのこと。
ENGAGE試験については主要評価項目を達成しなかったが、EMERGE試験については、aducanumabの高用量投与群が主要評価項目であるClinical Dementia Rating-Sum of Boxes(CDR-SB)において、78週でのベースラインからの臨床症状悪化について、プラセボ投与群に比較して統計学的に有意な抑制を示した(23%抑制、p=0.01)。副次評価項目についても、プラセボ投与群に比較して、Mini-Mental State Examination(MMSE)が15%抑制(p=0.06)、AD Assessment Scale-Cognitive Subscale 13 Items(ADAS-Cog13)が27%抑制(p=0.01)、AD Cooperative Study-Activities of Daily Living Inventory Mild Cognitive Impairment Version(ADCS-ADL-MCI)が40%抑制(p=0.001)と、それぞれ一貫した抑制傾向を示した。また、アミロイドプラーク沈着のイメージングにより、aducanumab低用量群および高用量群の両群において、投与26週および投与78週でプラセボ投与群と比較して、アミロイドプラーク沈着の減少が確認された(p<0.001)。(上記リンク先より引用。赤文字強調は筆者による。)
「CDR-SBにおいて、78週後の悪化を23%抑制」という報告を、どう捉えるか。
ここで、現在臨床第Ⅲ相試験が進行中の抗Aβ抗体薬BAN2401の、第Ⅱ相試験(201試験)の結果を紹介する。ちなみにBAN2401も、エーザイとバイオジェンの共同開発である。
201試験は、脳内にアミロイド蓄積が確認された856人の早期アルツハイマー病患者(MCI含む)を対象とした試験だが、主要評価項目のCDR-SBで26%の進行抑制効果があったものの有意差は示せなかった。
アデュカヌマブの中間解析に用いられた患者数は1748人(ENGAGE+EMERGEの一部の人数)で、この時点では改善の有意差は示せなかった。
そして今回、サンプルを3285人(ENGAGE+EMERGEの全人数)に増やしたところ、EMERGE試験(患者数1638人)においてCDR-SBで23%の進行抑制が有意差をもって示された。
- BAN2401・・・サンプル数856・CDR-SB26%抑制で改善有意差なし
- アデュカヌマブ・・・サンプル数1638・CDR-SB23%抑制で改善有意差あり
201試験は主要評価項目のCDR-SBで有意差を示せなかったことでケチが付いた試験である。
サンプル数に違いはあれど、同じような患者群を対象とした両試験で26%と23%の抑制という近似した結果に、「有意差が出た!」と諸手を挙げて歓迎することは難しい。
結局、アデュカヌマブには期待できるのか?
アミロイド仮説に基づいた創薬は、これまでことごとく失敗している。
他剤は全て失敗したのに、アデュカヌマブだけが上手くいく理由は何であろうか。自分には思いつかない。
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バイオジェンは同日、対象を広げた新たなデータ解析で、アデュカヌマブを投与した患者の一部に症状の悪化を抑える効果がみられたと発表。FDAには2020年の早い時期に承認申請することを目指し、欧州と日本の規制当局とも話し合いを続ける方針を示した。
米アルツハイマー病協会の最高科学責任者、マリア・カリーヨ博士は、バイオジェンが臨床試験の結果に基づき、アデュカヌマブの承認申請を目指すとの知らせに「勇気づけられた」と歓迎する声明を出した。
ただし専門家によると、承認を得るまでにはさらにハードルを越える必要があるとみられ、新薬は非常に高価になることも考えられる。(上記リンク先より引用。赤文字強調は筆者によるもの。)
12月には治験の詳細なデータが発表されるらしいが、一度治験が中止された薬の承認申請が、もしも「話し合いを続けること」で通るのであれば、そこには「政治的判断が働いた」と考えるのが妥当だろう。
アルツハイマー型認知症への対処は世界レベルで急務となっているため、新たな抗認知症薬の創薬が全滅という状況は、製薬会社のみならずFDAにとっても好ましいとは言えない。
そういった状況のなかで、エーザイとバイオジェンが
「ウチのアデュカヌマブを認めて下さいよ。何とか統計の工夫でギリギリ有意差ありまで持っていけたし。有害事象も軽い脳浮腫と頭痛ぐらいで、深刻な後遺症は出ていないから大丈夫ですって。ここでアデュカヌマブまで失敗だったら、もう他の製薬会社は抗認知症薬を諦めちゃいますよ。それでもいいんですか?」
などと、FDAや各国の規制当局と交渉したら。
過去に例のないであろう治験中止薬剤の逆転承認などということが、果たして起きうるのだろうか。
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