鹿児島認知症ブログ

鹿児島でコウノメソッドや糖質制限を実践している脳神経外科医のブログ

硬膜下腔が拡大している頭部CTから考える、3つの可能性。

 以前、水頭症について総論的な記事を書いた。

 

今回は、「これは外水頭症かな?」と自分が感じた症例から、水頭症患者の頭の中で起きていること、そして頭部CTを見る際の注目点について述べる。

80代女性 外水頭症?

 

初診時

 

(現病歴)

物忘れを主訴に来院。しっかりした感じに見えるが、少し眠そう。

(診察所見)

HDS-R:26
遅延再生:4
立方体模写:OK
時計描画:OK
クリクトン尺度:2
保続:なし
取り繕い:なし
病識:あり
迷子:なし
レビースコア:1
rigid:なし
ピックスコア:施行せず
頭部CT左右差:なし
介護保険:要支援1
胃切除:

(診断)
ATD:
DLB:
FTLD:
MCI:
その他:AVIM?

 

物忘れの相談。画像上、DESHを呈しているが無症候性なのでAVIMかな。正常でいいだろう。リーゼの量はかかりつけに相談して減らしてもらいましょう。

 

何かあったらまたどうぞ。

 

1年6ヶ月後

 

  • HDSR21
  • 遅延再生1
  • 歩行ゆっくり、すり足

 

1年半ぶりに受診。ご家族曰く「少し認知面低下が進んできたかな?」と。


全体的にスローになり、すり足歩行。
遅延再生こそ弱いが、NPH要素が加わってきたのかな?
Tabletサイン(頭頂脳溝描出不良)は前回よりもやや強まっている?

 

タップテスト(髄液排除試験)を勧めた。

 

(引用終了)

 

外水頭症とは?

 

水頭症とは、簡単にいうと「脳に水が溜まる病気」である。

 

水(髄液)が溜まる機序について分類すれば、

 

  • 交通性水頭症
  • 非交通性水頭症

 

となる。

 

また、「どこ」に溜まるかで分類するなら

 

  • 内水頭症ー脳室系に貯留
  • 外水頭症ーくも膜下腔系に貯留

 

と考える。

 

外水頭症という概念は当初、「大脳半球状を覆う液体貯留状態」に対して用いられるようになった(W.E.Dandy,1953)。ただその場合、硬膜下水腫との鑑別が問題となる。

 

水腫であれば通常、脳表への圧迫所見はない。なので、症状も出ない。

 

硬膜下腔(脳表と硬膜の隙間)の髄液がくも膜下腔と交通性を持ち、尚且つ髄液の吸収障害がなければ、脳表への圧迫は起きない。

 

正常圧水頭症とは、髄液の吸収障害が関与していると考えられている病気である。

 

脳室系とくも膜下腔系を髄液が自由に行き来出来る状況では(≒髄液の吸収障害がない状況)水頭症は起きえない。しかし吸収障害があれば、髄液は逃げ場を捜すようになる。

 

その逃げ場が脳室系であれば脳室拡大を来し、くも膜下腔系であれば異所性脳溝拡大を来す。そして、硬膜下腔に逃げれば、硬膜下腔側から脳表への圧迫を起こす。

 

これが「外水頭症」だと自分は理解している。

 

硬膜下腔が拡大しているときに考えること

 

今回の方は、初診時の頭部CTでシルビウス裂拡大などが目立っていたが、すり足歩行や頻尿などの症状を認めなかったため、AVIM(無症候性脳室拡大)と判断断していた。

 

その後1年半が経過して、すり足歩行や認知面低下が目立ってきたとのことであったので、AVIMから症候性に転じてきたのだろうと考えた。

 

外水頭症の頭部CT

 

これは2回目の受診時の頭部CTだが、シルビウス裂が押し広げられるように拡大している。正常圧水頭症ではよく見かける所見である。

 

だが、そこから連続して硬膜下腔(脳と硬膜の間の隙間)も拡大しており、これは一般的な所見ではない。

 

硬膜下腔が拡大する理由の一つに脳萎縮が挙げられる。脳が萎縮すると、脳を包んでいる硬膜との間に隙間が出来て、そこに髄液が貯留する。*1

 

通常このような状態を「硬膜下水腫」と呼ぶが、水腫であれば脳表への圧迫は来さない。しかし、この方は一部硬膜外腔側から脳表が圧迫されているので、水腫とは呼べない。

 

外水頭症の頭頂脳溝描出不良

 

これは、初診時と1年半後の冠状断CTを比較した画像である。

 

元々頭頂部の脳溝描出は不鮮明だが、1年半の経過で更に不鮮明になっているように見えた。これは、貯留した髄液により側脳室が拡大し、頭頂葉を圧迫しているからだと思われる。

 

つまり、この方は脳室系とくも膜下腔系、両方に髄液が溜まって水頭症を呈していると考えられる。

 

正常圧水頭症は、脳室系拡大(側脳室拡大)とくも膜下腔系拡大(局所脳溝拡大)を来す病気である。両方の拡大が確認出来ることもあれば、いずれか一方のこともあるが、見落とされやすいのはくも膜下腔系拡大である。

 

外水頭症という概念は耳慣れないかもしれないが、くも膜下腔系拡大タイプ水頭症のバリエーションの一つとして、今回ご紹介した。

 

最後にまとめを。

 

硬膜下腔が拡大している頭部CTを見かけたとき、3つの可能性を考える。

 

  1. 硬膜下水腫
  2. 外水頭症
  3. 慢性硬膜下血腫

 

脳表への圧迫がなければ1と考え、経過観察とする。

 

脳表への圧迫を認めた際には、いわゆる水頭症の3徴(歩行障害・尿失禁・認知症)があれば、2の外水頭症かもしれない。その場合、治療はシャント手術となる。

 

片麻痺症状があり、かつCTで硬膜下腔のCT吸収値が高ければ(白っぽく見えたら)、3の慢性硬膜下血腫かもしれない。その場合、治療は穿頭血腫洗浄術となる。

*1:ここに頭部打撲による出血が混ざり込むと、「慢性硬膜下血腫(CSDH)」となり、脳への圧迫が起きる