鹿児島認知症ブログ

鹿児島でコウノメソッドや糖質制限を実践している脳神経外科医のブログ

91歳女性、長谷川式テスト13/30点。ご家族の希望で治療介入。

 前回記事はこちら。

 

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今回の方も前回同様、自分は「年齢相応かな?」と感じたのだが、最終的には医療介入を行うことになった。その最たる理由は、息子さんの

 

  衰えていく母親を見続けるのが忍びない・・・

 

という想いを感じたからである。

91歳女性 年齢相応ではあろうが・・・

 

初診時

 

(既往歴)

 

内服中の薬剤なし

 

(現病歴)

 

ここ2年ほどで徐々に低下してきたと、同居の息子さんが話す。朝起き抜けに「今そこに誰かいたんじゃないの?」など、妄想?的な話をたまにすると。

 

(診察所見)

 

HDS-R:13

遅延再生:0

立方体模写:OK

時計描画:OK

クリクトン尺度:21

保続:あり

取り繕い:なし

病識:?

迷子:なし

レビースコア:4

rigid:なし

幻視:なし

ピックスコア:-

頭部CT左右差:わずかに左

介護保険:要介護1

胃切除:なし

歩行障害:ゆっくり

排尿障害:頻尿

易怒性:なし

 

 

(診断)

ATD:

DLB:

FTLD:

MCI:

その他:

 

画像所見含め、軽度の水頭症要素はありそう。しかし、年齢による衰えがメインかな?レビースコアは4点あるが、傾眠などによる加点要素が大きく、パーキンソニズムや幻視などは認めない。

 

そのようにお話しするも、息子さんの治療希望は非常に強い。リバスタッチ2.25mgによる総合的賦活を目指してみる。

 

お父さんがアリセプトで痛い目をみた、という経験をお持ちの息子さんなのだが・・・。

 

1ヶ月後

 

起き抜けに妄想的な?ことを言わなくなった
聡明になった

息子さんが上記のような変化を実感している。2.25mgで継続。本人はただ穏やかに笑っている。

 

高齢者の年齢相応とは?

 

(記録より引用終了)

 

リバスタッチを使用した根拠は?

 

基本的にはADLがほぼ自立している91歳の女性で、陽性症状は何もなし。軽度水頭症要素はありそうだったが、ではシャント手術を考慮すべきレベルか?となると、そこまではなかった。

 

ちなみに以前の話だが、同年齢の91歳の女性に局所麻酔下でLPシャントを行った経験がある。勿論家族希望が前提ではあることだが、これだけ高齢の方の手術に踏み切った一番の理由は、「水頭症の症状がADLを著しく下げていたから」である。そして、その方は幸い術後経過良好で、自発性の向上と、排泄及び歩行介助の軽減が得られた。

 

今回のケースで自分が提案したのは以下の4点。

 

  1. 水頭症の要素は少しありそうだが、手術を必要とする程もない。病的要素というよりは年齢の影響が大きいようです。このまま薬剤介入は行わずに経過をみる方達が多いと思います。
  2. サプリメントで対策するのであれば、フェルガードLAを朝だけ、という方法は如何ですか?
  3. ココナッツオイルもいいと思います。
  4. どうしても病院処方の薬剤をご希望であれば、リバスタッチ1.125〜2.25mgを試すことになるでしょうか。

 

そして、息子さんが選択したのは4であった。結果は上記の通り。リバスタッチは神経伝達物質をバランス良く賦活するという印象があり、このような時には比較的安全に使えて重宝する。それでも4.5mg以下の使用に留めるべきとは思うが。 

 

また4を提案したのは、クリクトン尺度が21点とやや介護負担(ADL自立の方なので、息子さんの精神的負担と考えるべきか)を感じていらっしゃるようだったから、ということもある。

 

一般的には、1を勧めるケースが多いのかなと思う。家族が納得してくれるのであれば、実際1で問題ないと思う。

 

ただ、もし自分が1を勧めてご家族がその日は連れて帰ったとしても、今後別の病院を受診して処方を強く希望する可能性を感じた。その際には、抗認知症薬が規定量で開始され規定通り増量されるかもしれず、そうすると副作用が心配だ。

 

「そこまでは責任は負えない」と考える向きはあろうし、本当にそうだと思う。ただ、その可能性が頭をよぎってしまったので

 

  規定量以下で処方を行い、その結果を家族と確認したらどうだろう。それでも副作用が出た場合には、家族も中止で納得してくれるだろう

 

と考えた。

 

家族(主介護者)が希望する限り、医療者はその想いに答え続けるべきなのか?

 

これはかなり難しい問題だと思う。自分の場合、能力内で対応出来る可能性のあることならば、あちこちの引き出しを開けながら(時には新たな引き出しを作りながら)やってみるという基本スタンスである。 

 

しかし、ご家族が希望する限りどこまでも応え続ける、という訳でもない。 

 

  • 病気に関する勉強を全くしない
  • 色々希望はするけど、あとは全部医療者任せ

 

このようなご家族であれば、残念ながらご期待には添いかねる。何より、患者さんが危ない目に遭うリスクが増してしまう。例えば家庭天秤法による調整は、そのような家族にはとても望めない。 積極的な医療介入は時にリスクを伴うものであり、そのことを十分に理解したご家族と共に、二人三脚で行う必要がある。

 

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この息子さんは、かつて父親がアリセプトで易怒性を爆発させたという経験をお持ちだったが、 

 

  • 父親の病状や、どの薬剤にどのように反応したと、いうことを細かく説明出来た。これはそれなりに勉強していないと難しいことである。
  • 母親に何かしてあげたい。サプリメントには興味があるが、金銭的には厳しい。可能であれば処方薬で少しでもいいことをしてあげられたら。

 

 このような方であったので、 

 

  ではリバスタッチを2.25mgだけ使ってみましょうか。そもそも病型診断に当てはまる訳ではないので、添付文書通りに増量することはない、ということはご理解下さい

 

と説明し、処方したのであった。 

 

careとcureの線引き 

 

careとcureの線引きにはいつも頭を悩ませられるが、

 

  • 自分の能力の範囲内か
  • 家族の能力の範囲内か
  • 家族以外の関係者(ケアマネ含め介護系スタッフなど)も納得できる内容か

 

このようなことを基準に、過剰介入にならないように気をつけつつ診療を行っている。