先日投稿したこの記事。
認知症ではないのに認知症と診断される? - 鹿児島認知症ブログ
多くの方にご覧になって頂いたようです。
ありがとうございました<(_ _)>
薬害や誤診に対する社会的関心が高まっているということだが、今回はその典型的な例をご紹介。
78歳男性 レビー小体型認知症
初診時
(既往歴)
脂質異常症 逆流性食道炎
(現病歴)
5ヶ月前にアルツハイマー型認知症の診断でアリセプト開始。
3mgの時には少し良くなったように見えたが、1週間後に5mgに増量となってから身体の動きが悪くなり、また抑鬱的になってきた。
かかりつけ医がうつの診断でルボックスを処方。しかし、上肢に脱力感が出たため中止。「抗うつ薬の工夫について」当院に相談あり。初見はレビー感満載。
(診察所見)
HDS-R:23
遅延再生:5/6
立方体模写:OKだが小さい
時計描画:OK
クリクトン尺度:1
保続:なし
取り繕い:なし
病識:ありあり
迷子:なし
レビースコア:10.5
rigid:右上肢
幻視:あり
ピックスコア:施行せず
頭部CT左右差:なし
介護保険:なし
胃切除:なし
歩行障害:小刻み
排尿障害:頻尿
易怒性:なし
(診断)
ATD:
DLB:◎
FTLD:
MCI:
その他:
典型的レビー小体型認知症。アリセプト増悪タイプ。まずはアリセプトを休薬。2週間後に再診。奥さんはすがるような顔つきでこちらをみている。本人は目線も合わず呆然としている。心ここにあらずといった様子。
2週間後
明らかに表情が明るくなり、身動きが素早くなっている。
アリセプト中止が成功。
2週間前に受診した時は、今後どうなっていくかと考えて不安でいっぱいでした。
薬を止めて数日してから徐々に活気が出てきました。「グランドゴルフを再開したい」などど意欲的なことを言うようになりました。本当に嬉しいです!
と奥さん。
薬剤過敏は考えておく必要あり。本人、奥さんと相談してリバスタッチを通常用量の半分の2.25mgで開始。合わなかったらすぐに止めましょう。
(引用終了)
アリセプトの添付文書を見てみよう
アリセプトの添付文書を確認してみた。
この方は初診時に「アルツハイマー型認知症」と診断を受けた。
添付文書通りに3mgで開始され、添付文書通りに1週間後に5mgに増量。そして抑うつ症状が出現し、身体の動きも悪くなっていった。その結果、「うつ病」の診断が加わり抗うつ薬が開始された。全て「添付文書通りに」処方を行った結果である。
「こんなことが本当にあり得るのか?」と驚く方がいるかもしれない。しかし、残念ながらこのようなことは日常茶飯事である。
認知症が悪化した場合に考えること。薬を増やす?それとも減らす? - 鹿児島認知症ブログ
添付文書の存在意義とは?
添付文書の存在意義とは「適切な用量と用法を定めることで、副作用を極力回避すること」だと思っている。つまり、患者さんを守るためのモノ。
副作用を回避するために、添付文書に記載されている用量よりも少量で処方することは、自分にとって当然のことである。
しかし、これが理解できない人達がいる。その人達にとって重要なのは、
「副作用を出さないように注意しながら、薬の最大限の効果を発揮させて治療に役立てる」
ということよりも、
「添付文書の内容をしっかり守ること」
なのかもしれない。
そうだとしたら、それはいわゆる「手段の目的化」である。あくまでも安全に診療を行う上での一つの「手段」に過ぎない添付文書利用が、いつの間にかそれを守るという「目的」にすり替わっている。
まとめ
こうすべきであっただろう、という点を以下にまとめる。
「後医は名医」とはよく言われることだが、この方の場合にはそれはちょっと当てはまらない。明らかに初診時の判断とその後の対応に問題がある。
- 長谷川式テストの遅延再生が5点もとれている(前医初診時でも5点であった)時点で、アルツハイマー型認知症の可能性を高いとはできない。
- アリセプトを5mgに増やして具合が悪くなっていることに気づくべきであった。アリセプトの副作用である活気低下やうつを抗うつ薬で治療することには無理がある。
さらに重要なのは、以下の点。添付文書を今一度見て欲しい。
アリセプトはレビー小体型認知症にも適応を取っており、アルツハイマー型認知症と同様の増量規定がある
もし、初診時に正確に「レビー小体型認知症」と診断が下されていたとしても、添付文書に忠実に従うのであれば
アリセプトを3mgから開始して、1〜2週間後に5mgに増量
となっていただろう。
つまり、アルツハイマー型認知症と診断しようがレビー小体型認知症と診断しようが、添付文書を忠実に守るのであれば同じ結果になっていた、ということである。
さらに問題と感じるのは
5mgで4週間以上経過後、10mgに増量する。尚、症状により5mgまで減量出来る。
とわざわざアンダーライン付きで書いてある点。
「5mgまで減量出来る」とは、「基本的には5mg以上で使え」もしくは、「5mg以下では使うな」ということと同義である。
もしこの方が10mgに増量されていたら、最悪「生命」に関わっていた可能性がある。これではとても、副作用から患者を守るための添付文書とは言えない。
別の患者さんで同じようなことが繰り返されないように、こういった紹介を受けた際には通常よりも念を入れた詳細な返書を作成している。紹介ではなく飛び込みで来られた患者さんのかかりつけ医にも、同様に情報提供書を送っている。
これらはかなり時間のかかる作業である。
そして、この作業量はどんどん増えており、減る気配は全くないのである。
アリセプト、レビー小体型認知症への適応取得。 - 鹿児島認知症ブログ