今回紹介する方は、病型診断困難な90代の女性YFさんである。
パーキンソン病、レビー小体型認知症、過活動膀胱、不眠症、慢性胃炎、便秘症などの病名で、他剤服用中であった。
3つの病院それぞれから薬が出ていたが、「かかりつけ医はどの先生ですか?」と聞いても家族は首をひねるばかりであった。
過活動膀胱を伴う夜間不眠に対して、Aクリニックは睡眠薬を、Bクリニックは抗コリン薬を処方していた。また、Aクリニックはレビー小体型認知症と診断し抗認知症薬を、Cクリニックはパーキンソン病と診断して抗パーキンソン薬を処方していた。
このような役割分担は、認知症高齢者にとっては殆ど有害でしかない。
残念なのは、何故そのような役割分担がされているのかを患者が知らされないまま、複数の病院に通わされ続けていることである。
勿論、関わる複数の医者達に悪意などあろうはずはないと信じるが、1人の患者に寄ってたかっているような様は、外から見ていて気持ちの良いものではなかった。
90代女性 他剤併用混乱状態
初診時
(現病歴)
80代の妹さんと同居中。3週間ほど前から、
- 時々妹の事が分からなくなる
- 敵視する時がある
- 夜に外に飛び出してしまう事がある
といった症状が現れるようになった。ケアマネに相談したところ当院を勧められたとの事で来院。
(診察所見)
HDS-R:8
遅延再生:0
立方体模写:不可
時計描画テスト:不可
IADL:2
改訂クリクトン尺度:29
Zarit:9
GDS:3
保続:
取り繕い:あり
病識:なし
迷子:なし
DLB中核症状: 3/4
rigid:左上肢+
幻視:あり
FTD中核症状: 2/6
語義失語:なし
頭部CT所見:小脳に手術痕 萎縮は目立たず
介護保険:要介護3
胃切除:なし
歩行障害:年齢相応
排尿障害:なし
易怒性:時に攻撃的
過度の傾眠:なし
(診断)
ATD:△
DLB:△
FTLD:
その他:
(考察)
Cクリニックで14年前にパーキンソン病と診断されメネシットが始まった。現在100mgを服用中。
3年前にAクリニックでレビー小体型認知症と診断され、アリセプト5mgを服用中。「当初は効いていた」とご家族。
3週間前から出現した、妹さんを認識できなかったり、デイサービスでの易怒性亢進、幻視といった陽性症状に対して、Cクリニックでクエチアピン25mgが朝食後で処方されたが傾眠となっている。
パッと見はATD的。頭部CTで脳萎縮は目立たないが。症状からはDLBを疑うべきなのか。90代の超高齢者なので病型診断で深掘りはしない。
通院先が3箇所。減薬希望及び引っ越し希望あり。抗生剤内服中ではないのに何故かエンテロノンRが3回/day処方されている。これをビオスリーに変えて2回/dayにして昼の内服は無くする。
テプレノンとランソプラゾールも処方根拠が薄く中止。90歳以上で高カルシウムのリスクを考えるとD3製剤は不要でいいかな。エディロールも中止。
メネシット100mgはドパコール50mgに減量して次回中止予定。便秘はなし。ドネペジルは5mgから3mgに減量。
朝のクエチアピン25mgは夕方に回して、眠剤のロゼレムとルネスタ1mgは一旦中止。クエチアピン6.25mgを朝に入れて易怒対策。突発易怒にはウインタミン6mg頓用で対応する。
幻視との折り合いがカギになるか。診察中は穏やかな印象。妹さんは、かなりしっかりした印象。その息子さんは理解力が今ひとつかもしれない。
4日後
(デイサービスより電話あり)
昨日昼食後頃から少し機嫌が悪かったが、帰りの送迎車の中で怒り出し手が付けられなくなった。運転中の運転手の腕を掴み引っ張ったり叩いたり、大声をあげながらドアや窓をガンガン叩く、後ろの席のドアを開けようとドアをガチャガチャしたり等、他の利用者さんが怯えてしまった。
以前、後部座席で易怒性が強まった事があり最近は助手席を使用している。昨日は事故をおこしそうになるくらいだったと。ウインタミンの使用方法を教えて欲しいとお問い合わせ。院長確認にて、食事関係なく易怒性強まりそうな前に服用を。1時間たっても効果がみられない時は追加で服用可とお伝えした。(受付〇〇記載)
その翌日
(自宅へ連絡するが不在にてデイサービスへ連絡しその後の様子を伺う。)
本日デイサービスご利用日。
朝は興奮等なく妹さんの認識もしっかり出来ていたが、デイへ到着しすでに7~8人の利用者さんが居るのを見て「ここには入らない!」と言われ、個室へ案内し様子を見た。その後妄想モードに入り独語が多くなり他の利用者を指さし声を上げだしたので11時10分にウインタミン屯服。その後落ち着き現在は昼食を召し上がっていると。困ったときにはご相談いただくよう伝える。(看護師〇〇記載)
初診から1週間後
デイスタッフ観察、甥御さん観察、いずれも頓用ウインタミンは効くようだ。
朝の定期内服にウインタミン6mgを追加。頓用のウインタミン量は引き続き6mgとする。
次回処方で朝のクエチアピン6.25mgは外して、コントミン12.5mgとしよう。
初診から2週間後
診察室では本人、妹さん、甥御さんが三者三様で話をするので混乱の極み。
本人はテンション高めで前回とは様子が違う。妹さんを認識しておらず、「ほら、あの人は私と顔が違うでしょ」などと言っている。
朝のウインタミン6mg定期は飲めていたのか詳細不明。
朝のクエチアピン6.25mgを止めて、コントミン12.5mgにまとめる。ドネペジルは3mgから更に減らして1.5mgに。パーキンソニズムの悪化はなくドパコールは完全に終了にする。
Bクリニックのベタニス50mgを朝から夕に回して当院処方とする。
夕のクエチアピンは37.5mgに増量してルネスタ1mgを定期で復活させる。
次回は、診察室内の混乱を避けるために、本人には早めに退席して貰うようにする。
帰るタイミングでスイッチが入ったように、自動ドア付近で「誰か助けてください!」と。エレベーター前まで見送るが「一緒に乗って!乗ってって言ってるでしょ!!」と腕を掴まれエレベーター内に引きずり込まれた。エレベーター内でも「さっきの人に、これに乗れって押し込まれた!!」と興奮状態。薬局内でも落ち着かず、院長確認にてウインタミンを1回分服用していただく。(受付〇〇記載)
初診から4週間後
夕のクエチアピン増量とルネスタ定期、ベタニスを朝から夕に回したことが奏功し、夜間排尿は1回のみとなり睡眠の問題は完全にクリア出来たようだ。幻視のエピソードは聴取されず。ドパコール終了に伴うパーキンソン症状増悪なし。
朝のコントミン12.5mgとドネペジル1.5mgへの減量で日中も落ち着きが得られるようになり、デイに持参する頓用ウインタミン6mgの出番は半々ぐらい。
診察中に「右の脇腹が痛いけど、こんな人いる?」と言う話を4回。その都度話に付き合うと、ほっとする表情をされる。このあたりはとてもATD的。
「今ぐらいでいいですか?」とご家族に聞くと、妹さんと甥御さんお二人とも笑顔で頷いた。
頓服ウインタミン6mgを除き、定期処方は当院来院時10種類から5種類に減った。
ひとまず危機回避かな。
(引用終了)

抗精神病薬の処方後は、能動的な情報収集を
超高齢者でも必要とあらば抗精神病薬を使っている。
必要の規準は、「介護の工夫を超えた陽性症状があり、このままだと生活がままならない」と自分が感じた時である。
コントミン(ウインタミン)、セレネース、ニューレプチル、プロピタン、グラマリール、ルーラン、ジプレキサ、セロクエル、セロクエルの徐放剤ビプレッソなど色々使う。
リスパダールを使うことはほぼなく、エビリファイは作用が魔球のように難しく感じるので出番は少ない。
少量投与が基本であることは言うまでもなく、例えばウインタミンであれば2mg、セロクエルであれば3.125mg、ルーランは1mgなどが自分の最少投与量である。
全員というわけではないが、処方後の変化が気になる患者さんに対してはスタッフが患者さん家族に電話をかけて状況確認をしている。
能動的に情報収集を行いつつ、また、常に撤退の時期を探っているので、抗精神病薬をダラダラと数年間処方し続けた結果の過鎮静や薬剤性パーキンソニズムで痛い目を見た記憶がほぼ無い。
薬が効かずに頭を抱えた経験なら幾らでもあるが。
(前医3人の処方)
- エンテロノンR 3g3x
- テプレノンカプセル(50)3C3X
- ランソプラゾール(15)1T1XM
- アリセプトD(5)1T1XM
- メネシット(100)1T1XM
- エディロール(0.5)1C1XM
- ベタニス(25)1T1XM
- クエチアピン(25)1T1XA
- ロゼレム(8)1T1X眠前
- ルネスタ(1)1T1X眠前
(当院最終処方)
- ドネペジル(3)0.5T1XM
- コントミン(12.5)1T1XM
- クエチアピン(12.5)3T1XA
- ベタニス(25)1T1XA
- ルネスタ(1)1T1X眠前
- ウインタミン細粒6mg 突発易怒時に