複数の病態が共存している場合、何から手を付けるかは重要である。
緊急で改善すべき点があれば、そこから取り組む。さし当たっての緊急性が無ければ、早めの是正が望ましい点を見つけて、そこに取り組むようにしている。
60代男性 PD(パーキンソン病)+iNPH(特発性正常圧水頭症)+MSA(多系統萎縮症)?
初診時
(既往歴)
2年前に〇〇泌尿器科で前立腺のレーザー手術。尿勢は良くなったが頻尿は変わらず。
(現病歴)
2~3年前から動作緩慢に。同時期に〇〇病院を受診し、MIBG心筋シンチの結果DLBの診断でアリセプト開始。その後症状に改善があった形跡はない。
最近うつ傾向になってきたと奥さんから聞いた担当ケアマネージャーが、アリセプトの休薬を提案。試しに中止してみたところ、活気が戻ってきたとのこと。家族が当院引っ越しを希望し来院。
(診察所見)
HDS-R:直近で受けていたので施行せず 7シリーズ良好
遅延再生:ー
立方体模写:ダブルペンタゴンOK
時計描画:OK
IADL:3/5
改訂クリクトン尺度:9
Zarit:1
GDS:9
保続:なし
取り繕い:なし
病識:あり
迷子:なし
レビースコア:1.5
rigid:なし
幻視:なし
ピックスコア:ー
FTLDセット:ー
頭部CT所見:下記
介護保険:要支援2
胃切除:なし
歩行障害:すりあし小刻み
排尿障害:あり 頻尿
易怒性:なし
傾眠:なし
(診断)
ATD:
DLB:
FTLD:
その他:
(考察)
頭部CTでは異所性脳溝拡大あり。また小脳萎縮もあり、指鼻試験は左が拙劣。
歩行時のアームスイングなし。明らかな幻視や薬剤過敏はなし。メネシット200mgで多少動きに改善ありとのこと。
PD+NPH+MSAの可能性を考えるが、PDとMSA共存ならMSA-Pと考えるべき?GDS9点は、やや抑うつ傾向ありかな?
アリセプトは休薬のままで、いずれリバスタッチの検討を。グルタチオンはPD、MSA両方をターゲットに検討してみよう。NPHについてはタップテストを。
4週間後
〇〇病院でTAPテスト(髄液排除試験)を受けた。その後数日は調子が良かった。物がシャープに見えて動きが良くなった、と。これは本人家族一致した感想。
TAPテスト陽性。LPシャントは積極的に検討を。薬剤調整はその後で。
4週間後
〇〇病院でLPシャントを受け、滞りなく退院。圧設定は20cm。今のところ、運動面より精神面での改善が明らか。本人的には「視界がクリアになった」とのこと。
今後当院では、グルタチオン点滴をベースにしながら長期経過をみていくことに。便秘は〇〇クリニックで処方を。
今日は一回目のグルタチオン点滴。1800mgで。
直後の感想は「歩きやすくなった!」とのこと。
10日後
点滴後から、足の運びが良くなった様な感じが続いており、頭もスッキリしていると(本人、家族)。
効果(本日で10日目)は続いているとの事。
(引用終了)
優先順位の付け方について
今回取り上げた方の主なお困り事は、以下の3つ。
- ①歩行障害
- ②前立腺の治療で改善しない頻尿
- ③抑うつ傾向(精神症状)
そして、病歴及び初診時の診察結果から考えた疾患は以下の3つ。
- ①パーキンソン病(レビー小体型認知症)
- ②特発性正常圧水頭症(iNPH)
- ③多系統萎縮症(MSA)
①と③を併せてMSA-Pと考えてみてもいいのかもしれないが、被殻レベルで左右差のある萎縮は認めなかったので、今回は分けて考えた。
上記3つのお困り事の中で、パーキンソン(PD)症状として考えられるのは
特発性正常圧水頭症の症状として考えられるのは
そして、多系統萎縮症の症状として考えられるのは
である。いずれの病態においても歩行障害は起きることに注目。
では次に、これらの歩行障害に対してこちらが準備できる治療手段を考えると、以下の3つとなる。
- PD→抗パ剤もしくはグルタチオン点滴
- iNPH→LPシャント(シャント手術)
- MSA→グルタチオン点滴
グルタチオン点滴が①と③に効果的であれば、「まずはグルタチオン点滴を!!」と考えたくなるが、
【iNPHを根本的に改善させ得る治療はシャント手術しかない】
という点が重要である。
グルタチオン点滴を先行させた場合、PDやMSAの症状改善は得られるかもしれないが、残念ながらiNPHの症状改善までは期待出来ない。
自ら診断をつけて自ら手術をしていたからであろうが、経済的事情やバックアップできるご家族のいない方、あまりにも超高齢の方などは致し方ないとしても、基本的にはタップテスト陽性例にLPシャント術を勧めることに、自分の場合殆どためらいがない。
加齢や変性疾患の進行による変化は個人差が大きいため、予想を立てにくいものである。治療介入の初期段階で将来的な悪化の可能性を除外出来る要素が少しでもあれば、出来るだけ積極的に取り除いておきたい。それが、自分にとっては「正常圧水頭症の要素」である。
なので、正常圧水頭症を合併している変性疾患の方にお会いしたときには、
「LPシャントで得られた改善状況を確認した後に、何を加えるべきか?」
という視点で、最初から診るようにしている。
結果的に条件が整わずにLPシャントに至らなかったとしても、「何を加えるべきか?」と最初に考えたことは、後々役に立ってくる。
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