久しぶりに真性多血症の方に出会ったので、備忘録を兼ねて紹介する。
60代男性 真性多血症による多発脳梗塞と高血圧症
初診時
半年前に左手のしびれと呂律障害、その後左手の痛みが出現。
整形外科で精査するも異常なしとのことで内科に紹介され、痛風の診断*1でフェブリクが開始となった。その後痛みは少し和らいでいるが、左手のしびれと呂律障害が良くならないとのことで来院。
(診察所見及び訴え)
左手関節背側の痛みと脱力
頭がふらふらすると
バランスが悪くなったと
右口角下垂
BP169/119
頭部CTで多発脳梗塞を認めた。
本人の希望があり、かかりつけを内科から当院にお引っ越しとする。採血、そして降圧薬開始。頭痛を考慮して脳梗塞対策のプレタールは50mgから開始。同時にプロルベイン開始。6C/dayで。いずれ頚部エコーを。眼球結膜充血とあから顔が気になる。
2回目の受診時
白血球数: 149×10^2/μl
赤血球数: 791×10^4/μl
血色素量(HB): 20.7g/dl
ヘマトクリット: 61.3%
血小板数: 55.4×10^4/μl
MCV: 77.5fl
LD(LDH): 350IU/l
カリウム (K): 5.0mEq/l
真性多血症かな。次回受診時は腹部エコーで脾腫をチェック。SpO2は95%。血液内科へ紹介する準備を。
3回目の受診時
腹部エコーでspleen indexは53.8と高値、脾腫ありと判断。真性多血症疑いで血液内科に紹介。
4回目の受診時
前回当院受診後、すぐに血液内科を受診。マルク(骨髄穿刺)の結果から、真性多血症の診断が降りた。瀉血が行われ、ハイドレア(代謝拮抗薬)が開始となった。
前回当院処方から、アムロジピン5mg→ザクラスHDに降圧剤を増量しているが、診察室血圧は128/80。自宅血圧はおよそ140/90前後。初診時は169/119だったので、大分落ち着いてきたようだ。プロルベインは3C~6C/dayで継続している。
降圧効果のおかげか、以前から感じていた頭重感や頭痛は減ってきているようで、本人は喜んでいる。
(引用終了)
真性多血症の診断基準と多血症の鑑別
多血症とは血液に含まれる赤血球量が絶対的、相対的に増加する血液の状態であり、赤血球量が増えるさまざまな疾患・状態を含む概念をいいます。(食と健康の総合サイト e840.netより引用)
臨床をしているとしばしば遭遇する多血症。その殆どは「喫煙者」である。
男性でヘマトクリット(Ht)が52%を超えている場合、もしくは女性でHtが48%を超えている場合、その人が喫煙者であれば、喫煙が赤血球増加の原因となっていることが殆どである(検査前確率98%)。
喫煙による多血症であれば、禁煙で改善する。しかし、中には今回紹介したような真性多血症であったり腎癌などの腫瘍が隠れていることが稀にあるため、注意が必要である。
今回、血液内科に紹介するにあたっては
- 年齢からして脳梗塞痕が多すぎる
- 血球3成分(白血球、赤血球、血小板)が、いずれも高値であった
- Htが61.3と超高値であった
- 脾腫を認めた
このような根拠を揃えた。この他にも、「あから顔、身体のほてりや掻痒感、眼球結膜の充血」などもあり、これらもまた多血症を疑う症状である。
診断基準に含まれるわけではないが、頭部CTと脾臓のエコーを以下に示す。
ますは頭部CT。
このスライス以外にも脳梗塞痕は散見された。60代という年齢からすると、ちょっと多すぎる。
次に、腹部エコーで観察した脾臓。
脾腫を判定するための指標として、spleen indexというものがある。
spleen indexが20以上であれば、脾腫と判断する。(日超検 腹部超音波テキスト 第2版より)
脾腫があるということは、脾臓の機能(血球破壊)を亢進させる何かがあるということ。骨髄増殖性疾患である真性多血症は、脾腫を伴うことが多い疾患である。(感度70% 特異度100%)
真性多血症の診断基準を以下に記す。
☆大項目の1と2の両方を満たす、または大基準の1と小項目の2つ以上を同時に満たすこと
大項目)1ヘモグロビン値(Hg) 男性18.5g/dl 女性16.5g/dl以上
もしくは以下の所見のいずれかが確認できる
・HgもしくはHtが年齢、性別、居住地の高度(空気の薄さ)を考慮した基準値の99%タイル値を超える
・Hgが男性で17g/dl、女性で15g/dl以上、かつ発症前の平均値より2g/dl以上の増加 赤血球量が予測値の25%を超える。
大項目2)JAK2V617F変異遺伝子、もしくは類似したJAK2遺伝子変異が存在する。
小項目)
1 骨髄において赤血球・白血球・血小板各系統の増生が認められる。
2 血清エリスロポイエチン値が低値を示す。
3 内因性の赤芽球コロニー形成がある。
(食と健康の総合サイト e840.netより引用)
脳神経外科の当院で確認出来た診断基準は、大項目の1だけであった。あとは、専門科による診断が必要なものばかりである。
今後は血液内科と連携しつつ、当院としては主に高血圧対策や脳卒中のリスク低減に繋がる治療を継続していく予定である。その他気をつけねばならない合併疾患は、心筋梗塞や出血傾向、骨髄線維症、白血病などである。