パーキンソン病の経過中に問題となる、ジスキネジアやon-off現象。
今回紹介するSRさんは、16年という長期経過の末にジスキネジアやon-offが現れた。同時に幻視でADLも低下していた。レボドパ合剤の減量と組み合わせ、コムタン減量、モサプリド追加、セレネース少量投与などの工夫で、結構うまくまとまったのでご紹介。
70代女性 パーキンソン病
初診時
(現病歴)
16年前に〇〇総合病院でパーキンソン病の診断。徐々に症状は進行。昨年7月に幻覚や体動困難で〇〇総合病院に入院。内服調整後に〇〇病院にリハビリ転院。その後、施設に入所。
先月から「壁から黒いものが出てくる」「誰かが私のご飯に何かを振りかけて嫌がらせをする」といった幻覚妄想が出現。特に、「 粉がふりかかっている 」という幻視は確信をもって話し、訂正困難である。
担当ケアマネさんがかかりつけ医に当院受診を打診し、連れて来られた。
(診察所見)
HDS-R:24
遅延再生:4
立方体模写:OK
時計描画:OK
IADL:3
改訂クリクトン尺度:16
Zarit:5
GDS:5
保続:なし
取り繕い:あり
病識:あり
迷子:なし
レビースコア:
rigid:右上肢 振戦なし
幻視:あり
ピックスコア:ー
FTLDセット:ー
頭部CT所見:円蓋部萎縮
介護保険:要介護4
胃切除:なし
歩行障害:小刻み
排尿障害:なし
易怒性:なし
傾眠:なし
(診断)
ATD:
DLB:
FTLD:
その他:
(考察)
猛烈なジスキネジアあり。明るく朗らかに笑い、PD感をあまり感じさせない。仮面様顔貌はなし。病初期のLーDOPAの効果の実感は凄かったとご自分で話す。
コムタンとマドパーを1Tずつ減量し、マドパーは分6とするよう紹介元に依頼。
当方からは抑肝散。処方預かりについては、現在訪問診療でがっつりと噛んでいるようなので困難かな。ケアマネさんも遠慮がち。連携でほどほどに。
抑肝散で効果不十分であればセレネース。その際にはセロクエルを減量中止に。
2週間後
抗パ剤減量に伴うPD症状悪化なし。午前中の動きが悪く、午後から調子があがるようだ。また、幻視や金縛りはかなり以前から認めていたようだ。金縛り時にはRLSもある様子。ビシフロールは考えておくか。以下は紹介元への情報提供書。
抑肝散2P2Xで、白い粉の幻視は以前よりも若干軽減したようです。今回から3P3Xに増量しましたので、低Kにご注意頂けたらと思います。
また、壁から出てくる幻視に変化はないとのことでしたので、眠前で少量セレネースを処方してみました。1週間継続し、1週間休薬。これで目立ったパーキンソニズムの悪化がないか、また幻視の軽減がないかを確認してみます。つきましては、次回貴院御処方から、セロクエルを12.5mgに減量して頂けましたら幸甚です。
以上ご報告申し上げます。今後ともどうぞよろしくお願いいたします。
2週間後
今回から処方引き継ぎ。連携を図りながらの微調整は、先方が困難と判断したようだ。
明らかな幻視の軽減とまではないようだが、抑肝散3P3Xとセレネースが処方されるようになって、スタッフから穏やかになっているとの評価が得られるようだ。
- セロクエルは終了し、セレネース0.375mgを定期に
- マドパー6Tを3Tにしてメネシット(100)2T追加する
- コムタンを6T→5Tに減量、夜間頻尿にウリトス
ノウリアストはいずれ減量中止に。
4週間後
幻視は減ってきているようだ。
また、明らかにジスキネジアは減っている。今回の診察中は一度も観察されず。そのことを息子さんに伝えると、「そう言えば・・・」と。
動きは全体的に遅くなったようだが、歩行の安定性はまずまず。
コムタンを今回は4Tに減量し、ノウリアストも0.5Tに。rigid増悪はないので、幻視対策にセレネースを0.75Tに増量。便秘にマグミット開始。
今回はサービスでグルタチオン点滴。1600+シチコリン250で。直後の歩行は左下肢の動きがスムーズに、スピードもアップしている印象。
泌尿器科からウリトスがかぶって処方になっている。五淋散も出ている。しかし頻尿は変わらないようだ。次回以降で当院処方のウリトスは止めるか。膀胱炎も重なってであればVitCは検討かな。
4週間後
診察の待ち時間でoffが始まった。表情が暗くなり、両下肢脱力がおき、声量も低下。明るい表情から、みるみるうちにパーキンソン顔貌へと変化していった。
- 両側rigid++
- メネシットの量は変えずに14時と16時で50mgずつに分散
- 食前でモサプリド
- 抑肝散を3Pから2Pに減量
- 幻視との折り合いは付いている
- ジスキネジアは完全に消失
- ノウリアスト終了に
- マグミットは下痢があり自己判断で中止している
- ウリトスは当院からは一旦中止、頻尿は以前ほどではない
次回は採血結果説明。
10日後
メネシットを分割して投与する方法で、うまくまとまったようだ。幻視もほぼ落ち着き、施設全体として改善を実感出来ているようだ。精神状態も安定していると。
元々、精神状態不安定が原因で、在宅を諦めて施設入所に至った経緯がある。それを理由に精神病院への入院も勧められていたのだと、ケアマネさんが教えてくれた。
マグミットがないと便秘を拗らせる。250x3に減量して継続。
セレネースの撤退時期は考えておこう。
2週間後
CM連絡票より
要介護3で通所介護利用中。幻覚幻視は改善され施設での生活も安定している。
夕方17時半~18時ごろよりOFFになる。夜間帯の頻回のコールは減少していて
以前のような気分の落ち込みが減っている。スタッフの介護度も下がり負担に感じることが少なくなってきている。(Ns〇〇記載)
4日後
午前中に2年ぶりに百貨店に。その疲れからか、診察中にoff出現。右に傾き表情が消えた。シチコリンを使ってみる。
ジスキネジアは完全に消失した。これ以上コムタンを減らすと、offが更に目立つようになるかな。
今回は処方維持。次回までに幻視がコントロールされていたら、セレネース減量を。
4週間後
今日は14時頃に突然offになったので診察に間に合わなかった。普段は17時から18時の間でoffが出やすい。
ジスキネジアはほぼ消失し、壁から人が現れたり食事に白い粉がかけられるといった幻視の訴えも、完全に消失。
左上肢はrigid++。歩行は今はスムーズだが方向転換時にぎこちなくなる。セレネースは0.5Tに減量。
マドパーを朝食後昼食後16時に、メネシットを10時に100mg、14時に50mg、夕食後に50mgと全体量は維持してタイミングを変える。マドパーの方が立ち上がりが早いかな。
泌尿器科で八味丸とウリトスが出ているが、今のところ効果の実感はない。
4週間後
最近、親戚が亡くなったことで、かなり気落ちしている。
本日13:30、突然offに。今日は線香をあげたりなど普段と違う行動をしたと。普段と違う行動をすると、offになりやすいのでは?と息子さんは見ているようだ。
診察室入室時の様子は、表情が硬く強ばっていた。両側でrigid著明。ただし、話をしているあいだに柔らかい表情となっていった。この変化は、本人含め皆が気づいた。
メネシットの分散で、18時辺りのoffが目立たなくなったと。また、セレネース減量に伴う幻視の再燃はないとのこと。セレネースは終了とする。排便は1日おきで今のところ不満はない。
初診から7ヶ月後
今日は久しぶりにジスキネジアを確認。ただし、本人は気づかない程度。
ハッキリと分かるoffはなくなったようだ。
セレネース中止に伴い、たまに子供や猫の毛が足に付いているといった幻視の訴えがあるも、許容範囲内だと。
泌尿器科での治療で目立った改善はないようで、今後は当院で工夫する。
ベタニスを25mgで。これに伴い、五淋散とブラダロンは終了とする。ウリトス再開と増量もどこかで考えるが、あまり追いかけすぎないように。
マグミットは抗パ剤への影響を考慮して食前に変更。
(現在の処方)
- 抑肝散 2P2X 昼夕食前
- マドパー3T 朝昼16時
- メネシット100 2T 10時に100mg 14時と17時に50mgずつ
- コムタン100 4T 毎食後 16時
- プルゼニド 2T1X眠前
- モサプリド 3T3X毎食前
- マグミット250 3T3X毎食前
- ベタニス25 1T1X夕食後
(最初の処方)
- ネキシウム20 1T1X夕
- セロクエル25 1T1X夕
- マドパー 6T6X 毎食後 起床時 10時 15時
- コムタン 6T6X 毎食後 起床時 10時 15時
- ノウリアスト20 1T1X朝食後
- アクトネル75 月に一回起床時
(引用終了)

HDS-Rは万遍なく少しずつ失点。透視立方体模写は拙劣。
水野 美邦
中外医学社
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