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刺激的なニュース。
単回投与、そして定位手術という侵襲性の低さが魅力
ヒト神経幹細胞(hNSC)製剤であるCTX-DPの単回脳内投与(hNSC2,000万個まで)は、有害事象を発現することなく神経学的機能の改善をもたらすことが認められた。
~中略~
研究グループは、脳梗塞発症後6~60ヵ月で障害が安定している60歳以上の男性(脳卒中重症度評価スケール[NIHSS]≧6、修正Rankinスケール[mRS]スコア2~4)を対象に、脳定位手術により同側被殻へCTX-DP(hNSC 200万、500万、1,000万および2,000万個)を単回注入し、臨床および脳画像データを2年間収集した。
~中略~
有害事象は、すべて施術や共存疾患に関連したもので、CTX-DPの投与に起因する免疫学的または細胞に関連した有害事象は確認されなかった。全例で投与前後のHLAは陰性であった。(上記リンクより引用。下線部は筆者による強調)
神経幹細胞とは、神経細胞(ニューロン)及びグリア細胞(ニューロンを支える細胞)へ分化する力を持った細胞のことである。
脳梗塞、脳出血、くも膜下出血の3つを併せて「脳卒中」と呼ぶが*1、脳卒中で神経細胞が損傷すると、麻痺や言語障害などの後遺症が残る。この神経細胞を再生させようという治療が、神経幹細胞療法である。
幹細胞療法では
- どのようにして、障害部位に効率的に幹細胞を届けるのか
- 幹細胞が癌化しないか
この2点が重要になる。
1については、「脳定位手術により」とある。脳定位手術とは
(大手前病院HPより引用)
このようなフレームを頭に装着して行う手術である。
通常は局所麻酔で行われるため、身体への負担は軽い。脳出血や脳腫瘍であれば、事前にフレームを装着した状態でCTやMRIを行って出血や腫瘍の箇所を3次元座標化し、その数値に基づいて穿刺針を慎重に脳内に挿入し、出血を取り除いたり腫瘍を採取したりする。
今回の研究では、全例で障害側(脳梗塞を起こした側)の被殻に幹細胞投与を行ったとある。原著論文を読めていないので想像なのだが、患者さん達は主に基底核梗塞の方達であったのだろうか。((記事内では、3例が皮質下梗塞とあった。基底核への幹細胞投与で、皮質下障害部位の神経細胞再生が得られるかは疑問。))。
2については、2年間の観察の中で施術や共存疾患に関連するもの以外の有害事象はなかったとのことなので、今のところクリア出来ているのだろう。ただし、2年を超えた長期経過はまだ分からない。無制限な細胞分化が脳腫瘍発生に繋がるリスクは、完全には否定しきれない。
認知症への応用は?
損傷を受けた神経細胞の修復ということから、「認知症に対しては使えないのか?」と考えた。脳卒中は、物理的に神経細胞が壊れてしまう病気だが、認知症は神経細胞が「変性」して障害を受ける病気である。両者は、正常な神経細胞が減ってしまう病気、という点で共通する。
神経幹細胞療法を認知症に応用しようと考えたとき、
- 認知症は、神経細胞の変性が広範にわたっている
- 折角神経細胞を再生しても、その細胞が変性していく可能性は?
この2つが問題になる。
アルツハイマー型認知症を例にとると、有名な海馬の萎縮(神経細胞の脱落)以外にも、頭頂葉も萎縮する。まさか、あちこちに定位脳手術で穿刺針を刺すわけにはいかないので、手術による幹細胞のデリバリーは非現実的である。
そこで自分が期待しているのは、以下の研究である。
治験薬の紹介 | 札幌医科大学附属病院 再生医療治験のお知らせ
この研究の経過報告をある学会のセミナーで聞いた事があるのだが、かなり期待出来るものであった。なかでも魅力的なのが「静脈内投与」という方法である。つまり点滴で出来る治療ということ。
2については、例えばフェルラ酸を併用することで生着した新たな神経細胞を保護できないだろうか?
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このヒト神経幹細胞療法は、脳卒中の治療に留まらず、認知症やパーキンソン病、大脳皮質基底核変性症などの神経変性疾患にも応用が利く可能性があり、今後の展開に期待している。