「供給すれば需要は産まれる」とは、いわゆるサプライサイド経済学の考えである。
サプライサイド経済学 - Wikipedia
供給し続ければ、需要は勝手に産まれ続けるのだろうか?
当然そのようなはずはない。その時点で存在しない需要は新たに作るしかないし、まだ高まっていない需要に対してはテコ入れが必要である。そのために行われるのが、「宣伝(広告)」。
旧来の製品でも十分な機能を持つにもかかわらず、良くわからない付加価値がついた新製品が生まれ続けるのは、現代の資本主義経済が、基本的にはサプライサイド経済学に基づいているからなのだろう。
宣伝は何も、コモディティ(日用品)に対してのみ行われるわけではない。
戦争や紛争を宣伝という側面から眺めると、違った景色が見えてくる。
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対立を煽り*1、闘争という人間の本能を利用して武器を供給し続ける武器商人は、永遠に稼ぎ続ける資本主義経済における勝者である。
残念なことではあるが、歴史が続く限り戦争や紛争が世界から無くなることはないだろう。
医療業界はどうだろうか?
宣伝で需要を創ろうとしていることに関しては、医療業界も同じである。
1990年代から始まった、いわゆる"うつ病キャンペーン"はまだ記憶に新しい。
製薬会社が「病」をつくり出し治療薬を売りさばく-論文捏造問題の背景にある肥大化したクスリ産業の闇--[橘玲の世界投資見聞録]|橘玲の世界投資見聞録 | 橘玲×ZAi ONLINE海外投資の歩き方 | ザイオンライン
「啓発活動で疾患を早期発見し、早期治療に繋げよう!」
こういったCMは、恐らく上記のような意図で一般的には捉えられているのかもしれない。
しかし、早めに病院を受診した結果、飲まずに済んでいたかもしれない抗うつ薬を飲む羽目になった人達は相当な数に昇るであろう。
儚げな木村多江の演技が、うつ病に対するイメージを増幅するのに一役買っているように思う。
これは第一三共の啓発CM。ちなみに同社は、ネキシウムという胃薬を販売している。
朝方の胸焼け症状から「逆流性食道炎かな?」と悩んでいる方であれば、「まずは夜の炭水化物摂取を止めてみたら?」と、自分であれば勧めてみる。コミカルな演出ではあるが、筧利夫が深刻な表情で言うほどのことではない。
そして、一時期テレビでよく見かけた以下のCM。
「認知症の新しい治療で、お婆ちゃんが笑った!」
そのような治療があるのなら、是非試してみたいと思わせるには十分である。恐るべし樹木希林。そして、このCMを提供する第一三共は、抗認知症薬の「メマリー」を販売している。
不安が昂じると、人は購買意欲を刺激される
人は不安な気持ちになると、何か行動することでその不安を解消しようとするものである。
それは例えば食事や買い物といった消費行動で現れることが多いが、体調不良を感じて病院を受診することもまた、医療サービスを受けるという消費行動と考えられる。
人の購買意欲を広告で刺激し、商品を購入させることで成り立っているのが現代資本主義経済。
疾患啓発の体をとってはいるが、製薬会社の広告も何らかの購買意欲を煽っていると考えられる。それは、普通に考えれば"薬"であろう。
CMを視た視聴者を「早めに病院に行かなきゃ」という気持ちにさせることに成功しさえすれば、その先には"薬の処方"が約束されたようなものである*2。
これは穿った見方をすれば、"病気への不安を煽って薬を買わせている"とも言える訳だが、皆さんはどう思うだろうか?
www.ninchi-shou.com
「(薬を)供給すれば、需要(病気)は産まれる」という論理で製薬会社が動いているかどうかは分からないが、そのことと視聴者が自衛することは別の話なので、敢えて書いてみた。
「病気喧伝」ということに、我々はもっと敏感でなくてはならないと思う。
病気喧伝 - Wikipedia
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