今回紹介するのは、施設入所中の80代男性MKさん。
同伴した施設スタッフ曰く、「易怒性が高く、どうにも集団生活にフィット出来ず対応に苦慮している」とのことだった。MKさんはこれまでにうつ病やアルツハイマー型認知症などの診断を受けていたが、自分が診察して感じた病型は前頭側頭型認知症(≒ピック病)であった。
頭部CTで両側側頭葉内側の萎縮は年齢を大きく超えることはなかったものの、前頭葉は強く萎縮していたので、諸々の症状と照らし合わせて前頭側頭型認知症かなと判断した。
抗認知症薬はかつて一時期使われてはいたものの、効果を感じられないとのことで終了となっていた。賢明な判断だろう。抗認知症薬にこだわり続けた結果、深みに嵌まっていく非アルツハイマー型認知症の患者さんは数多く存在する。
一回の診察と投薬で「申し分なし」と施設スタッフから太鼓判を貰い紹介元にバトンタッチとなったのだが、余計な薬が入っていなかったこともまた、速やかに改善してくれた理由のひとつに挙げられるだろう。
80代男性 前頭側頭型認知症
初診時
(現病歴)
元々穏やかだったが、2年ほど前から粗暴になり入居中の施設スタッフや他入居者に多大な迷惑をかけるようになった。〇〇クリニックからの紹介。
酸棗仁湯、抑肝散、ジプレキサ、セロクエル、リスパダールの処方歴あるも、いずれも効果はなかった様子だと。用量までは不明。現在はプロビタン25mgを定期服用中。
(診察所見)
HDS-R:12
遅延再生:1
立方体模写:-
時計描画テスト:-
IADL:0
改訂クリクトン尺度:24
Zarit:6
GDS:不可
保続:なし
取り繕い:なし
病識:なし
迷子:なし
DLB中核症状: 1/4
rigid:なし
幻視:なし
FTD中核症状: 1/6
語義失語:なし
頭部CT所見:わずかに左側有意萎縮、両側前頭葉萎縮著明
介護保険:要介護3
胃切除:なし
歩行障害:手引き歩行
排尿障害:なし
易怒性:ありあり
過度の傾眠:なし
(診断)
ATD:
DLB:
FTLD:〇
その他:
(考察)
見ひらき気味の眼、熟考しない即答性、壁を叩き続ける常同性、FTDだろう。スコアは1/6ではあるが。
施設としては、他入居者への影響を最も気にしている。
プロビタン25mgは鎮静的に効いているが、血圧下降をきたしているようだ。頓用にしてウインタミン朝4mg-夕6mgを開始。睡眠対策は夕食後にロゼレム1錠+眠前にニトラゼパム2.5mg。程よく落ち着けば紹介元に。
2週間後
本人「食事はおいしい!夜は眠れない!」
施設に面会に訪れる娘さん曰く、「日中落ち着いたと思う」とのこと。以前は面会中に叩かれていたが、今はそれがなくなったと。
同伴スタッフは、
「前と全然違う。表情からして違う。プロビタンを使うことは一回もなく、18時から朝6時までぐっすり休んで日中傾眠もありません。声を荒げる頻度は激減し、まるで別人のようです。」
と評価。
著効でいいだろう。
紹介元にバトンタッチ。救援成功。
(最終処方)
- ウインタミン 朝4mg 夕6mg
- ロゼレム(8)1T1X夕食後
- ニトラゼパム(5)0.5T1X眠前
(引用終了)
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