鹿児島認知症ブログ

鹿児島でコウノメソッドや糖質制限を実践している脳神経外科医のブログ

「アルツハイマー病を血液検査で早期発見」というニュース。

 国立長寿医療研究センターと島津製作所の研究から。

 

www.nikkei.com

アルツハイマー病の原因となる物質を血液中から90%程度の精度で検出する技術を確立

 

国立長寿医療研究センターと島津製作所は、アルツハイマー病の原因となる物質を血液中から90%程度の精度で検出する技術を確立した。島津製作所の田中耕一シニアフェローがノーベル賞を受賞した質量分析技術で調べる。脳内に原因物質が異常に蓄積されているか否かが早い段階で分かり、治療薬や予防薬開発につながる。

 

~中略~

 

日本とオーストラリアの患者などで分析した。陽電子放射断層撮影装置(PET)で脳内を調べた場合と比べ、新手法の検出精度は90%程度と高かった。(上記記事より引用)

 

 

今朝のニュースでも取り上げられており、注目度が高そうな今回の報告。

 

「採血で、アミロイドβの存在をPETと同レベルで検出出来た」であれば定性検査だろうし、「採血で、アミロイドβがどれぐらいの量たまっているのか、アルツハイマー患者のPET画像から推測出来る蓄積量と高い相関を示した」であれば、定量検査だろう。

 

同研究チームの以前の報告では、

 

「新規発見8種類を含む血液中のAβ関連ペプチド同時検出22種類」の中で、今回 2種類の比率(割り算の値)が 脳内アミロイド蓄積の進行と比例関係が見られ、結果として「アルツハイマー病変の発症前検出に有用と考えられる血液バイオマーカーを 質量分析システムを用いて発見」(下記記事より引用。赤文字強調は筆者によるもの。) 

 

とあるので、定量的な要素を含んだ定性検査なのかなと思った。

 

www.shimadzu.co.jp

 

アルツハイマー患者は、健常人と比較して脳内にアミロイドβが10~15倍蓄積しているといわれている。

 

しかし、アミロイドβが蓄積したら必ずアルツハイマー病を発症する訳ではない。

 

また、どれぐらいの量のアミロイドβが蓄積したらアルツハイマー病を発症するのか、明確なことは分かっていない。

 

死後の解剖で病理組織診断はアルツハイマー病であったにも関わらず、生前は認知症の徴候が見られなかった修道女の例が象徴するように、 アルツハイマー病の発症には、アミロイドβの蓄積以外にも複数の要素が関与しているのは明らかである。

 

アミロイドβを消去する新薬の開発が軒並み失敗している現状で、精度の高い発症前検査の開発が先行したことには若干の懸念を感じなくもない。

 

果たして、「自分が将来アルツハイマー病になるかもしれない」と告知された人は、そこからの人生を平静に過ごせるのだろうか?

 

人は、そこまで強い生き物ではないと思うのだが。

 

備えることが出来るかもしれないという点はメリットかもしれないが、確実に将来への不安を抱え込むことになる。これは明確なデメリットである。そこから、二次性にうつ病を発症することすらあると思う。

 

さし当たって、もし自分の臨床で利用出来るようになったとしたら、既に発症している認知症患者さんの病型診断の補助には使ってみたい。

 

ただ、もし患者さん側からご希望があったとしても、認知症の要素をほぼ認めないような方達には積極的にお勧めしたくはない。

 

世の中には、ブラックボックスのままでよいことはある。決定的な治療薬がない状況では、特にそう思う。*1

 

www.ninchi-shou.com

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Checking Blood Sample flickr photo by National Eye Institute shared under a Creative Commons (BY) license

*1:「分からないから何もしない」ではない。適度な運動や過剰な糖質摂取を控えたりなど、今からでも出来ることは沢山ある。簡単に出来ることをするために、必ずしも検査が必要だとは思わない、という意味である。