鹿児島認知症ブログ

鹿児島でコウノメソッドや糖質制限を実践している脳神経外科医のブログ

【症例報告】貧血治療を優先したアルツハイマー型認知症の女性。今後の課題は水頭症への介入。

 

娘さんと地域包括支援センタースタッフに伴われて当院を受診された70代後半の女性Aさんは、会話が取り繕いに満ち見るからにアルツハイマー的であった。

 

顔色不良も気になったので採血をしたところ、重度の貧血が判明したため他院に入院を依頼した。幸いガンなど重篤な疾患はなく、輸血と鉄剤内服で貧血は改善した。

 

お会いして1年が経過したが、初診時よりも認知機能は向上している。ただし、頭部画像および臨床症状に水頭症らしさが加わりつつある。

 

この1年間に行われた治療は貧血に対してのみで、抗認知症薬やサプリメントなどは使用していない。デイサービスも使えていない。定期的にお会いしているが、言動は取り繕いが多くアルツハイマー的という印象も相変わらずである。

 

娘さんは初めのうちこそ「早く抗認知症薬を飲ませたい」という焦りが強く見受けられたが、現在は「薬なしでも、今ぐらいならまあいいのかな・・・」と冷静になっている。

 

今後の課題は、デイサービスへの参加と水頭症への治療介入だが、果たしてどうなるか。経験上、こういう場合は何かの「はずみ」を待つしかないことが多いのだが。

 

70代女性 アルツハイマー型認知症

 

初診時

 

娘さんと包括スタッフと来院。

(既往歴)
左コーレス骨折
(現病歴)

 

独居で病院嫌い。

 

5ヶ月前にグラウンドゴルフ中に熱中症症状があった。以降、徐々に引きこもりがちになった。2ヶ月前からは、畳を汚すほどの尿漏れがあるも、パッド使用は嫌がっている。入浴も嫌がり、現在1ヶ月入浴していない。

 

車庫のシャッターの開け方が分からなくなっているため、先月からは運転させていないと。

 

(診察所見)
HDS-R:13
遅延再生:0
立方体模写:可
時計描画テスト:可
IADL:5
改訂クリクトン尺度:21
Zarit:14
GDS:2
保続:なし
取り繕い:ありあり
病識:軽度あり
迷子:なし
DLB中核症状: 1/4
rigid:なし
幻視:なし
FTD中核症状: 1/6
語義失語:なし
頭部CT所見:海馬萎縮++ 若干左右差あり左>右
介護保険:申請これから
胃切除:なし
歩行障害:家族は心配している
排尿障害:尿漏れ+++
易怒性:軽度
過度の傾眠:なし

(診断)
ATD:◎
DLB:
FTLD:
その他:

(考察)

 

尿漏れは器質的原因あり?膀胱エコーはしてみるべきかな。次回検尿と一緒に軽くご案内してみようか。拒否が強そうなので無理はせずに。CTで明らかなDESH(水頭症画像所見)は認めないが。

 

顔色真っ白。採血はしておく。

 

多弁で話し好き、取り繕い多発の典型的ATDかな。介護申請をしてデイ利用を優先的に進める。独居であり投薬は慎重に。家族ご希望は尿対策なのか。

 

翌日

 

血圧122/48脈84
SPO2 96% 診察室から待合室の移動で動悸、息切れ(+)
顔色不良、両下肢エデマ(++)手指冷感あり。
〇〇病院 連携室MSW〇〇さんへ入院希望の連絡。(Ns〇〇記載)

 

  • 血色素量(HB):4.8g/dl
  • MCV:56.1fl
  • 赤血球状態:大小不同
  • フェリチン定量:6.6ng/ml

 

重度の鉄欠乏貧血。
〇〇病院に輸血及び消化器精査を依頼。

 

2ヶ月後

 

〇〇病院退院前のHbは10.1まで回復。同時にピロリ除菌を行ったとのこと。
再判定はどうする?呼気試験?

 

フェロミア50mgをフェルム100mgに変更する。

デイは一度見学に行き拒否。グラウンドゴルフは車の運転をしなくなった今は継続困難。人と関わり続けましょうね。あまりうるさく言わない方がいいのかな。

 

1ヶ月後

 

著変無く経過中。

 

日課として、屋内トレーニングとしての階段昇降を正の字でカレンダーに記録していくこと、出かけることを設定。


デイの拒否が強い。ケアマネからは「先生からもプッシュして!」と電話があった。無理強いは出来ないのだが。


声掛けは続けていくが、話の常同性と取り繕いは強烈なので難しいだろう。

 

次回は採血とHDSR。

 

3ヶ月後

 

  • HDSR:17(3)
  • 透視立方体:OK
  • 時計描写:OKだが12時に余計な針

 

常にこちらの話の腰を折りながら、常同的に同じ話を繰り返す。
半年前より明らかに頬に赤みが差し、HDSRは4点上昇している。鉄補充効果だろう。

 

圧迫骨折で入院していたが、特に問題行動はなかったと。今は痛みもない。
デイには相変わらず行かず、風呂に入らないのが娘さんの悩み。今日は久しぶりに受診前に風呂に入ってきたのだと。そういう配慮はあるようだ。

 

自宅外へゴミ捨てには行けている。

 

フェルム継続。フェリチンが100を上回ったらフェルムは中止して、少量で抗認知症薬を使用するのか改めて本人家族と検討を。恐らく不要だろうが。ほんのり香るADHD要素を忘れずに。

 

次回は採血結果説明。

 

2ヶ月後

 

採血結果説明。

 

  • 血色素量(HB):10.9g/dl
  • フェリチン定量:66.3ng/ml

 

あともう一息かな。娘さん的には、現在大きなお困り事はなしと。風呂については相変わらずのようだが。

 

処方維持。

 

2ヶ月後

 

著変無く経過中につき処方維持。


次々回で採血、HDSR、頭部CTを。「車の卒業は寂しかったが、もう慣れた」と。

 

2ヶ月後

 

「すみません、ありがとう、お陰様で」を繰り返す。

 

どのような話に対しても、同じ言葉で返答する。ATD的。ただし目だった悪化はない。

 

今日は採血。フェロムは30C残ありと。恐らく飲みきって終了かな。明日娘さんが結果説明を聞きに来る。

 

翌日

 

採血結果説明。

 

  • 血色素量(HB):11.5g/dl
  • フェリチン定量:103.8ng/ml

 

今あるフェルムを飲みきって終了でいいだろう。

 

初診から1年後

 

  • HDSR:19(1)
  • 透視立方体:OK
  • ダブルペンタゴン:OK
  • 時計描写:OK 中心偏倚
  • 中心線:OK

 

生活は維持されている。HDS-Rは初診時より6点上昇。ここが本来の力かな。
デイは2箇所見学に行くも、やはり嫌がり続かず。

 

頭部CTで頭頂脳溝描出不良を検出。頻尿尿失禁増加はあるようだ。自覚もしている。
正常圧水頭症の資料をお渡しした。ご希望があればタップテスト紹介を。

 

次回は半年後でいいかな。娘さんが「介護の心得」を購入。

 

(引用終了)

 

頭頂脳溝描出不良の出現

□で囲った部分の濃厚描出の変化に注目