鹿児島認知症ブログ

鹿児島でコウノメソッドや糖質制限を実践している脳神経外科医のブログ

87歳女性、アルツハイマー型認知症と前頭側頭葉変性症の両天秤で経過観察中。

 脳萎縮の左右差が目立ってきた時に考えるのは前頭側頭葉変性症(FTLD)だが、臨床症状としてはむしろアルツハイマー型認知症(ATD)の症状が目立ってきた、という方である。幸い、目立った周辺症状なく経過出来ている。

87歳女性 アルツハイマー型認知症

 

初診時

 

(既往歴)

高血圧と糖尿病で治療中 

(現病歴)

2ヶ月ほど前から息子さんが同居。
昨年からもの忘れが気になりだし、最近はだいぶ進んだ感じと。

(診察所見)

HDS-R:13
遅延再生:3 ヒントで思い出す
立方体模写:不可
時計描画:不可
クリクトン尺度:13
保続:あり
取り繕い:なし
病識:あり
迷子:なし
レビースコア:0
rigid:なし
幻視:なし
ピックスコア:3.5
頭部CT左右差:左有意
介護保険:要支援2
胃切除:なし
歩行障害:なし
排尿障害:なし
易怒性:なし

(診断)
ATD:〇
DLB:
FTLD:△
MCI:
その他:

にこにこ朗らかで礼節をたもつ。膝こすりあり。
語義失語は目立つ。歯ブラシや鉛筆など言えない。動作で示す。
ATD若しくはFTLD-SDで考え、リバスチグミン処方。DMで甘いもの大好き、以前から。

 

1ヶ月後

 

リバスタッチは背中で掻痒感あり、現在は上腕に貼っていると。
自覚的他覚的に今のところ変化なし。

掻痒感がなくなるまでは4.5mgで継続。

 

2ヶ月後

 

ちょっと物忘れが進んだかな?と息子さん。
掻痒感はまだ強いようだ。

フルメタローションとヒルドイドで対策。
ダメならレミニールかな。

 

3ヶ月後

 

まずまずの経過と。掻痒感は軽減。足底貼付も指示。
軟膏の残薬は次回確認を。

パッチ増量は考えておこう。

 

5ヶ月後

 

様子をみる限り穏やかである。
夜間に一回起きて、なにか食べているようだ。

家族対応次第。基本的には穏やか。
当面処方維持かな。

 

7ヶ月後

 

『男の人が勝手に入ってきて、出ていった』

幻視?ただし、一回こっきり。
診察時の様子はいつも通り。

 

これは様子見で。

 

8ヶ月後

 

掻痒感は相変わらずと。
DMの薬4種類、A1cは9.2と不良。
内服は全て朝。もしリバスタッチから替えるならアリセプトかレミニールかな。

 

初診から1年

 

初診時HDSR13点 遅延再生3点
ATD or SDの印象でリバスタッチ4.5mgで経過観察中

直近のA1cは8と以前より改善。その他著変無く経過中。
にこにこ穏やか、疎通はまずまず。

 

  • 頭部CTで左側頭極萎縮進行
  • HDSRは9/30、遅延再生0/6
  • 保続多い
  • 透視立方体は前回よりも上手

 

ATDらしさがハッキリしてきたが、周辺症状はない

リバスタッチは足底貼付もしてはいるが、掻痒感対策でピュアバリアを開始。

 

(引用終了)

 

常に別のタイプの認知症の可能性を念頭に置いておけば、薬で無理しすぎることが無くなる

 

初診時の印象が、「アルツハイマー?それとも意味性認知症?」という方。頭部CTがわずかに左側有意な萎縮だったこともあり、ピュアなATDと考えて薬で押すことは当初から考えていなかった。

 

側頭極の萎縮進行

 

初診時と一年後の頭部CTを比較したが、ほんのわずか左側萎縮が進行したように感じた。しかし、保続や遅延再生の低下などのアルツハイマーらしさが増えていた。

 

脳萎縮が臨床症状の全てを説明するわけではないが、

 

「萎縮が先行して、症状が後から追いかけてくるかもしれない」

 

と考えておくことは重要である。つまり、将来的な「ピック化」の可能性を忘れない、ということ。

 

幸い今のところ、この方にはほぼ周辺症状がない。

 

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長谷川式の点数低下は中核症状進行を示すと言えるだろうが、ここを改善させようと抗認知症薬を増やした場合、あとで「ピック化」が起きた場合に厄介である。

 

ピック化は起きないかもしれないが、「起きるかも?」と考えておくと、抗認知症薬の過量投与は自ずと減るものである。